情報通信政策研究
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6 巻, 1 号
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特別寄稿
  • プライバシー保護の観点から
    石井 夏生利
    2022 年 6 巻 1 号 p. 1-20
    発行日: 2022/12/22
    公開日: 2022/12/28
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    本稿では、メタバースで活動するアバターのなりすましを巡る法的課題と対応策について、主にプライバシー保護の観点から考察した。仮想空間と現実世界の大きな違いは、アバターを用いることで外見の制約から解放される点にある。

    第1節では、メタバースにおいて、本人の意に沿わない方法で他者から不正にアバターを利用されることに伴う人格権等の問題などに言及した。

    第2節では、アバターの利用を巡るプライバシー権を検討した。自己のイメージや自己像を自由に形成できる権利若しくは法的利益、又は、他者による自己のイメージ又は自己像の不当な改変からの保護を受けることに関する権利若しくは法的利益は、いわゆる人格権又は人格的利益による保護対象に含まれると考えられる。

    メタバースにおいては、1人が1つのアバターを利用する場合に加えて、1人が複数のアバターを用いる場合においても、当該アバターを通じて本人の人格が一部でも表出されていれば、本人とアバターの同一性を肯定することはできる。しかし、複数名が1つのアバターを利用する場合には、無権限者が当該アバターを不正に利用したとしても、アイデンティティに関わる人格権等の侵害可能性は相対的に低下すると思われる。

    第3節では、侵害行為である「なりすまし」を3つのパターンに分けて検討した。①他者の環境内でのみ本人のアバター表示を偽る行為であっても侵害行為の一種と捉えるべきであるが、それを制限する法的義務を課すことは、他者のプライバシーを保護する観点から慎重な立場を採らざるを得ない。②改変した本人のアバター表示を第三者と共有する行為は、「アイドルコラージュ」や「ディープフェイク」の問題と共通する。これらは、成立範囲の広い名誉毀損構成によって処理されているが、「社会的評価」の低下については、より精緻に分析し、射程範囲を可能な限り明確化すべきである。③他者が本人の氏名と外見を用いて自己のアバターを作成し、仮想空間上で利用する場合に、当該他者が偽物であることを自認している場合の責任が問題となる。没入感という特殊性から本人像に歪みが生じる危険があり、それを既存の確立した法理によって解決するのが困難な場合には、アイデンティティ権等の保護を論じる意義はある。

    第4節では、前節までの検討結果を整理し、第1に、自己のイメージ・自己像や自己の人格的同一性を保護するためのアイデンティティ権等(法的利益を含む)の性質や保障内容を明らかにすること、第2に、本人のアバターを不当に改変される行為に対して制限を設ける際の条件や制限方法が課題となる旨を明らかにした。そして、適切なID管理の方策として、本人確認技術、本人確認のための第三者認証制度、アバターの登録制に言及し、第5節では今後の展望に触れた。

  • プラットフォーム化が進むメタバースの特性と課題
    佐藤 一郎
    2022 年 6 巻 1 号 p. 21-44
    発行日: 2022/12/22
    公開日: 2022/12/28
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    メタバースが話題になっているが、その関心は仮想世界やアバターに集中している。本稿ではメタバースがどのように実装されているかという技術、それもシステム構成の観点から、メタバースの仕組み、課題、可能性を探っていく。実際、メタバースでは、サーバの性能的制約や通信遅延により、現実世界に起きえない問題が起きる。また、メタバースはプラットフォーム化が進んでいることから、メタバースのプラットフォーム、仮想世界などを提供するサードパーティー、そしてユーザの3者の関係についても言及していく。

  • 中川 裕志
    2022 年 6 巻 1 号 p. 45-60
    発行日: 2022/12/22
    公開日: 2022/12/28
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    社会におけるAI技術の重要な応用分野として、インターネットにおいて自然人の代理的振舞いをするAIエージェント(AI Agent)あるいはサイバネティック・アバター(CA)が重要視され始めている。これらは、メタバースの構成要素として位置付けることができる。自然人本人とAI AgentやCAとの間のトラスト、AI AgentやCAとインターネットを介してやり取りが行われる他の自然人やソフトウェアとのトラストは、これらの間のインタラクションが円滑に行われるために必要である。本報告では、このトラストを法的位置づけの観点、技術的実現性の観点から考察する。トラストの研究は多岐にわたるので、概要および本論文の内容に係る研究を取り上げて紹介する。次にCAの法的位置づけについての研究を紹介する。そのうえでトラストの基礎になるID認証について概念を説明する。次に、(1)自然人の本人と、(2)その代理者となるAI AgentやCA、さらに、(3)それらにインターネットを介してインタラクトする自然人ないしAI AgentやCAを想定し、(1)(2)(3)の間で成り立つべきID認証、トラストの枠組み、および個々のID認証、トラストに関わって生じる問題点について述べる。とくに、マルウェアやBOTによる乗っ取り、なりすましとその対応策について言及する。次に、1人が複数のAI AgentやCAを操る場合、および複数人が1個のAI AgentやCAを操る場合の問題点について説明する。

  • 萩田 紀博
    2022 年 6 巻 1 号 p. 61-74
    発行日: 2022/12/22
    公開日: 2022/12/28
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    2050年までに身体・脳・空間・時間の制約から解放された社会を実現するムーンショット目標1の研究開発が進められている。少子高齢化による労働生産性を向上するためや、災害などに強靭な生産性の維持、非効率ではあるが、安全・安心でゆとりのある生活が可能な未来社会を実現するために、実空間と仮想空間の両方をうまく使いこなすことができるサイバネティック・アバター(CA)と呼ぶアバターやロボットを研究開発する。仮想空間のCGアバターだけではなく、実空間のロボットやアバターのCAを遠隔操作することよって、人が身体的・認知・知覚能力を拡張・強化する。現在、一人の遠隔操作者が1体のロボットやアバターを動かすことが主流であるが、ムーンショット目標1では、遠隔操作者一人で複数体のCAを動かすことや、複数人の遠隔操作者で1体のCAを動かすことに着目する。このCAによる人間の能力拡張や強化が社会に受け入れられれば、誰もが社会活動に参画できるようになり、多様性を尊重するインクルーシブな社会の実現と経済の活性化に貢献できる。そのために、能力拡張・強化によって生まれる新たな格差を解消する技術課題や倫理、法制度などに関する制度課題も解決していく必要がある。複数体のCAを遠隔操作するためのコア技術の開発だけでなく、それが生体に及ぼす影響などの利用者の立場に立った研究開発も重要になる。セキュリティ対策では、CAのなりすまし・乗っ取り・技能模倣などに対処していける安全・安心を確保するための研究開発・制度課題がある。遠隔操作で、ジッタ(信号の時間的ずれや揺らぎ)や通信遅延・不通が起きた場合でも信頼性を確保するための研究開発・制度課題もある。メタバースの動向を見ても、一人1体のアバターを操作することが主流であるが、仮想空間に対して、まだ合意されたメタバースの定義はなく、現実的には、ヘッドマウントディスプレイを被る場合のメリットとデメリット(不快感や酔いなど)との妥協点が明確になっていないために、標準化の方向性が決まっていない。CAの開発でも、社会的、政治的、組織的な要因を考慮して、国際的な社会合意システムを形成し、多くの潜在利用者に事前に体験して制度的課題を解決していく「場」の形成が必要である。このような点を踏まえて、本解説では、ムーンショット目標1で開発中のCAにおける実・仮想空間CA基盤を概説し、将来の仮想空間の役割について議論する。

寄稿論文
  • 現実世界との「抵触法」的アプローチ
    小塚 荘一郎
    2022 年 6 巻 1 号 p. 75-87
    発行日: 2022/08/05
    公開日: 2022/12/28
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    仮想空間をめぐる法的な課題には不明確な点が多く、インターネットの黎明期を思わせる状況にある。しかし、仮想空間には、特定の事業者が提供するプラットフォーム上に閉じた空間が構築されるという特徴があり、オープンなインターネットと状況が同じではない。プラットフォーム事業者が設定する利用規約や技術的な仕様(アーキテクチャ)によってルールが形成される側面も大きい。それに対して、仮想空間内のできごとが現実世界と接点を持つ場合にその関係を調整するためのルールは、今後、法的に検討していく必要がある。これは、一種の抵触法(空間際法)のルールであり、抵触の類型を区別しつつ、具体化していかなければならない。その際の基本的な原則は、「現実世界の優位」であると考えられる。現実世界で確立されている政策判断や価値判断は、仮想空間内の活動に関しても損なわれてはならず、他方で、仮想空間に対する影響を考慮して現実世界での行動が制約されることは、少なくとも当面は、想定しにくいためである。

論文(査読付)
  • 木下 翔太郎
    2022 年 6 巻 1 号 p. 89-109
    発行日: 2022/11/14
    公開日: 2022/12/28
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    現実世界で収集された情報を元に、デジタル空間内で現実世界の対となる双子(ツイン)を構築するデジタルツイン技術が注目を集めている。この技術は、現実世界で実施が困難な分析やシミュレーションを、デジタル空間上に構築したツインを対象に行い、その結果を現実世界にフィードバックすることで業務効率化などを可能とするもので、製造業などの分野で、既に活用が進んでいる。近年では、医療・健康分野における応用についても研究が行われ、我が国でも導入に向けた政策的な議論も起こりつつある。しかし、個人の健康に関する情報を多く含むデジタルツインは、プライバシーやセキュリティの観点などから慎重な対応が求められるため、医療・健康分野への応用を適切に進めていくためには、これらの倫理的・法的・社会的課題(ELSI)についても議論が行われていくべきであると考えるが、現状、これらの分野の研究動向自体が十分に把握されておらず、論点も整理されていない。そこで本研究では、デジタルツイン技術の医療・健康分野における応用可能性に関する文献をレビューすることで、研究動向の現状把握を行った。また、現時点で指摘されているELSIについても抽出を行い、今後の社会実装に向けた課題を整理することを目的とした。

    文献検索にはPubMedを用いた。キーワード検索条件として、(digital twin*)AND (medic* OR health*) を用いて、文献を検索した。検索日は2022年7月1日であった。一次スクリーニングとして、表題と抄録から、広義・狭義のデジタルツイン技術の医療・健康分野における応用可能性について言及している文献を抽出した。また、英語の文献でないものを除外した。二次スクリーニングとして全文を読み、具体的な広義・狭義のデジタルツイン技術の応用や、それらのELSIに関連する記述があるものを抽出した。

    スクリーニングの結果、113件の文献が得られた。内訳は、広義・狭義のデジタルツイン技術の医療・健康分野への応用に関する総論的な文献が11件、個別の領域についての応用に関する文献が88件、ELSIを主なテーマとする文献が14件あった。医療・健康分野への応用については、実用段階に至っているものは多くはなかった。

    また、ELSIに関する議論も「社会への影響」、「個人への影響」につきいくつかの論点が挙げられていたものの、具体的な解決策についての議論は乏しく、トピックの提示に留まっていた。今後、実際の研究動向や社会実装レベルに合わせた、議論の深化が求められる。

  • クリエイターと ユーザー の意思を尊重するために
    あしやま ひろこ
    2022 年 6 巻 1 号 p. 111-132
    発行日: 2022/12/22
    公開日: 2022/12/28
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    現実社会と同じような活動ができる仮想空間としての「メタバース」では、ユーザーは3Dデータ等を自己の「アバター」、すなわち実質的な身体として用いながら生活することとなる。現行のメタバースの中でも自由度が高くユーザーも多いとされるソーシャルVRサービスである「VRChat」では、日本語ユーザーへの既存の調査から、多くのユーザーはアバター用のデータを他者から購入し、加工するかそのままの形で自己のアバターとして用いることが示される。また、ユーザーから人気のある市販アバターの利用規約を分析したところ、殆どで「政治活動」および「宗教活動」が禁止されていることがわかった。

    この制限は私的自治に関する判例や著作権法、実社会における一般的な契約等に照らしても合理性があると考えられるため、アバターの流通を市場経済だけに任せた場合、多くのユーザーはアバターを購入して利用する場合に、参政権や信教の自由に関連した行為がメタバース上で制約を受けることとなる。しかしこの問題を解消するために、数多く存在する売り手(クリエイター)の意に反して、当該制限を無効とさせるように国家が強制することは解決方法として適切とは言いがたい。精神的自由は国家権力の介入を許さないことが本質であり、公共の福祉による制約は反道徳的・反社会的な結果を生ずる場合にその防止に最小限度において認められる性質のもので、アバターは原理的には誰もが制作可能である以上は利用者の参政権や信教の自由は完全にまでは否定されているわけではなく、クリエイターの思想・良心の自由を一方的に否定することは適当ではないと考えられるためである。また、このような状況でアバターに関する財産権の一部を否定する観点についても、社会全体の利益には結びつかないとも考える。

    本稿ではこの利益の衝突とでもいえる問題の解決策として、広く国民に対してアバターを自ら作るための技能を習得できるような教育機会の提供と、その手段の提供を保障するという方法を提案する。利用者側が自らアバターを創作できないために他者から購入せざるを得ないという状況こそが根本的な課題なのであるからして、利用者が自らアバターを制作できる状況を国が保障できれば先の問題は解決されると考えられるためである。

    アバターを自ら作ることができる技能を得られる機会と手段が国民に保障されれば、アバターの売買における私的自治の尊重に対する正当性がより担保され、結果としてクリエイターによる創作文化や経済活動の発展にも寄与するものと考えられる。

寄稿論文
  • ドイツ連邦ネットワーク庁を手がかりに
    巽 智彦
    2022 年 6 巻 1 号 p. 133-149
    発行日: 2022/12/22
    公開日: 2022/12/28
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    いわゆる公益事業については、参入・退出規制、料金規制、ユニバーサル・サービスの義務付けなど、特徴ある一連の行政規制(領域特定規制)がなされている。他方で、領域特定規制を担う行政組織のあり方も重要な問題である。いずれの点についても特徴的なのがドイツの法制であり、彼の国では「規整法」という学問領域が成立している。とくに領域特定規制の執行を担う行政機関については、ドイツの法制度は特徴的である。すなわち、連邦ネットワーク庁(Bundesnetzagentur)が、電力、ガス、電気通信、郵便および鉄道に関する行政規制の法を一元的に執行しており、かつ同庁は、連邦政府から一定の独立性を確保された官庁である(1)。

    同庁には現在10の局と11の審判部が置かれ、重要な案件では合議体による審判がなされる(2)。同庁は「独立性」を有する機関である点に特徴を有するが、そこでいう「独立性」は多義的であり、①所有と規制の分離、②事業者からの距離の確保、③政治的影響力の排除、④競争官庁からの分離に腑分けすることができる(3)。こうしたドイツの連邦ネットワーク庁の制度設計やそれをめぐる議論から得られる示唆を確認することが、本稿の目的である(4)。

立案担当者解説
  • 秋山 真二, 武田 朋大, 榎 宏謙, 本村 優希, 本田 知之, 東條 悟志, 岩坪 昌一
    2022 年 6 巻 1 号 p. 151-179
    発行日: 2022/08/05
    公開日: 2022/12/28
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    第208回通常国会において成立した「電波法及び放送法の一部を改正する法律」は、電波の公平かつ能率的な利用を促進するため、①電波監理審議会の機能強化、②特定基地局の開設指針の制定に関する制度の整備、③電波利用料制度の見直し等を行うほか、近年の放送を取り巻く環境の変化等を踏まえ、④情報通信分野の外資規制の見直しを行うとともに、⑤日本放送協会の受信料の適正かつ公平な負担を図るための制度の整備等の措置を講ずるものである。

    ①については、電波の有効利用の程度の評価は、これまで総務大臣が電波の利用状況調査の結果に基づき行ってきたところ、技術の進展等に対応したより適切な評価を行うため、広い経験と知識を有する委員から構成される電波監理審議会が行うこととする。また、電波監理審議会からの勧告に基づき総務大臣が講じた施策について電波監理審議会への報告を義務付けることとする。

    ②については、総務大臣は、携帯電話等の既設電気通信業務用基地局が使用している周波数を使用する特定基地局の開設指針については、次の場合に限り定めることができることとする。

    ・ 当該既設電気通信業務用基地局が使用している周波数についての有効利用評価の結果が一定の基準に満たないとき

    ・ 後述の、開設指針の制定をすべき旨を総務大臣に申し出ることができる制度に基づき申出がされた開設指針の制定が必要であると決定したとき

    ・ 電波の公平かつ能率的な利用を確保するため、携帯電話等の周波数の再編が必要と認めるとき

    その他、上記の開設指針について、その制定をすべき旨を総務大臣に申し出ることができる制度を創設する。また、携帯電話等の周波数の割当てに当たって、開設指針の記載事項として、例えば、事業者ごとの割当て済みの周波数の幅等を勘案して、事業者ごとに申請可能な周波数の幅の上限に関する事項など電波の公平な利用の確保に関する事項を追加する。加えて、電気通信業務を行うことを目的とする特定基地局の認定開設者は、認定計画に記載した設置場所以外の場所においても、特定基地局の開設に努めなければならないこととする。

    ③については、今後3年間(令和4年度~令和6年度)の電波利用共益事務の総費用等や無線局の開設状況の見込み等を勘案した電波利用料の料額の改定を行う。また、電波利用料の使途として、Beyond 5Gの実現等に向けた研究開発のための補助金の交付を追加する。

    ④については、基幹放送の業務の認定申請書や基幹放送局の免許申請書の添付書類等の記載事項として、外国人等が占める議決権の割合等を追加するとともに、当該事項の変更を届出義務の対象に追加する。また、外資規制違反に対し、一定の要件を満たす場合にその是正を求める制度を整備する。

    ⑤については、日本放送協会は、毎事業年度の損益計算において生じた収支差額が零を上回るときは、当該上回る額の一定額を還元目的積立金として積み立てるとともに、積み立てた額は、次期の中期経営計画の期間における受信料の額の引下げの原資に充てなければならないこととする。また、受信契約の条項の記載事項を法定化するとともに、受信契約の締結義務の履行を遅滞した者に対して日本放送協会が徴収することができる当該義務の履行を遅滞した期間の割増金に関する事項を規定することとする。

    その他、基幹放送事業者が、基幹放送の業務等の休止又は廃止をしようとするときは、その旨を公表しなければならないこととする等の所要の制度整備を行うこととする。

  • 中川 将史, 関口 温子, 江口 雄太, 永井 賢太朗, 中島 明彦
    2022 年 6 巻 1 号 p. 181-195
    発行日: 2022/08/05
    公開日: 2022/12/28
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    第208回通常国会において成立した電気通信事業法の一部を改正する法律は、電気通信事業を取り巻く環境変化を踏まえ、電気通信役務の円滑な提供及びその利用者利益の保護を確保するため、①ブロードバンドサービスに関するユニバーサルサービス制度の整備、②利用者に関する情報の適正な取扱いに係る制度の整備、③卸協議の適正性の確保に係る制度の整備等を行うものである。

    ①については、一定のブロードバンドサービスを基礎的電気通信役務(ユニバーサルサービス)に位置づけ、不採算地域におけるブロードバンドサービスの安定した提供を確保するための交付金制度を創設するとともに、基礎的電気通信役務に該当するサービスには、契約約款の作成・届出義務、業務区域での役務提供義務等を課すものである。

    ②については、利用者の利益に及ぼす影響が大きい電気通信役務を提供する電気通信事業者が取得する特定利用者情報の適正な取扱いを確保するため情報取扱規程の策定等を義務付けるとともに、電気通信事業者等が利用者に関する情報を第三者に送信させようとする場合、利用者に確認の機会を付与することとするものである。また、検索情報電気通信役務(検索サービス)及び媒介相当電気通信役務(SNS)を提供する電気通信事業を電気通信事業法の届出等の対象とすることとしている。

    ③については、携帯大手3社、NTT東日本・NTT西日本の指定設備を用いた卸役務に係るMVNO等との協議の適正化を図るため、卸役務の提供義務及び料金算定方法等の提示義務を課すものである。

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