情報通信政策研究
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論文(査読付)
メタバース用途のアバター取引に伴う利益衝突に関する法的考察
クリエイターと ユーザー の意思を尊重するために
あしやま ひろこ
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2022 年 6 巻 1 号 p. 111-132

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要旨

現実社会と同じような活動ができる仮想空間としての「メタバース」では、ユーザーは3Dデータ等を自己の「アバター」、すなわち実質的な身体として用いながら生活することとなる。現行のメタバースの中でも自由度が高くユーザーも多いとされるソーシャルVRサービスである「VRChat」では、日本語ユーザーへの既存の調査から、多くのユーザーはアバター用のデータを他者から購入し、加工するかそのままの形で自己のアバターとして用いることが示される。また、ユーザーから人気のある市販アバターの利用規約を分析したところ、殆どで「政治活動」および「宗教活動」が禁止されていることがわかった。

この制限は私的自治に関する判例や著作権法、実社会における一般的な契約等に照らしても合理性があると考えられるため、アバターの流通を市場経済だけに任せた場合、多くのユーザーはアバターを購入して利用する場合に、参政権や信教の自由に関連した行為がメタバース上で制約を受けることとなる。しかしこの問題を解消するために、数多く存在する売り手(クリエイター)の意に反して、当該制限を無効とさせるように国家が強制することは解決方法として適切とは言いがたい。精神的自由は国家権力の介入を許さないことが本質であり、公共の福祉による制約は反道徳的・反社会的な結果を生ずる場合にその防止に最小限度において認められる性質のもので、アバターは原理的には誰もが制作可能である以上は利用者の参政権や信教の自由は完全にまでは否定されているわけではなく、クリエイターの思想・良心の自由を一方的に否定することは適当ではないと考えられるためである。また、このような状況でアバターに関する財産権の一部を否定する観点についても、社会全体の利益には結びつかないとも考える。

本稿ではこの利益の衝突とでもいえる問題の解決策として、広く国民に対してアバターを自ら作るための技能を習得できるような教育機会の提供と、その手段の提供を保障するという方法を提案する。利用者側が自らアバターを創作できないために他者から購入せざるを得ないという状況こそが根本的な課題なのであるからして、利用者が自らアバターを制作できる状況を国が保障できれば先の問題は解決されると考えられるためである。

アバターを自ら作ることができる技能を得られる機会と手段が国民に保障されれば、アバターの売買における私的自治の尊重に対する正当性がより担保され、結果としてクリエイターによる創作文化や経済活動の発展にも寄与するものと考えられる。

Translated Abstract

In the metaverse, users treat their avatars as the equivalent of their physical bodies. In "VRChat", a typical social VR service, it is common to see users purchase and use avatars from creators. It was also found that, "political" and "religious" activities are prohibited by the terms of use of the most popular avatars. These restrictions can be considered reasonable in light of precedents regarding private autonomy, copyright law, and general contracts in the real world. Therefore, many users are restricted in their activities related to suffrage and religious freedom in the metaverse. However, it would be inappropriate to solve the issues by simply invalidating such restrictions, as it is against the will of the creators. Since everyone has the freedom to create their own avatar in principle, and hence the right to suffrage and freedom of religion of those who use avatars are not entirely denied. And it is also because the absence of intervention by government power is important for the freedom of thought, conscience, expression, and religion. Regarding this issue of conflict of interests, the author proposes that the governments shall provide proper tools and guarantee opportunities on acquiring skills to their citizens, so they would be able to create their own avatars. If the users are able to create their own avatars, the fundamental problem could be solved regarding this issue. If this idea comes true, respect for private autonomy in avatar trading will be legitimized, and creators shall be able to further develop their creative and economic activities.

1.はじめに

人々が実社会と同じような暮らしができるような仮想空間としての「メタバース」では、ユーザーは実質的な自己の身体として「アバター」を利用し、これを自らの身体のようにして生活を行う。本論はメタバース上での私生活における基本的かつ重要な要素であるアバターについて、これを売買する際に生じる、クリエイターを中心とした権利者の著作者人格権や著作権の保護と、アバター利用者の人権の保障に関する問題を取り扱う。

その問題とは、主にクリエイターからなる販売者の利益と、アバター利用者の利益の衝突である。アバターの売り手はアバターの利用方法に一定の制限を加える場合があり、市販されるアバターでは例えば政治活動や宗教活動などのような特定の行為が制限されることが常である。しかし、制限されたアバターの流通が市場において大多数を占めるとすると、多くの場合に利用者は、憲法で保障されているような参政権や信教の自由の観点を含めて、現実社会と同じような自由な活動をメタバースで行うことができなくなってしまう。

これについて、本論では私的自治の原則から販売者によるアバターに対する制限が自由になされるべきであるという前提を示したうえで、国家はクリエイターの著作者人格権や著作権を保護しつつも、利用者の人権を保障するためどうしたら良いのかについての考察を行い、教育等によるアバター作成のための技能習得の機会とアバターを制作する手段を国家が国民に提供する方法が解決方法の一つとして考えられることを示す。

1.2.本稿で取り扱うメタバースのスコープ

まず、本論で取り扱うメタバースについての定義と、具体的にはどのようなサービスを念頭に置くべきかを検討する。

日本バーチャルリアリティ学会によって2011年に発行された書籍『バーチャルリアリティ学』においては、メタバースはサイバースペース(電脳世界)やサイバー世界において「3次元のシミュレーション空間(環境)を持つ」「自己投射性のためのオブジェクト(アバタ2)が存在する」「複数のアバタが、同一の3次元空間を共有することができる」「空間内に、オブジェクト(アイテム)を創造することができる」という4つの条件を満たすものと定義されている3

2022年に日本のCG業界専門雑誌の『CGWORLD』にてメタバースが特集された際に、VR開発者の桜花一門はメタバースを「人々が集まるSNSの次の場所」「3DCG+ボイスチャットが必須」「UGC4か非UGCかは問わない」「デバイスもVR、AR、モニタは問わない」を要素として定義した。また桜花はUGCコンテンツが気軽にアップロードできるようになれば、UGC方面に傾いたメタバースが発展するだろうとの見解を示した5

しかし、これらの定義だけではメタバースは何らかの目的が設定されたゲームなのか、それともSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)なのか、行動に規範があるのか、ユーザーに自主・自律性があるのかまでは定まっていない。つまるところ現在は、ゲームソフトもSNSサービスも等しくメタバースの一種として取り扱われている状況である6

本論では、その中でもリアルな世界での営為全般が仮想空間においても実施することができるような自由度を持ち、将来的にリアルな社会の営為が仮想空間に移行し得るようなサービスを想定したいと考える。かつてインターネットが世の中に登場した際には、当初は限定的であった利用方法は徐々に拡大し、今日においてはもはや「ユビキタス」といった語が使われることが無くなる程度には社会全体がインターネットと融合したことを想定すれば、その方が意義があると思われるためである。

したがって、本論では先に示された要素を備えつつ、ユーザーの自由度が高く(コンテンツでいえばUGCが主体である)、特定の目的が与えられるよりもむしろユーザー自らが利用目的を自律的に考えられるようなサービスについて考察したいと考える。特に、日本バーチャルリアリティ学会の定義において2回もその語が登場したように、仮想空間におけるユーザー自身の実質的な身体であるところのアバターの重要性は相当に高いと考えられるため、アバター選択の自由度が高いものを想定したい。

これに合致するような具体的な現行のサービスを挙げるとするならば、主要なサービスのうちアバターの自由度が他のサービスと比較して抜群に高く7、全般的なコンテンツがUGCに依拠しているものは米国のVRChat社が運営する「VRChat8」である9。VRChatはゲームではなく、ソーシャルVR10と呼ばれるサービスの一種であり、3D空間上で誰かとコミュニケーションを取るためのものであり、サービス提供者からユーザーに対して特定の目的が与えられておらず、ユーザーの自主性に任されている。

2022年5月31日に発表されたTony LewisによるVRChatユーザー数推移の分析では、全世界で340万人程度のユーザーがおり、日本人は24万人から31万人程度と推定されている。また全世界の同時接続数は最大で8.5万人程度、最低で2万人程度と推定され、デスクトップモード(VR機器を使わないユーザー)を含めたアクティブユーザー数は、他の主要なソーシャルVRサービスと比較して10から100倍程度高いと指摘されている11

したがって、本論ではVRChatを念頭においてメタバースを考察することとしたい。

1.3.アバター売買の契約関係に着目する意義

日本バーチャルリアリティ学会が示した「メタバース」の定義において「アバタ(アバター)」という語が特徴的に2回登場しているように、アバターはメタバースにおける重要な要素である。すでに実用化されている代表的なメタバースのサービスにおいても、実際にユーザーはアバターとよばれる仮想的な身体を用いて生活ないしは活動をしている12。特にVRChatのようにUGCに主軸を置いたサービスでは、ユーザーは自らが任意のアバターをアップロードする事が可能である。また、メタバースにおけるアバターの用いられ方を考えてみると、それは映像制作や画像制作の目的物として用いられるのではなく、そこで生活するために用いられているのであるからして、描かれたものとしての表象ではなくその利用者本人の実質的な身体として捉えたほうが適当だろう。

特定のサービスとは独立して保有され、様々に活用できる汎用的なアバターのデータは、メタバースが普及し続けるかぎり資産的な価値を有するとも指摘され13、今後メタバースサービスの利活用が促進されるに従い重要性が増していくことが予期される14。つまり、アバターはメタバースサービスをユーザーが利用するうえで、実質的な本人の身体そのものでありアイデンティティの基礎的な要素をなすと同時に、複数のプラットフォームでの利用ができるようなポータビリティ性がある資産でもある。

SF作品の世界においては、2009年に公開された細田守監督作品の映画「サマーウォーズ」では、老若男女が仮想空間内においてアバターを用いてコミュニケーションする様子が描かれていた。現在のメタバースはまだ限られたユーザーの利用にとどまるものの、Facebook社が2021年10月に社名をMeta(Meta Platforms)に変更しメタバース関連に巨額の投資を行っていることからも、当該映画作品のように誰もが仮想空間上でアバターを用いて生活する未来が到来する可能性を完全に否定することはできないだろう。

しかし、「サマーウォーズ」に限らずアバター社会を描いたSF作品では、多くの場合にある視点が欠落しており、また現実のメタバースサービスにおいても、問題が大きく顕在化していないものの、問題を先取りして観点整理を行うべき課題が存在していると筆者は考えている。それはアバターの著作物性に起因するアバター販売者の利益の保護と、利用者の人権の保障についての衝突である。

本論で取り扱うメタバースは3D空間を想定しているため、アバターは多くの場合は3Dモデルの形式で作成されたデータである。3Dモデルは「美術の著作物」に該当する可能性が非常に高いため、著作物として取り扱うことが適当であろう15。またアバターの利用者に関していえば、例えばVRChatでは多くのユーザーがアバターを購入して利用していることが既存の調査から示唆されている16

しかしながら、他者から特段の取り決めをせずにアバターのデータを単に譲り受けただけでは、著作権は移転せず、また私的使用を超えるような利用の許諾が与えられるわけでもない。それでも当事者間の合理的な意思を推測すれば、少なくともローカル環境下でのデータの閲覧は認められるだろうが、他方では利用者がアバターをアレンジしたものを公表することはアバターの「翻案」(著作権法27条)に該当する可能性が高く、またそもそもアバターをWEB上のメタバースサービスにアップロードする行為そのものが、私的使用の範囲を超えた「複製」(同法21条)や「公衆送信」(同法23条)に該当する可能性があるものの許諾を得ているのかは定かではない。つまり、購入したアバターを自己のアバターとして用いるには、著作権者と利用者の間での合意が必要になるのである。

アバターデータの売買では、著作権の移転も含めた契約がなされるケースもあれば、単なる使用許諾がなされるケースもあり、契約によって権利の取り決めはまさにケースバイケースである。ただし、多くの顧客に対して広くアバターを販売するような場合は、画一的な利用規約(定型約款)が示されることが多く、購入者はその利用規約に従うこととなる。なお、アバターを購入して利用する人について、多くはいわゆるワンオフと呼ばれる特注品ではなく、市販されるモデルを利用しているものと考えられる17

したがって、アバターを他者から購入した場合は、そこで示される契約書や利用規約に反した行動がメタバース上でできないのである。

1.4.国家によるなんらかの解決の必要性

近代法原理の特徴について、たとえば最初の近代市民法典とされるフランス民法典ではすべての人間が自由な権利主体であるという建前があり、身分や団体ごとに異なる具体的・個別的権利の集積としての前近代法と区別される18。この近代法の考えでは、一人の人間が持つ身体や人格は固有で代替不能であることが言外の前提となっているだろう。

しかし、メタバース空間においては実質的にその身体と同等の価値や働きをするアバターは他者から購入されることが一般的であり19、他者の著作物である以上は契約を別途結ばない限りは全ての権利は利用者の側には存在しない。

特に「政治活動」や「宗教活動」については追って示す通り、人気上位の市販アバターの殆どで禁止されており、特定の政党を応援するような活動をしたり、特定の宗教の教義に基づく行為をしたりすることができないなど、メタバース上での参政権や信教の自由に制約が発生し得る状況である。しかも、同一性保持権(著作権法20条)や名誉声望保持権(同法113条11項)等の著作者人格権は私的使用の場合でも制限を受けるものではないため、著作者人格権に基づいてアバターを用いた政治活動や宗教活動を禁止することは、プライベートな利用にも効果を生じるものである。また、権利者がその著作物の財産的価値や著作者人格権を保護するために、アバターの利用方法に一定の制限を掛けることは、追って述べるとおり一定の合理性があると考えられ、権利者の人権を守るためにそのような制限を設けた契約も相当程度許容され得るだろう。

また、市販品ではないワンオフのアバターの売買であれば著作権の譲渡も含めた一切の利用の許諾を前提とした交渉も可能であり、一切の利用の自由が認められるような契約をした場合の利用者は現実世界と同じような自由を得られるが、そのためにはアバターの購入に際して相応の対価を支払う必要がある。

しかしこれを単に私人間の問題として放置してしまえば、例えば、あらゆる利用方法の許諾を受けるような形でのワンオフアバターを購入できるような財力を持つ者と、持たざる者では事実上メタバース上での人権に大きな差が生まれてしまう。現実空間においても財力によって、例えば運賃を払えるか否かによる移動の自由や、画材を購入できるかといった表現の自由の行使においての格差は存在するものの、当人の工夫によって代替手段を検討することも可能であるし、個人でできる範囲の事であれば、例えば知人に政治政党の宣伝をしたり、個人的に祈りの儀式をするなどのような行為への制約までは生じない。

対してアバターの場合は、特定の行為への利用を包括的に禁止することが可能であり、当該アバターを使う限りにおいては代替方法の検討も不能となってしまうという、従来のリアルな身体での生活ではあまり発生しなかった人権上の問題が生じてしまう。また、制約の無いアバターを探して用いれば解決するかといえば、選択肢が限られるために本人の意に反したアバターを用いることになったり、クオリティの差などによってアバターの容姿による差別や不都合が生じたり、あるいは多くの利用者が同じアバターを利用することになってしまい、社会の多様性が失われてしまう可能性もある。

近代法としての憲法が規定している国家による国民の人権の保障は、リアルな人間の身体は交換や代替がなされないことを前提としていたが、メタバースにおいては実質的な身体としてのアバターは交換され得るうえに他者から与えられ得る状況である。そのため、メタバースが仮に現実の社会と同様の存在となり、アバターの流通をすべて市場原理に委ね続けた場合には、国家が国民全体に対して人権を保障している状況とは言い難い状況になってしまうのではないかと筆者は考える。

この問題について、現在市販されているアバターに対して設定されている利用規約を定量的に分析してどのような課題が生じる可能性があるかを示した上で、そこで起きる得る不平等や利益の衝突に関する課題の解決方法についてを考察したい。

なお、本論では特定のサービスに依拠しないアバターの売買について着目することとしたため、メタバースサービスの運営者による規制については論じない。

2.考察対象の概況

2.1.考察対象としてのメタバースサービス・アバター売買プラットフォーム

ここからはより具体的な考察をしていきたい。本論で論じるメタバースのスコープは、アバターの選定を含むユーザーの自由度が高く、特定の目的が与えられるよりはユーザー自らがその目的そのものを考えられるようなサービスとして、具体的にはVRChatを念頭に置くこととした。VRChatはソーシャルVRサービスとしては全世界的にユーザー数が多いことが示されているが、VRChatを例にして考えることが日本の情報通信政策を考える上で妥当かという点について、より深く考察したい。

そのため、質的な観点から考察するために株式会社Shiftallの代表取締役CEOの岩佐琢磨にヒアリングをした20。株式会社Shiftallはパナソニックの戦略子会社であり、メタバース用途での利用を想定したトラッキングデバイスやVRヘッドセットの開発を行っている。当該トラッキングデバイスは世界最大の電子機器見本市であるCES2022において、部門別に特に注目すべき製品に与えられる賞を受賞している21

岩佐から聴取した日本の生活空間としてのメタバースの概観は以下の通りであった。

  • A) メタバースは定義の仕方によっては「フォートナイト22」のようなゲームを含んでしまうため、生活空間としてのメタバースを想定するためには、使用実態の質的観点にも注目する必要がある23
  • B)メタバース全体に関するプラットフォームやアプリケーションを超えた統計的に妥当なデータはあまり存在していないが、生活空間としてのメタバースではVRChatが支配的であると感じている。
  • C) Shiftall社が販売するフルトラッキング24用途のデバイスである「HaritoraX」に対する問い合わせの9割以上がVRChatに関するものであり、他社製品を含めてフルトラッキングユーザーの殆どはVRChatをプレイしていることが想定される。
  • D)「cluster」は非VR機器(スマートフォンやPCのデスクトップモード)でのユーザーが多く、VR機器ユーザーであったとしてもフルトラッキングユーザーは少ない可能性がある。

また、日本のメタバースサービスであり、イベント開催に強みを持つclusterを運営するクラスター株式会社の代表取締役CEOである加藤直人はメタバースを紹介する書籍において、VRChatについて「日本でよく知られるソーシャルVRだ」と語っている25

従って2022年9月現在、生活空間を想定したメタバースを考察する際には具体例としてVRChatを考察することがやはり妥当であると考えられる。特に本論で考察するメタバースは現実空間と同じようなコミュニケーションができる空間を想定しているため、全身をフルトラッキングして生活を送っている日本人のユーザーが、実際によく用いているプラットフォームを考察することは妥当であるとも考えられる。

次に、アバターの売買方法について、どのような方法に着目すべきかを考察する。

岩佐はインターネット上のニュース記事において、VRメタバースのユーザーについて、アバターやアバターのファッションにかなりお金を掛ける人が多く、販売やダウンロード方法の定番のサイトはピクシブ株式会社が運営する「BOOTH26」であると指摘している27。また、販売される形式はVRM28かFBX29のUnityパッケージ30で、制作ツールを使えば誰でも作成できるものであり31、販売価格は5000円が標準的で、人気・定番のアバターは50体くらいであるとも指摘している32。加藤もVRChatを説明する際に、VRChatで使えるアバターやワールド用アセットの販売によってお金を稼ぐクリエイターのエコシステムがBOOTH上で生まれていると指摘しており33、VRChatを紹介する日本のウェブサイトでも多くがアバター購入方法としてBOOTHを挙げている34

したがって2022年9月現在、生活空間を想定したメタバースに用いるアバターを考察する際にはBOOTHで販売されているアバターを具体例として考察することが妥当であると考えられる。このとき、アバターの販売は少数企業が独占的に行っているというわけではなく、BOOTHにおいて広く様々なクリエイターが、利用者に対して直接販売しているものが多数であることを念頭に置く必要がある。

またアバターを企画販売しているブーゲンビリアに購入者の地域属性をヒアリングしたところ、日本53%、韓国・台湾・香港の合計34%、英語圏13%とのことであった35。そのためアバターの売買に関する議論は、欧米等の事例を参照するよりもむしろ日本や東アジアの事情を考えることに意義があることも示唆されよう。

2.2.VRChatおよびBOOTHの概要

現在のVRChatは2017年にリリースされたもので36、アメリカ合衆国の企業であるVRChat Inc.によって運営されているソーシャルVRである。ソフトウェアはSteam37またはMeta Questストア38で無料でダウンロード可能である。Meta QuestやHTC VIVEなどのVRヘッドセットを利用してプレイすることが可能であるが、デスクトップ版はWindowsのPCのみでもプレイ可能である。サービス内には「ワールド」と呼ばれるバーチャル空間の機能があり、ユーザーは自ら制作したワールドをアップロードすることも可能であり、ワールド内では言語・非言語コミュニケーションが可能である39。アバターはユーザーが任意のアバターデータをアップロードして利用する事ができるが、デフォルトで提供されているものや、他のユーザーによって誰でも利用できるように登録されたものを利用することもできる。2022年9月現在、基本的なサービスは無料で利用できる。

「BOOTH」は日本の企業であるピクシブ株式会社が2007年から運営している、クリエイターが創作物としての作品やグッズを販売できるマーケットプレイスサービスであり、決済及び配送をピクシブ株式会社に代行させることが可能である。ここではクリエイター等は、自身が直接運営するインターネット上の店舗を開設することができるが、取引の当事者はクリエイターと顧客の2者間であり、これらが直接的な取引関係を有することとなる。販売方法は、宅配またはダウンロード販売が可能であり、アバターデータの取引の場合は専らダウンロード販売が用いられている40

BOOTHではピクシブ社が明示的に禁止していないものは自由に取引ができ、アバターデータの取引に関する特別な規定もないため、アバターを販売する時に購入者に提示する利用規約は、販売者が任意に定めることとなる。

2.3.アバターを他者から購入する人の割合

新保正悟の日本語による調査によれば、VRChatのユーザーは2019年時点で、購入したアバターを利用している割合(「購入したものを改造」60.0%および「購入したものをそのまま使用」4.4%の合計)は64.4%、配布されていたアバターを利用している割合(「配布されていたものを改造」7.3%および「配布されていたものをそのまま使用」2.1%の合計)は9.4%、VRChat上で配布されていたアバターを使用が3.7%、自作は22.5%だった。2020年時点においては、購入したアバターを利用している割合(「購入したものを改造」72.8%および「購入したものをそのまま使用」4.5%の合計)は77.3%に増加し、配布されていたアバターを利用している割合(「配布されていたものを改造」2.6%および「配布されていたものをそのまま使用」0.6%の合計)は3.2%と微減、VRChat上で配布されていたアバターを使用が3.9%と変わらず、自作は15.6%に低下した41

2019年よりも2020年の方がアバターを購入する割合が増えているが、この間にVRChatの知名度がより一般的になり、VRデバイスの入手性も向上し、販売されているアバターの総数が増えた可能性が高いことも考えると、メタバースが一般的になる程にアバターを購入する割合が増加する可能性が考えられる。

2.4.売買されているアバターの件数と販売者

2022年6月17日時点においてBOOTHサイト(https://booth.pm/)上での販売状況を概観する。まず、BOOTHサイト上で検索可能な販売数は以下の通りである42

  • A) BOOTHの「3Dモデル」カテゴリ内「3Dキャラクター」:4388件人気順ソートの上位50件全てがメタバースに用いるためのアバターであった。また当該50件のうち法人が販売していることを明示しているアバター1件を除いて、残りはアバターを制作したクリエイターが直接販売していると推測される。
  • B) BOOTHのタグ検索「アバター」:2830件人気順ソートの上位50件のうち、アバターに関連するツール類が3件含まれていた。それ以外の47件はメタバースに用いるためのアバターであった。

また、VRChat向け情報サイト「VRChatの世界(β)」(https://www.vrcw.net/)ではその管理者である、DECKYが目検で主にTwitter上で把握できる情報を確認した上でデータベースを構築しており、VRChatのアバターに関連するデータも提供されている。ここには2022年5月16日時点で1165件のアバターが登録されている43。ただしVRChatの世界(β)に登録されているアバターは、BOOTH以外のプラットフォームで販売されているものも含まれる可能性がある。

正確な総数を算定することは困難であるが、少なくともVRChat用途として1000件以上のアバターが売買されていることは確実であると言え、実際はさらに多いと考えられる。

3.クリエイターとユーザーの利益の衝突

3.1.アバターに設定されている利用規約の分析

岩佐が人気や定番のアバターは50種類程度であると指摘していることから、2022年6月23日時点でのBOOTHの「3Dキャラクター」(抽出条件は「カテゴリ:3Dモデル」「サブカテゴリ:3Dキャラクター」「在庫なし・販売終了を含む」のみである)のうち「人気順」でソートした際の上位50位までのアバターについて、適用されている利用規約がどのようなものであるかを分析した。

まずライセンスの形式としては、23件がVN3ライセンス44を利用しており、1件がUVラインセス45を、その他のアバターは権利者独自の書式46を用いていた。50件全てのアバターの利用規約を比較するため、VN3ライセンスの書式に定められるAからXまでの24個の観点のうち「X特記事項」を除く23個の観点について、他の書式を採用しているアバターについてもこれに当てはめて一覧化した。

まず表①のとおり、利用主体としての「A個人利用」に関しては、全てが営利目的での利用または非営利有償目的(非営利であるが必要経費程度の対価を受け取ることを許容するもの)47での利用を許可していた。なお、「B法人利用」については、半数以上が利用について連絡または問い合わせを要するとしていた48

次に表②は個人利用の場合の許可内容を示したものである。まず「I調整」「J改変」「O映像作品・配信・放送への利用」については殆どで許可が与えられており「F性的表現」「G暴力的表現」についても多くで許可が与えられている。「Cソーシャルコミュニケーションプラットフォームへのアップロード49」と「Dオンラインゲームプラットフォームへのアップロード」については規約上では言及されていないものもあったが、アバターとしての販売から当然に許可が与えられていると解釈することも可能であろう。「K他のデータを改変するための利用」については、便宜的に「言及無し」と分類したものも多いが、「J改変」の範疇として許可が与えられていると解釈できるものもある50。対して「Eオンラインサービス内での第三者への利用の許諾」「M未改変状態での再配布」「N改変したデータの配布」は不許可としているものが殆どであり、知的財産の保護としては一般的な考えであると言えるだろう。

そのため、アバターの利用者は多くの場合で、データの再配布などを行わなければ、購入したアバターを適宜改変して自分好みの姿にアレンジしたうえで、広範な表現活動ができることがわかった。また、個別の方法によっては問い合わせが必要になることはあるものの、前提としては個人での営利利用が許可されているケースが多いため、経済活動の面からも個人利用者の利便性は悪くはないように思われる。

しかしながら、「H政治活動・宗教活動」については殆どの場合で明示的に不許可となっており、明示的に許可しているものは皆無であった。つまり、市販のアバターを用いる場合は政治と宗教に関する活動に大きな制約が発生していることがわかった。

3.2.アバター利用で制約される政治活動・宗教活動

政治と宗教の活動はVN3ライセンスでは、それぞれ「政治活動」と「宗教活動」という用語にて定義されている。VN3ライセンス以外の利用規約では「政治、宗教活動を目的とした利用」や「政治的、宗教的利用」という記述方法もある。

「政治活動」に関しては、公職選挙法の立法担当者の解釈・見解として黒瀬敏文・笠置隆範は同法の逐条解説において「政治活動とは、一般抽象的には、政治上の主義若しくは施策を推進し、支持し、若しくはこれに反対し、又は公職の候補者を推薦し、支持し、若しくはこれに反対することを目的として行う直接間接の一切の行為をさすということができるが、注意すべきは、これら一切の中には特定候補者の推薦、支持等選挙運動にわたる活動をも含んでいる広い意義のものと解されるということである。」とその語の指す意義を示し51、また「政治上の目的とは、抽象的には政治上の主義、施策の推進、支持、反対等すでに述べたとおりであるが、具体的に個々の行為が政治的目的をもってなされたものであるかどうかは、その行為の様態すなわち時期、場所、方法等について総合的にその実態を観察し、実質に応じて判断されなければならないことは、選挙運動に対する判断と同様である。」と指摘している52。この定義は私人間における契約や日常生活において単に「政治活動」と言うときに指し示されるであろう内容とも離れたものではないだろう。

上記の定義に倣って考察するに、アバターの利用規約で政治活動が禁止された場合は、将来的にメタバース空間上での公職選挙が一般的となった場合でも、当該アバターを利用した状態での立候補やその後援は当然制約を受けるものである。また、公職の候補者を支持することも定義上は政治活動に含まれるために、アバターを用いた投票行為が可能となった場合でも、制約を受けると解釈される可能性がある。現時点でも、例えばメタバースやバーチャルリアリティに関する制度への意見を利用者が持ったとしても、それを具体的に実現するために特定の候補者を支持したり、あるいは自身が公職への選挙に立候補したり公職に就いた場合、メタバース内外を問わず当該アバターの利用が一切禁止される可能性がある53。また例えば公職選挙に関わらずとも「メタバースに生きるメタバース市民の権利を第一に掲げる」といった主張をする場合も、その様態、場所、方法等の総合的判断によっては政治活動とみなされる可能性がある。

つぎに「宗教活動」であるが、津地鎮祭訴訟における昭和52年7月13日の最高裁判決(民集31巻4号533頁)では憲法20条に定められる国家が禁止される「宗教的活動」について「行為の目的が宗教的意義をもち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような行為」と定義され、この考え方は現在の文部科学省が宗教教育を定義する際にも利用されている54。この定義は国家に対してなされたものではあるものの、最高裁が宗教的活動の語義を定義したもので、日常生活で単に「宗教」や「宗教活動」と言うときに指し示されるであろう内容ともそう離れたものではないと考えられるため、私人間の契約における宗教活動の語の示す範囲を考える際の参考にもなるだろう。

当該最高裁判決では同時に「当該行為の主宰者が宗教家であるかどうか、その順序作法(式次第)が宗教の定める方式に則つたものであるかどうかなど、当該行為の外形的側面のみにとらわれることなく、当該行為の行われる場所、当該行為に対する一般人の宗教的評価、当該行為者が当該行為を行うについての意図、目的及び宗教的意識の有無、程度、当該行為の一般人に与える効果、影響等、諸般の事情を考慮し、社会通念に従つて、客観的に判断しなければならない。」とも指摘されている。この裁判では市立体育館の建設の際に行われた地鎮祭が憲法に定める宗教的活動に該当するかが争われたが、最高裁はこれを「外見上神道の宗教的行事に属することは否定しえないが、その実態をみれば習俗的行事であつて、神道の布教、宣伝を目的とした宗教的活動ではない」とした。

したがって、私人間の契約であるアバターの利用規約で宗教活動が禁止されていた場合であっても、当人や周囲にとって宗教的意義が全く無いか希薄であるようなクリスマスパーティや、強い宗教的意図を持たずに慣習的に行っている初詣のような行為、あるいは一般的な結婚式や葬儀などについては宗教活動ではないとみなされて、容認される可能性があるだろう。しかし、特定の宗教の布教活動や、宗教的意義が強い活動については、認められない可能性も高いのではなかろうか。例えば、ムスリムは毎日5回の礼拝(サラート)が宗教上義務付けられているが、アバターの利用規約において宗教活動が禁止されている場合は、メタバースを一旦中断してリアル世界において礼拝を行うか、もしくはアバターを別のものに切り替える必要が生じる可能性があるであろう。

つまり多くのユーザーはアバターを購入してメタバースを利用する際に、私人間の自由契約に基づくものではあるものの、結果として多くの場合に憲法に定められる参政権や信教の自由55が制約されてしまう可能性があり、これに限らずその他にもアバター毎になんらかの制限が任意になされる可能性がある。

3.3.政治活動・宗教活動の制限と私的自治

ここまでで示したとおり、市販のアバターの多くでは特に政治活動・宗教活動が制限されており、そのためにメタバース上で市販のアバターを利用する場合は、公職選挙における特定候補者の応援や、宗教上の教義に基づく活動などが禁止される可能性が示された。これについて、アバターの作者や権利者の著作者人格権や著作権(財産権)の保護の観点を中心にして、当該制限をすることが合理性を有するのかについて考察してみたい。

政治活動の制限について、昭和27年2月22日の十勝女子商業事件における最高裁判決(民集第6巻2号258頁)では、政治活動をしないことを条件とする私立学校での雇傭契約と基本的人権の関係性について「憲法で保障された、いわゆる基本的人権も絶対のものではなく、自己の自由意思に基く特別な公法関係上または私法関係上の義務によつて制限を受けるものであることは当裁判所の判例(昭和25年(ク)第141号、同26年4月4日大法廷判決参照。判例集5巻5号215頁)の趣旨に徴して明らかである」また「自己の自由なる意思により校内においては政治活動をしないことを条件として被上告人校に雇傭されたものである以上、右特約は有効であつて、これをもつて所論憲法または民法上の公序良俗に違反した無效のものであるということはできない。」と述べられている。

宗教活動の制限について、昭和42年5月25日の離縁請求事件における最高裁判決(民集第21巻4号937頁)では、養子縁組に際して特定の宗教活動をしない旨の約束に関連して「憲法20条が同19条と相まつて保障する信教の自由は、何人も自己の欲するところに従い、特定の宗教を信じまたは信じない自由を有し、この自由は国家その他の権力によつて不当に侵害されないということで、本件のように特定の場所で布教または祭祀を行なわないことを私人間で約束することを禁ずるものではないと解すべきことは、当裁判所昭和27年(オ)第422号同30年6月8日言渡大法廷判決(民集9巻7号888頁)の趣旨に徴し明らかである。」と述べられている。

上記を含めた私人間の関係における人権の制約については、昭和48年12月12日の三菱樹脂事件における最高裁判決(民集第27巻11号1536頁)において、憲法の規定は国または公共団体との関係を規律するものであり私人相互の関係を直接規律するものではないこと、私人間における権利・自由の矛盾・対立の調整は原則として私的自治に委ねられており一方の他方に対する侵害の様態・程度が社会的に許容しうる一定の限界を超える場合にのみ法が介入して調整を図るという建前があること、私人間の関係において社会的力関係の相違から一方が服従せざるを得ない場合であっても憲法の基本的保障規定の適用ないしは類推適用を認めるべきという見解は採用できないことが述べられており、これは今日においても主流の考え方である56

また現実社会でも自由契約に基づき人権の一部を制約するような契約は容認されている。例えば日本の芸能界においては、一般的にタレントがプロダクションに所属する際には、創作活動や実演業務、取材会見業務などを含む一切のアーティスト活動について当該プロダクション以外に対して行うことを禁止され、また芸能活動によって発生した著作権法上の一切の権利をプロダクションに独占的に譲渡するような内容の専属マネジメント契約を締結することが一般的である57。これについて内容が著しく不公正であり優越的地位の濫用であるような場合については無効となる可能性もあるが、上述のような契約そのものは違法ではなく社会的に認められている58。これはそのような契約に基づいて行われるマネジメント活動が、結果的にタレントの収益の最大化を図ることができるためでもある59

アバターに関して言えば、個々のアバターは制作された時点でクリエイターが著作権を保有することとなるが、そもそも著作権法が存在する理由として中山信弘は、創作へのインセンティヴとしての考え方と、創作物に対して自然権的な権利を有するという考え方があると述べている60。そして現行の著作権法について中山は、新たな創作をした者にご褒美としてその情報の独占的利用権、つまりは所有権類似の物権的権利を与える制度であり61、最近の著作権法の改正においても人格権の重視と財産権に関しての物権的構成の採用という19世紀的な基本的制度の骨格は変わっていないとも述べており62、情報化社会の到来とともに、著作物の財産的側面がますます増大し、著作物は重要な経済財となっており、いわゆるコンテンツ・ビジネスが重要な産業となりつつあるとも指摘している63。加えて、同一性保持権(著作権法20条)や名誉声望保持権(同法113条11項)等の著作者人格権は、私的使用の場合の制限を受けるといったような例外規定も存在していないため、著作権法20条2項に示されるような場合を除き、著作者人格権による保護はあらゆる利用に対しても広く効果が及ぶものである。

このような考えや現行の著作権法に照らせば、著作者が創作的意図をもって制作し、芸術作品的な要素も併せ持っているアバターデータは人格権を重視しつつ、財産的側面も含めて保護されるべきものであると考えられ64、実際に多くのクリエイターはその目的のために何らかのライセンスを設定している状況にある。従って、アバターに対して特定の政治上の主義や宗教が紐づけられてしまうことで、財産権的な側面だけでなく著作者人格権にも関する不利益を防ぐという目的も含めて、他の利用者に対しての不利益が生じる可能性を防ぐためや、販売や配布が伸び悩むような経済上の不利益の発生を防ぐためにも、アバターを用いた政治活動や宗教活動に対して著作権者が制限を課すことは、著作権法第1条に定める目的に照らしてみても合理性を有すると考えて差し支えがないだろう。

ここまで述べた一切の事情を鑑みれば、アバターの利用を第三者に許諾する場合においては、その利用方法は著作者や著作権者の意図に沿うべき性質のものであり、結果としてアバター利用時の宗教活動や政治活動を含む利用者の人権を制限するような内容の利用規約であったとしても、相当程度認められると言えるだろう。公序良俗に反する場合(民法90条)、消費者の利益を一方的に害する条項に該当する場合(消費者契約法10条)、不公正な取引方法に該当する場合(独占禁止法19条)等でない限りは、アバターの権利者は原則として任意にその利用規約を定めることができるものであり65、特にアバターを制作することは原理的には技能を身に付ければ誰にでも可能で実際の販売者も数多くいることからも、契約自由の原則は尊重されるべきであろう。

4.クリエイターとユーザーの意思を尊重するために

4.1.メタバース上でのアバター利用に関する人権の保障の在り方について

しかし、ここまで示した通り市販アバターにおける政治活動や宗教活動の禁止を個別に行う事が正当であったとしても、多くの利用者が望むような容姿の市販アバターを利用するためには、メタバース上での宗教活動や政治活動が行えないこととなる。それでは、他のアバターを用いればそれで万事解決であるかと言えば、先に述べた通り本人の望まないアバターを利用させることを意味してしまうだろうし、利用方法に制限のないワンオフのアバターを特注品として購入することができるのは限られた人だけになるだろう。

それでは、如何にしてクリエイターの意思を尊重しつつも、メタバース上の一般市民の人権を保障することができるのだろうか。

この利益の衝突とでも言える状況においては、多くのアバターで政治活動や宗教活動への利用制限が課されるために、一方では利用者の信教の自由や参政権が制約を受けることが問題となるが、他方、クリエイターがその権利を有するアバターに対して当該制限を設けることもまた、思想・良心の自由や財産権として憲法上保障されるべきものである。従って、利用者のメタバース上での宗教活動や政治活動を実施する自由を保障するために、著作権者の意に反してまで当該利用の許諾を著作権者に対して容認させるようなことを、安易に国家が強制することは適切とは言いがたいだろう。

そもそも思想・良心・信仰・表現などの精神的自由は、本来国家権力の介入を許さないことを本質としており、公共の福祉による制約を加えうるのは、その自由がはなはだしく反道徳的・反社会的な結果を生ずる場合に、その防止に必要最小限度においてのみ認められる性質のもので66、アバターは原理的には誰でも作成することが可能であり、利用者において他のアバターを利用して当該行為をすることまでを完全に否定された状況ではない以上は、クリエイター側の精神的自由を一方的に否定することは適当ではない。また、このような状況において財産権を一方的に制限することもまた、社会全体の利益となるとは言いがたい。あるいは強制とまではならずとも、ガイドライン策定するなどして政治活動や宗教活動への利用を積極的に容認させるように働きかけることも、クリエイターの精神的自由の尊重や営業の自由の観点からは慎重になるべきである。したがって、公権力によるアバターの利用契約への介入は安易に選択されるべき方法ではないだろう。

そこで筆者が考える解決策は、アバターを自らの手で作ることができる技能を習得する機会を国家が提供し、またその手段を国家が提供ないしは提供を保障することである。

その理由は、アバターを利用しようとした際の自由契約の結果としての制約が問題として成り立ってしまう背景とは、一般的なメタバースのユーザーにとってその理想とするアバターを自己の手で作る技能がないために、あるいはそういった技能を習得する機会が与えられなかったために、他者から購入するしか選択肢がないことに起因していると考えられるためである67。そうであるとするならば、自らアバターを創作できる技能を習得できる機会と手段を国家が国民に提供することができれば、人権的問題は根本的な意味において解決すると思われるのだ。

またアバター制作の手段の提供を補強するために、自由に使えるアバター素体を国が国民に提供するようなことは、アバター作成の足がかりを保障するだけでなく、素体提供の行為そのものがメタバース用の自由な身体を配布することも意味することから、積極的・直接的に人権を保障する側面を有すると考えられるため、検討の余地があるだろう。

4.2.教育の提供と手段の保障によるアバター利用に関する人権の保障

憲法26条において「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。」と定められている。これについて、教育を受ける権利は子どもに対して保障されるとされる説もあるが68、その一方で「教育」とは学校教育に限られず社会教育をも含み「教育を受ける権利」については年齢上の制限はないとの説もあり69、平成15年2月13日の衆議院憲法調査会基本的人権の保障に関する調査小委員会のために衆議院憲法調査会事務局が作成した資料では後者の説が採用されている70

当該資料では佐藤功や佐藤幸治の学説が参照されているが、佐藤幸治は教育を受ける権利について次のように述べている。

「人間の自由や幸福は、豊かな知識と教育を前提にしてはじめて有意義に実現されるものであるから、「幸福追求権」の保障は、人がその選ぶところに従って適切な教育をうけることができるという権利を当然措定しているものと解さなければならない。したがって、およそすべての国民がかかる教育をうける権利の主体であると解さなければならない。」「かかる権利を有意義なものとするには、教育施設や教育専門家の助けが必要となる。技術文明の進展は、この必要性をより一層切実なものとするに至った。したがって、現代国家にあって、教育をうける権利とは、国家に対し合理的な教育制度と施設を通じて適切な教育の場を提供することを要求する権利を意味せざるをえないことになる。つまり、教育をうける権利は、社会権としての性格を帯有することになる。」71

また、学習機会の提供でいえば、かつて中学校の家庭科が男女必修となった際に、その関心がもたれるようになった理由は女子差別撤廃条約とは関係なく、むしろ超高齢化社会となる21世紀には女子の経済自立、男子の生活自立が、時代の要請となるからであったと当時の教育課程審議会の委員を務めた縫田曄子は述べている72。そうであるならば、メタバース上の生活がますます発展していく、あるいは国家としてこれを推進していくとすれば、その時代の要請に教育が応える必要があろう。

したがって基本的人権が天賦として保障される生身の身体と同じような、完全に自己が権利を有するオリジナルなアバターを自ら構築できるような技能の習得の機会については、メタバース上での人権を国民に保障するために、国家が積極的に提供してもよいのではないだろうか。

教育の方法について、例えば義務教育や高校などで初歩的な概念や学習方法を紹介し、標準的あるいは応用的な部分についてはインターネットを用いて誰でも参照できるようにすることも考えられる。広く国民に対して教育の機会を与えようとするならば、社会に開かれた学習の場を提供することが重要であると考えられ、国が直接コンテンツを提供することも可能であろうし、放送大学といったようなインターネット教育に知見のある国設の教育機関が担うことや73、民間事業者に対して業務を委託するようなことも考えられる。

手段の提供ないし保障に関しては、今現在は流通されているファイル形式がある程度融通の利くものであり、オープンソースで無償にて利用できる制作ツールが存在することや、私企業が無償で制作ツールを公開しているために直ちに問題にはなっていない74。しかし、例えば将来的にファイルの生成方法やファイル形式のデファクトスタンダードが特定の事業者やプラットフォーマーによって独占され、アバターの制作に制約が生まれるような場合は、独占禁止法などに基づく何等かの対応の必要性も考えられるだろう。

また、手段の提供の補強として広く利用できる高品質なアバター素体をいくつか用意し、広く国民に提供することも考えられるが、アバターは何もない状態から作成することは非常に高度な技能を要するものの、改造を施すことはそれよりは容易であるためである。これは民業を圧迫する危険性も孕むが、その一方で民業にも活用されむしろ民業を活性化させる可能性もある。したがって慎重な議論は要するだろうが、国民に対して国家が一切の利用を保障するアバター素体を提供することは、権利的に自由なメタバース上での身体を国民に提供する意味を伴うため、メタバース社会における直接的な人権の保障としての意味もあり得るだろうから、検討の価値はあるだろう75

このような取り組みによって機会と手段が国民に与えられるならば、広く国民のメタバース上での人権が保障されるという側面だけでなく、アバターの売買が自由意志によるものであることがより鮮明となる。この場合、販売者と利用者の間の売買契約に伴う利益衝突の問題は、単に私人間の私的自治・契約自由の問題であることが明白となり、著作者や著作権者等が任意に利用規約を制定することの正当性が担保され、結果としてクリエイターの自律が保たれることとなり創作文化の発展や経済的発展にも通じると考えられる。

5.おわりに

アバターに関する著作権者や販売者と利用者の間に生ずる利益衝突の課題に着目し、これを解決しようとすることは、どのような形でメタバースが普及するにせよ、そこまで普及しなかったにせよ、現に利用者がおり多くのアバターが売買されている現状を鑑みるに、必ずや国民の幸福の増加に寄与することとなるだろう76。また本論は、社会が高度化・複雑化した状況においては、放任的態度ではむしろ国民の自由が制約される状況が生じ、従来は「国家からの自由」すなわち国家の不作為の要求が主眼であった自由権に関しても、国家が積極的に国民の自由権を保護するために、「国家への自由」すなわち社会権的な国家の作為が求められる状況が発生し得ることを示唆するものでもあろう。

なお、本論においてはアバター取引を中心に論じ、メタバース運営者について取り扱わなかったが、誰でも参入が可能なアバター制作と異なりメタバースは既存のSNSサービスと等しく、いわゆるプラットフォーマーとして機能するだろう点において異なる議論を要すると考える。ただし、現状はメタバースの運営者の課す制限によって、ユーザーの私生活上の表現や活動についての問題は大きくは生じていないようである77

しかし、将来的にメタバースが市民生活に浸透した上で、少数のメタバースのプラットフォーマーによるデジタルコミュニケーションツールの寡占とユーザーに対する不合理な制約が生じた場合に備えて、既存の法である独占禁止法の活用や78、新たなプラットフォーマー規制の法やガイドラインなどを検討し79、国民に対する不の解消を図るべきであると考えられるが、これらについては今後の検討課題としたい。

謝辞

共にVN3ライセンスの作成や運営に当たっている出井甫弁護士からは日頃より助言やアイデアを頂戴しており、本稿執筆においても多数頂戴した。匿名査読者からは、原稿を注意深くお読み頂き適切な助言を頂いた。岩佐琢磨氏はヒアリングにご協力頂き、DECKY氏からはデータをご提供頂き、Tony Lewis氏・新保正悟氏からは公開済みの各データの読み解き方をご教示頂いた。また、日頃より交流のあるクリエイター・開発者・研究者・VRChatでの友人等から頂いた意見や知見も本稿執筆にあたり参考にさせて頂いた。ここに御礼申し上げます。

Footnotes

1 VN3ライセンスチーム主宰(本名:五十嵐 大悟)

2 原文ママ。

3 三淵啓自「7.2.1 サイバースペースとコミュニケーション」日本バーチャルリアリティ学会(編)『バーチャルリアリティ学』250-256頁(コロナ社、2011)。

4 User Generated Content(s)のこと。サービス提供者ではなくユーザーが生成したコンテンツのこと。

5 桜花一門「メタバースの現状とこれからの可能性」『CGWORLD』2022年4月号、28-31頁(株式会社ボーンデジタル、2022)。

6 桜花・前掲注(5)、加藤直人『メタバース さよならアトムの時代』(集英社、2022)。

7 加藤・前掲注(6)76-77頁。

8 VRChatは自身をメタバースと明言をしていないが、桜花・前掲注(5)や加藤・前掲注(6)を含め一般的にメタバースサービスの一種とみなされている。VRChatは自身について「VRChat offers an endless collection of social VR experiences by giving the power of creation to its community. Whether you're looking for new VR experiences or have an idea of your own, VRChat is the place to be.」(https://hello.vrchat.com/)と説明している。また現在も将来もブロックチェーンやNFTをサービスに組み込むことを予定しておらず、ユーザーがサービス上でこれらに関してプロモーションしたり勧誘することも禁止している(https://hello.vrchat.com/blog/our-policy-on-nfts-and-blockchain-in-vrchat)。なお、本論に掲載したURLの最終閲覧日はいずれも2022年9月21日。

9 桜花・前掲注(5)。

10 VRニュースサイトのPANORAに掲載されている記事では、ユーザー同士がバーチャル空間上でコミュニケーションできるサービスのこととされ、具体的なサービスとしては「VRChat」「cluster」「バーチャルキャスト」「Neos VR」「Rec Room」などが挙げられている。PANORA「【ソーシャルVR入門】VRChat、cluster、Neos VR… 主要プラットフォーム5選」https://panora.tokyo/archives/26630 (2021年6月11日公開記事)。

11 Tony Lewis 「VRChatのユーザー数推移分析」https://tony-lewis.fanbox.cc/posts/3912149 (2022年5月31日公開記事)。

12 Meta社の「Horizon Worlds」、VRChat社の「VRChat」、Solirax社の「Neos VR」、クラスター社の「cluster」、Rec Room社の「Rec Room」、Linded Lab社の「Second Life」などではいずれもユーザーはアバターを利用して生活や各種活動をしている。

13 岩佐琢磨=まつゆう*『VRChatガイドブック ~ゼロからはじめるメタバース』(双葉社、2022)42頁。

14 汎用的なアバターのデータはアバターの用途を主目的として作られたデータではあるものの、同時に汎用的な3Dデータであることも意味するため、メタバース用途に限らず映像制作やイラスト制作など広範な使い方が可能である。

15 アバターに用いられる3Dデータは具体的な造形を伴う3Dデータであるために、基本的に美術の著作物である。上野達弘は、現実空間の実用品のデザインに関して、日本の従来の解釈では応用美術として創作性があっても著作権保護が認められないことが多いため、現実世界の実用品を仮想世界のアイテムとして無断利用しても著作権侵害にならない場合が多いと指摘した上で、実用品を専ら仮想世界のアイテムとして用いる目的でデザインしたような場合は、アニメに登場するコンテンツと同じで創作性があるかぎり、実用品であっても著作物として保護されると述べている(小塚荘一郎ほか「仮想空間ビジネス」ジュリスト1568号(2022)65頁)。そのため、アバター向けの衣装データに関しても美術の著作物として保護されるだろう。

16 新保正悟「VRC調査 第七章 VRChat経済圏について その1」https://dat-vr.com/article/article_42.html(2020年1月10日公開記事)。このアンケートはHMD(ヘッドマウントディスプレイ)の所有の有無を問わずVRChatユーザーに対してTwitter上で呼びかけて行われたものである。質問は日本語でなされているため、日本人を含む日本語話者が回答の殆どを占めるものと推測される。Twitterでの呼びかけなどにより回答を集めた都合上、回答者属性の偏りなどによる非標本誤差が含まれることは否定できないものの、回答数は400以上あり日本人ユーザーの傾向を把握するための参考としては利用可能であると考える。

17 市販のアバターの相場は5000円程度であるが、特注品であるワンオフは求められるクオリティにより金額は大きく変動する。筆者が複数のVRChatユーザーにヒアリングしたところ、人気の市販アバターと同等の品質をワンオフで依頼した場合は、50万円から100万円以上することも一般的であることがわかった。また、筆者がVRChatを普段プレイする中で知り合った人のかなり多くは、市販品を自身で改造したものを利用しており、アバターを自作するものは少数であり、他者からワンオフを購入した人は極めて稀であった。

18 松本尚子「IV ヨーロッパ近・現代の法と社会:総説」勝田有恒ほか(編)『概説西洋法制史』270-272頁(ミネルヴァ書房、2004)。

19 新保・前掲注(16)。

20 2022年6月18日聴取。

21 技術者のizmが個人で開発したデバイスである「Haritora」を改良して量産化した「HaritoraX」という製品について、世界最大の電子機器の見本市「CES2022」にて「CES 2022 Innovation Award」を受賞している。

22 Epic Games社が提供するオンラインゲーム。モンスター退治ゲームや対戦ゲーム機能のほかに、クリエイティブモードではプレイヤーが独自の世界を構築する機能も持つ。

23 岩佐はメタバースを「社会性を備えた没入可能なヴァーチャル空間」と定義している(岩佐=まつゆう*・前掲注(13)126頁)。

24 全身の状態をリアルタイムに測定してコンピュータ上に反映できる状態にしたもの。一般的には、頭・右手・左手・腰・右足・左足の6点以上を備えた状態をいう。対応するアプリケーションを利用した場合、現実空間での一挙手一投足が仮想空間に反映される。

25 加藤・前掲注(6)76-77頁。

26 本文「2.2.VRChatおよびBOOTHの概要」にて詳述する。

27 岩佐=まつゆう*・前掲注(13)42-43頁でも同様の指摘がなされている。

28 株式会社ドワンゴを中心とした一般社団法人VRMコンソーシアムが仕様を策定する、VRアプリケーション向けの人型3Dアバター(3Dモデル)データを扱うためのオープンソースなファイルフォーマット。glTF2.0がベースであり自由に利用することができる。

29 旧Kaydara社(現Autodesk社)が策定した3Dモデルのファイル形式であり、オープンフォーマットではない。リグ(ボーン)、カラー情報やアニメーション情報を保持することも可能であり、対応しているソフトウェアも多いため、3DCG業界でのデファクトスタンダードの一つとなっている。

30 「Unity」とはUnity Technologies社の開発するゲームエンジン。VRChatにアバターをアップロードするためには、Unityを起動させてそこからアップロードする必要がある。「Unityパッケージ」とは、Unityで用いるアセット等を内包したファイル形式であり、Unityにて利用することができる。

31 三淵・前掲注(3)251頁でも、一般に普及しているメタバースにおいては、オブジェクト製作ツール、アバタ形成ツール、インタラクティブコンテンツを制作するためのスクリプト言語は全て無料で公開されていると指摘されている。2022年9月現在では、無償の3Dモデリングツールとしては「Blender」というオープンソースの3DCG制作ソフトが広く用いられている。

32 Impress Watch「メタバースに“住む”人たち。先端事例とその可能性」https://www.watch.impress.co.jp/docs/topic/1385708.html (2022年2月15日公開記事)。

33 加藤・前掲注(6)76-77頁。

34 日本語話者向けにVRChatを解説している主要なサイトである「VRChat日本wiki」(https://vrchatjp.playing.wiki/)内ではアバターの購入方法としても販売方法としてもBOOTHが例示されており、「VRChat初心者向けガイド」(https://vrc.wiki/)でもアバターの購入方法としてはBOOTHが例示されている。また、バーチャル関連のエンタテインメント情報を掲載するメディアである「MoguLive」に掲載されているアバター導入に関する解説記事(https://www.moguravr.com/vrchat-26/)でも、アバター購入方法としてBOOTHでの購入が案内されている。

35 2022年7月1日聴取。ブーゲンビリアのBOOTHはhttps://avatar.booth.pm/。

36 2014年に同社により同名のアプリケーションがリリースされているが、現在のアプリケーションとは異なる。

37 Valve Corporation社が運営するPCゲーム・ソフトウェア、ビデオ等の販売サイト。

38 Facebook社が運営する、VR向けのゲーム、アプリ、ビデオなどの販売サイト。

39 CNET Japan 「世界で最も“カオス”なVR空間「VRChat」とはなにか--その魅力から始め方までを解説」https://japan.cnet.com/article/35173551/(2021年7月15日公開記事)。

40 今のところBOOTHはNFTや暗号通貨を取り扱っておらず、取引にブロックチェーン技術も用いられていない。取り扱われるアバターも基本的にこれらとは無関係である。

41 新保・前掲注(16)。調査期間は、2019年の調査は2019年12月4日から7日間聴取、2020年の調査は2020年12月13日から7日間聴取。また現在国内で広く用いられているMeta Quest2(発売時点ではOculus Quest2)は2020年10月13日に国内販売を開始している。

42 BOOTHは販売者が任意にカテゴリやタグを設定できるため、アバターデータに統一的に付けられるタグがあるわけではない。実態として、アバターデータの殆どには「3Dキャラクター」というカテゴリが付けられているが、「アバター」というタグが付けられていないものも多い。また、価格を0円として実質的に無償配布しているものも含む。

43 サイト管理者のDECKYから2022年5月16日に聴取。

44 企業法務経験者のあしやまひろこを中心としたボランティアグループによって、2020年5月から公開されている3Dモデルを中心とした汎用的なデータ配布用の利用規約のテンプレート。そのウェブサイトでは、必要項目の記入と主な項目の許諾の可否を選択肢から選択することで、多言語対応した利用規約データをダウンロードすることができる仕組みが無償で提供されている。「私生活を営む上で当然に行われる表現活動」が基本的な利用許諾の範囲内に含まれていることもその特徴である。

45 株式会社HIKKYのサポートをうけ、2020年2月に公開されたアバター文化の為の3Dモデルの利用規約のテンプレートセット。選択肢を選択することで許諾範囲を示す画像データとその説明が掲載されたURLを無償で生成できる。発起人は動く城のフィオ。

46 先行して販売されている他の3Dモデルを参考にしていると思われるものもある。

47 いわゆる同人活動のこと。この語の定義としては、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社の定める「ピアプロ・キャラクター・ライセンス」(https://piapro.jp/license/pcl)および「キャラクター利用のガイドライン」(https://piapro.jp/license/character_guideline)や、株式会社AHSの定める「AH-Software 個人・同人サークル作品の配布・公開について」(https://www.ah-soft.com/licensee/)などの定義が参考となる。

48 基本的人権は人間個人がその享有主体と考えられるべきものであるため(佐藤功『憲法(上)〔新版〕』(有斐閣、1983)177-179頁)法人に関する研究・考察は今後の課題としたい。なお、筆者がVN3ライセンスを利用している者に対して法人利用の諾否についてヒアリングした際には、キャラクターコンテンツに関する商取引においては、特に法人間取引は個別に利用方法や対価などの条件を個別交渉することが一般的であるため、問い合わせを要するという定めには妥当性があるとの回答も複数得ている。

49 VRChatへの利用が含まれる。

50 VN3ライセンスでは、当該アバターを主として改変することを「J 改変」、他のアバターを主として改変することを「K 他のデータを改変するための利用」と分けているために、VN3ライセンスでないアバターの規約について単に「改変の許可」とのみ記載されているものは便宜的に「J 改変」の許可としたため。

51 黒瀬敏文=笠置隆範『逐条解説 公職選挙法 改訂版(下)』(ぎょうせい、2021)1615-1616頁。なお、公職選挙法第14章の3においては、政治活動と選挙運動とが論理的に区別されており、政治活動の定義のうちから、選挙運動にわたる行為を除いた一切の行為であると解されるとされて、選挙運動は同法13章の規定による選挙運動として規制を受けなければならないとされる(同書1616頁)。

52 黒瀬=笠置・前掲注(51)1616頁。なお、選挙運動の定義に関して黒瀬・笠置は、公職選挙法中にこれを明確に規定したものがないために合理的な解釈によって判断するほかないとしたうえで、「特定の選挙について、特定の候補者の当選を目的として、(衆議院比例代表選出議員又は参議院比例代表選出議員の選挙においては特定の政党等に所属する候補者の全部又は一部の当選を目的として、当該政党等に対する)投票を得又は得させるために直接又は間接に必要かつ有利な行為」と定義しているが、これは昭和52年2月24日の公職選挙法違反事件における最高裁判決(刑集第31巻1号1頁)等の判例や通説に基づいて導き出されている(黒瀬敏文=笠置隆範『逐条解説 公職選挙法 改訂版(中)』(ぎょうせい、2021)1059-1060頁)。

53 メタバース空間上だけでなく、当該アバターの画像を一般的なSNSのアイコンなどにしている場合には、アイコンの変更を求められる可能性がある。

54 文部科学省「第9条(宗教教育)」(https://www.mext.go.jp/b_menu/kihon/about/004/a004_09.htm)。

55 信教の自由には「信仰の自由」「宗教的行為の自由」「宗教的結社の自由」の三つを内容とすると説く見解が支配的である(芦部信喜『憲法学Ⅲ 人権各論(1)[増補版]』(有斐閣、2000)122頁)。

56 このような間接適用説は学説・判例において支持されており正当であると解すべきだが、特定の権利・自由の保障規定については直接適用説が妥当すると考えてもよいものも存在している。たとえば、憲法18条は私的自治が認められる余地はなく、24条・28条は家族関係や労働関係のように個人と国家の関係ではなく個人と社会または私的な関係として捉えたものであるように、直接適用説と間接適用説は基本的人権の保障のために相互に補充的に役立ちうるというべきと指摘されている(佐藤・前掲注(49)209-210頁)。

57 安藤和宏『よくわかる音楽著作権ビジネス 6th Edition 実践編』(株式会社リットーミュージック、2021)132-138頁。

58 安藤和宏『よくわかる音楽著作権ビジネス 6th Edition 基礎編』(株式会社リットーミュージック、2021)402-409頁。

59 安藤・前掲注(58)34-43頁。

60 中山信弘『著作権法〔第3版〕』(有斐閣、2020)22-26頁。

61 中山信弘「著作権法の憂鬱」パテント66巻1号(2013)107-109頁。なお中山はこのような従来の著作権法の思想とは異なる「コモンズの考え方」の在り方を論じているものの「知的財産制度とコモンズの考え方は相容れないものではなく、恐らくは両者は並存するであろう。ある場面では知的財産法による独占権が創作へのインセンティヴとして有効であり、またある場面では情報の共有によって発展する、ということになろう」と同論文同箇所において述べている。

62 中山・前掲注(60)6頁。

63 中山・前掲注(60)12頁。

64 中山は全ての情報を保護することは行き過ぎであり、利益を生まない大半の著作物について著作権は創作へのインセンティヴにならないとも述べるが、それは幼稚園児の絵のようなものを想定したものであって、本論で論じるようなクリエイターが制作するようなアバターデータについて述べたものではなく、利益を生まない著作物にしても著作者人格権は意味のある場合があると述べている(中山・前掲注(60)24頁)。

65 著作権法の権利制限規定に関しては、任意規定であるため契約で利用を制限することが可能との解釈と、当該規定がある部分について利用を制限する条項は無効であるとの解釈の両説が存在しているが(経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(2022)253頁)、そもそも販売アバターは殆どの場合改変しての利用が前提の暗号化がなされていない3Dモデルデータであることから、私的複製やバックアップ、技術開発や実用化のための試験やリバースエンジニアリングが禁止されることは稀であり、人気上位のアバターで数多く採用されているVN3ライセンスのテンプレートにもこれらをオーバーライドする規定は存在しない。ただし、例えば著作権法30条の4に関して販売アバターの類似商品を作るための情報解析を禁止するような場合(アバターの造形を情報解析(機械学習)して類似した作風のアバターをAI創作物として作成して頒布するような事を禁止したい場合)は、類似商品の製造の目的での情報解析は同条の定める「当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合」にも該当し得るために、このような契約条件は許容されることもあるだろう。

66 佐藤・前掲注(48)201頁。

67 手段については、無料で利用できる「Blender」といったオープンソースソフトウェアが存在するため、今のところ問題にはなっていない。

68 芦部信喜=高橋和之(補訂)『憲法〔第7版〕』(岩波書店、2019)283-284頁。

69 佐藤・前掲注(48)446-447頁。

70 衆憲資第15号「教育を受ける権利に関する基礎的資料」(2013)(https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kenpou.nsf/html/kenpou/chosa/shukenshi.htm)。

71 佐藤幸治『憲法〔第3版〕』(青林書院、1995)625-626頁。

72 縫田曄子「家庭科男女必修の意義」『日本家政学会誌』39巻4号(1988)371-372頁

73 例えば放送大学は、小学校、中学校・高等学校向けのプログラミング教育の講座を有償ではあるがインターネット配信公開講座として提供している(https://www.ouj.ac.jp/special/AOBA/)。

74 例えばピクシブ株式会社はBlenderなどと比べると操作が簡単な、絵を描くように3Dキャラクターモデルを作成できる「VRoid Studio」というソフトウェアを無償で提供している。生成された3Dデータは原則としてすべての著作権が利用者に帰属し、また当該ソフトウェアに直接的に不利益を与えるごく限られた例外的用途を除き、あらゆる利用が妨げられない。

75 アバターの選択の理由はその造形等の各作家による独自性が好まれているものであろうことから、国家が汎用的な素体をいくつか提供したからといって直ちに民業を大きく圧迫することは考えづらい。また、BOOTHでは商用利用可能な胴体だけの中間素材の販売などもすでに行われている。

76 メタバースの範疇ではない場合が多いが「VTuber」や「Vの者」などと呼ばれるアバターを用いた表現活動(個人活動も少なくない)や、その他のアバターを用いたコミュニケーション全般にも本稿は寄与すると考える。

77 VRChatに関しては、Terms of ServiceやCOMMUNITY GUIDELINESにおいて政治や宗教に関する文字やシンボルが禁止と設定されているものの、政治や宗教的行為がすべて禁止されているわけではない。実態としては例えば鳥居を有する神社や十字架を有するキリスト教会を再現したワールドはいくつもPublicに存在しており許容されている。また、運営者はPrivateインスタンスでの行為を理由に利用停止処分することは稀で、結果的に公の目に触れる場所や方法において禁止事項を行った場合に運営者の裁量によって利用停止処分される場合があるのが実情である。なおmeta社のHorizon Worldsや、日本のclusterでは利用規約においても政治や宗教に関する利用は禁止されていない。従って現状はサービスの秩序が保たれる限りにおいては、ユーザーの自由に対して強い制限がなされているわけではないが、将来的な動向も含めて注視が必要である。

78 例えばデジタル・プラットフォーマーと個人情報等を提供する消費者との取引における優越的地位の濫用に関して、取引関係における優越的地位がなければ課し得なかっただろう不利益を取引の相手方に課すことに公正競争阻害性があると解してよく、優越的地位の認定に際しては被濫用者の取引先変更の可能性が重要であると指摘されている(林秀弥「デジタル・プラットフォーマーと消費者――優越的地位の濫用規制を中心に――」『公正取引』828号(2019)87-93頁)。表現や活動の規制が独占禁止法の直接の範疇たり得るかは、取引の自由との関係性も含めた議論が必要であるが、活用の可能性を探ることも重要ではないかと考える。

79 経済産業省・公正取引委員会・総務省が2018年に定めた「プラットフォーマー型ビジネスの台頭に対応したルール整備の基本原則」は商業における場貸しとしてのプラットフォームを念頭に置いたものであるが、法的評価の視点においては単なる場の提供者だけではなくコントロール・ポイント等として捉えた設計の在り方も検討すべきとされている。また、参議院議員である山田太郎は2021年2月に自身のTwitterにおいて、大手クレジットカード会社が複数出版社に対して商品表題に特定の表現がある場合に取引を停止する旨を通知したことに関して、このような表現の自由とカード決済会社を含むプラットフォーマーの在り方の問題については関係府省および自民党内で検討を続けていると述べており(https://twitter.com/yamadataro43/status/1363303194453970944)、独占禁止法以外のプラットフォーマーの規制の在り方についての検討もなされている。

引用文献
  • メタバース、ソーシャルVR、アバター、著作権、人権、VRChat
  • 芦部信喜『憲法学Ⅲ 人権各論(1)[増補版]』(有斐閣、2000)
  • 芦部信喜=高橋和之(補訂)『憲法〔第7版〕』(岩波書店、2019)
  • 安藤和宏『よくわかる音楽著作権ビジネス 6th Edition 基礎編』(株式会社リットーミュージック、2021)
  • 安藤和宏『よくわかる音楽著作権ビジネス 6th Edition 実践編』(株式会社リットーミュージック、2021)
  • 岩佐琢磨=まつゆう*『VRChatガイドブック ~ゼロからはじめるメタバース』(双葉社、2022)
  • Impress Watch「メタバースに“住む”人たち。先端事例とその可能性」https://www.watch.impress.co.jp/docs/topic/1385708.html (2022年2月15日公開記事)
  • 桜花一門「メタバースの現状とこれからの可能性」『CGWORLD』2022年4月号、28-31頁(株式会社ボーンデジタル、2022)
  • 加藤直人『メタバース さよならアトムの時代』(集英社、2022)
  • 黒瀬敏文=笠置隆範『逐条解説 公職選挙法 改訂版(中)』(ぎょうせい、2021)
  • 黒瀬敏文=笠置隆範『逐条解説 公職選挙法 改訂版(下)』(ぎょうせい、2021)
  • 経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(2022)
  • 小塚荘一郎ほか「仮想空間ビジネス」ジュリスト1568号(2022)62-76頁
  • 佐藤功『憲法(上)〔新版〕』(有斐閣、1983)
  • 佐藤幸治『憲法〔第3版〕』(青林書院、1995)
  • CNET Japan 「世界で最も“カオス”なVR空間「VRChat」とはなにか--その魅力から始め方までを解説」https://japan.cnet.com/article/35173551/(2021年7月15日公開記事)
  • 新保正悟「VRC調査 第七章 VRChat経済圏について その1」https://dat-vr.com/article/article_42.html(2020年1月10日公開記事)
  • Tony Lewis 「VRChatのユーザー数推移分析」https://tony-lewis.fanbox.cc/posts/3912149 (2022年5月31日公開記事)
  • 縫田曄子「家庭科男女必修の意義」『日本家政学会誌』39巻4号(1988)371-372頁
  • 林秀弥「デジタル・プラットフォーマーと消費者――優越的地位の濫用規制を中心に――」『公正取引』828号(2019)87-93頁
  • 松本尚子「IV ヨーロッパ近・現代の法と社会:総説」勝田有恒ほか(編)『概説西洋法制史』270-272頁(ミネルヴァ書房、2004)
  • 三淵啓自「7.2.1 サイバースペースとコミュニケーション」日本バーチャルリアリティ学会(編)『バーチャルリアリティ学』250-256頁(コロナ社、2011)
  • 中山信弘「著作権法の憂鬱」パテント66巻1号(2013)106-118頁
  • 中山信弘『著作権法〔第3版〕』(有斐閣、2020)
 
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