第208回通常国会において成立した「電波法及び放送法の一部を改正する法律」は、電波の公平かつ能率的な利用を促進するため、①電波監理審議会の機能強化、②特定基地局の開設指針の制定に関する制度の整備、③電波利用料制度の見直し等を行うほか、近年の放送を取り巻く環境の変化等を踏まえ、④情報通信分野の外資規制の見直しを行うとともに、⑤日本放送協会の受信料の適正かつ公平な負担を図るための制度の整備等の措置を講ずるものである。
①については、電波の有効利用の程度の評価は、これまで総務大臣が電波の利用状況調査の結果に基づき行ってきたところ、技術の進展等に対応したより適切な評価を行うため、広い経験と知識を有する委員から構成される電波監理審議会が行うこととする。また、電波監理審議会からの勧告に基づき総務大臣が講じた施策について電波監理審議会への報告を義務付けることとする。
②については、総務大臣は、携帯電話等の既設電気通信業務用基地局が使用している周波数を使用する特定基地局の開設指針については、次の場合に限り定めることができることとする。
・ 当該既設電気通信業務用基地局が使用している周波数についての有効利用評価の結果が一定の基準に満たないとき
・ 後述の、開設指針の制定をすべき旨を総務大臣に申し出ることができる制度に基づき申出がされた開設指針の制定が必要であると決定したとき
・ 電波の公平かつ能率的な利用を確保するため、携帯電話等の周波数の再編が必要と認めるとき
その他、上記の開設指針について、その制定をすべき旨を総務大臣に申し出ることができる制度を創設する。また、携帯電話等の周波数の割当てに当たって、開設指針の記載事項として、例えば、事業者ごとの割当て済みの周波数の幅等を勘案して、事業者ごとに申請可能な周波数の幅の上限に関する事項など電波の公平な利用の確保に関する事項を追加する。加えて、電気通信業務を行うことを目的とする特定基地局の認定開設者は、認定計画に記載した設置場所以外の場所においても、特定基地局の開設に努めなければならないこととする。
③については、今後3年間(令和4年度~令和6年度)の電波利用共益事務の総費用等や無線局の開設状況の見込み等を勘案した電波利用料の料額の改定を行う。また、電波利用料の使途として、Beyond 5Gの実現等に向けた研究開発のための補助金の交付を追加する。
④については、基幹放送の業務の認定申請書や基幹放送局の免許申請書の添付書類等の記載事項として、外国人等が占める議決権の割合等を追加するとともに、当該事項の変更を届出義務の対象に追加する。また、外資規制違反に対し、一定の要件を満たす場合にその是正を求める制度を整備する。
⑤については、日本放送協会は、毎事業年度の損益計算において生じた収支差額が零を上回るときは、当該上回る額の一定額を還元目的積立金として積み立てるとともに、積み立てた額は、次期の中期経営計画の期間における受信料の額の引下げの原資に充てなければならないこととする。また、受信契約の条項の記載事項を法定化するとともに、受信契約の締結義務の履行を遅滞した者に対して日本放送協会が徴収することができる当該義務の履行を遅滞した期間の割増金に関する事項を規定することとする。
その他、基幹放送事業者が、基幹放送の業務等の休止又は廃止をしようとするときは、その旨を公表しなければならないこととする等の所要の制度整備を行うこととする。
The Act to Partially Amend the Radio Act and the Broadcasting Act which was approved by the 208th ordinary session of the Diet, is composed of five elements; (1) Strengthening the functions of the Radio Regulatory Council, (2) Creating a system for reassigning frequencies for mobile phones and other systems, (3) Revising the Spectrum User Fee system, (4) Revising restrictions on foreign investment in the information and telecommunications sector, (5) Arranging for mechanisms to ensure the appropriate and fair sharing of NHK Subscription Fees, and other related amendments.
Specifically, as for (1), up until now, assessments regarding the degree to which radio spectrum is being utilized effectively have been implemented by the Minister of Internal Affairs and Communications based on the results of actual utilization surveys; under the amended Radio Act, the assessments will be implemented by the Radio Regulatory Council, which is made up of council members who have broad-ranging experience and knowledge, in order to allow for the implementation of more appropriate assessments that are adapted to matters such as technological progress. The amending act enables the Radio Regulatory Council to make the necessary recommendations to the Minister of Internal Affairs and Communications regarding effective utilization assessments, and requires the Minister to report to the Council on measures taken based on its recommendations.
As for (2), the amending act makes it possible to reassign frequencies that are being used by base stations, for telecommunications operations involving devices such as mobile phones, under the following cases:
- If the result of an effective utilization assessment by the Radio Regulatory Council does not meet certain standards.
- If the Minister of Internal Affairs and Communications determines that a reassignment review is necessary based on a competing application.
- If the Minister of Internal Affairs and Communications determines that frequencies for mobile phones and other systems need reassigning to ensure fair and efficient use of radio waves
In addition, the amendment newly establishes a system for allowing requests for reassignment reviews. Under the amended act, information for ensuring fair use of the radio spectrum, such as information on the maximum bandwidth that each business can apply for in consideration of the aggregate bandwidth they already hold, is added as information that is to be included in the establishment guidelines for mobile phones and other systems.
As for (3), the amending act modifies spectrum user fees while taking into account matters such as aggregate expenses for spectrum users’ common benefit in the next three years (FY2022 to FY2024) and the expected operational status of radio stations.
The amendment makes it possible to use spectrum user fees to issue grants for research and development that are aimed at matters such as the realization of Beyond 5G (6G).
As for (4), the amending act adds the ratio of foreign capital and foreign officers as information that is required to be given on applications for certification for basic broadcasting operations, applications for radio station licenses, and elsewhere, and makes it mandatory to provide notifications regarding changes in matters such as the ratio of foreign capital. Moreover, the act arranges for corrective measures upon violation of restrictions on foreign investment.
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令和4年6月10日に公布された電波法及び放送法の一部を改正する法律(令和4年法律第63号。以下「本法律」という。)は、電波の公平かつ能率的な利用を促進するため、電波監理審議会の機能強化、特定基地局の開設指針の制定に関する制度の整備、電波利用料制度の見直し等を行うほか、近年の放送を取り巻く環境の変化等を踏まえ、情報通信分野の外資規制の見直しを行うとともに、日本放送協会(以下「協会」という。)の受信料の適正かつ公平な負担を図るための制度の整備等の措置を講ずるものである。
本稿では、本法律の制定に至る検討の経緯及び論点を紹介した上で、本法律による電波法(昭和25年法律第131号)及び放送法(昭和25年法律第132号)の各改正事項の概要について解説することとしたい。なお、本稿中意見にわたる部分は筆者らの個人的見解であることを予めお断りしておきたい。
本稿では、本法律による改正前の電波法及び放送法を指す場合は、それぞれ「旧電波法」及び「旧放送法」とし、本法律による改正後の電波法及び放送法を指す場合は、それぞれ「新電波法」及び「新放送法」とし、本法律による改正がなされていない電波法及び放送法を指す場合は、それぞれ単に「電波法」及び「放送法」とする。
我が国においては、新型コロナウイルス感染症の流行を一つの契機に、「新たな日常」の確立や経済活動の維持・発展に必要な社会全体のデジタル変革が今後一層進んでいくことが見込まれる。そのような中、デジタル変革を支え、有限希少な国民共有の財産である電波を有効に利用するとともに、その便益が広く国民に及び、我が国の経済と社会を活性化することが必要である。
総務省は、これらを踏まえ、令和2年11月から「デジタル変革時代の電波政策懇談会」(座長:三友仁志早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授)を開催している。本懇談会では、主に、①電波利用の将来像、②デジタル変革時代の電波政策上の課題、③電波有効利用に向けた新たな目標設定及び実現方策について検討を行い、令和3年8月に報告書が取りまとめられた(図1)。本報告書では、特に帯域を必要とする 5G・Beyond 5G など携帯電話網システム、衛星通信・HAPS システム、IoT・無線 LAN システム、次世代モビリティシステムの4つの電波システムについて、2020 年度(令和2年度)末を起点とした周波数の帯域確保の目標として、2025年度(令和7年度)末までに+約 16GHz 幅、2030年代までに+約 102GHz 幅が設定され、デジタル変革時代の電波有効利用方策として、「デジタル変革時代に必要とされる無線システムの導入・普及」、「周波数有効利用の検証及び割当ての方策」、「公共用周波数の有効利用方策」、「デジタル変革時代における電波の監理・監督」及び「電波利用料制度の見直し」に関する提言が盛り込まれた。本法律は本報告書を踏まえて検討されたものである。
図1.デジタル変革時代の電波政策懇談会 報告書(概要)
(出典)総務省資料
情報通信分野においては、電波の有限希少性を理由とする自国民優先の考え方、放送の大きな社会的影響力、更に事業の公共性等に鑑み、電波法、放送法及び日本電信電話株式会社等に関する法律(昭和59年法律第85号)において、無線局の免許や基幹放送の業務の認定等において一定の外国性を有する者を排除する、いわゆる外資規制が課されている。
こうした外資規制が設けられている中で、令和3年3月には(株)東北新社が、同年4月には(株)フジ・メディア・ホールディングスが過去に外資規制に違反していたことが発覚した。(株)東北新社の外資規制違反は、平成29年1月の4K放送事業(ザ・シネマ4K)の業務の認定申請時のものであったため、(株)東北新社から当該事業の承継を受けていた(株)東北新社メディアサービスは、令和3年5月1日付で当該業務の認定が取り消された。
外資規制違反が相次いで発覚したことを踏まえ、総務省では情報通信分野における外資規制に見直しに着手し、令和3年6月より「情報通信分野における外資規制の在り方に関する検討会」(座長:山本隆司東京大学大学院法学政治学研究科教授)(以下「外資規制検討会」という。)を開催し、①情報通信関係法令と外国為替及び外国貿易法(昭和24年法律第228号)との外資規制の適用関係の在り方、②出資規制及び外国人役員就任規制の在り方、③外資規制の実効性確保方策、④外資規制の担保措置の在り方、⑤審査体制の在り方を主要論点として整理の上、具体的な検討が行われた。令和4年1月に取りまとめられた「情報通信分野における外資規制の在り方に関する取りまとめ」では、主に①外資規制のチェックの強化、②外資規制に不適合となった場合の手続きの明確化、③総務省における審査体制の強化、④船舶及び航空機に開設する無線局に係る外資規制の廃止等に関する今後の方向性が提言された(図2)。本法律は本取りまとめを踏まえて検討されたものである。
図2.情報通信分野における外資規制の在り方に関する取りまとめ(概要)
(出典)総務省資料
総務省は、近年の放送を取りまく環境変化等を踏まえた放送に関する諸課題について検討を行うため、「放送を巡る諸課題に関する検討会」(座長:多賀谷一照千葉大学名誉教授)を平成27年11月より開催している。「放送を巡る諸課題に関する検討会」において、協会の「業務」・「受信料」・「ガバナンス」という三位一体改革のフォローアップや受信料制度の在り方について検討が必要であると示されたことを受け、令和2年4月より、「放送を巡る諸課題に関する検討会」の下に「公共放送の在り方に関する検討分科会」(分科会長:多賀谷一照千葉大学名誉教授)を開催し、検討を行ってきた。
検討事項のうち、受信料制度の在り方については、令和2年6月26日の第4回会合以降、諸外国の公共放送の受信料制度について比較検討を行うとともに、協会及び関係団体へのヒアリングにより示された制度改正等に関する要望事項も踏まえて検討が進められ、令和3年1月にとりまとめられた「公共放送と受信料制度の在り方に関するとりまとめ」では、①一定水準を超える剰余金を還元目的の「積立金」として受信料の引下げに充当する制度の導入、②中間持株会社制の導入、③公平負担のための割増金、④協会による民間放送事業者との協力の努力義務等の方向性が示された(図3)。本法律は本とりまとめを踏まえて検討されたものである。
図3. 公共放送と受信料制度の在り方に関するとりまとめ(概要)
(出典)総務省資料
電波監理審議会は、電波及び放送に関する事務の公平かつ能率的な運営を図り、電波法及び放送法の規定によりその権限に属させられた事項(例えば、電波法及び放送法に基づく必要的諮問、勧告等)を処理するため、総務省に置かれている(電波法第99条の2)。
総務大臣は、周波数割当計画の作成・変更、電波の有効利用の程度の評価(以下「有効利用評価」という。)、開設指針の制定等について、電波監理審議会に諮問しなければならないとされている(旧電波法第99条の11第1項第2号)。また、電波監理審議会は、諮問事項に関し、総務大臣に対して必要な勧告ができる(旧電波法第99条の13)。
3.1.2.電波の利用状況調査・有効利用評価について総務大臣は、電波の利用状況の調査(以下「利用状況調査」という。)及び有効利用評価を行い(旧電波法第26条の2)、当該評価を踏まえた周波数割当計画の変更を行う(電波法第26条)ことで、需要や技術動向に応じた周波数の割当てを行っている(図4)。なお、携帯電話等(携帯電話及び全国BWA(Broadband Wireless Access:広帯域移動無線アクセスシステム)をいう。以下同じ。)については、特に技術革新の進展が速く、無線局の数や無線局が行う無線通信の通信量が継続的に増加し、急速に利用状況が大きく変化することから、携帯電話等に係る利用状況調査は、平成30年度から毎年度実施している。
図4.周波数再編のPDCAサイクル
(出典)総務省資料
携帯電話等のように、需要が大きく、技術革新の進展が速いシステムに利用される周波数の電波監理については、常に技術革新等に対応するよう高度の専門性を要する。
また、適切な電波監理を実施するに当たっては、携帯電話等以外のシステムも含め、電波の利用状況全体を考慮・俯瞰し、周波数全体の電波の有効利用の状況につき、高度な専門性を踏まえて把握・評価することにより、電波の有効利用を促進する必要がある。
3.1.4.電波監理審議会の機能強化の必要性 (1)電波監理審議会による利用状況調査への関与旧電波法においては、総務大臣が利用状況調査を行い、その結果に基づき有効利用評価を行うこととされており(旧電波法第26条の2第1項及び第2項)、電波監理審議会は、(必要的諮問事項である)有効利用評価について総務大臣から諮問を受けて答申を行うが(旧電波法第99条の11)、調査・評価の主体ではないこととされていた。
しかし、上述のとおり、携帯電話等を中心に技術革新の進展が速く、今後、より高度な専門性が要求される有効利用評価を実施するため、これまで総務大臣が実施してきた有効利用評価について、広い経験と知識を有する委員から構成される電波監理審議会を実施主体とするなど、電波監理審議会の機能強化を行う必要がある。
(2)電波監理審議会による勧告機能電波監理審議会は、必要的諮問事項に関し、総務大臣に対して必要な勧告を実施可能だが(旧電波法第99条の13)、旧電波法においては、勧告を受けた総務大臣に勧告内容の公表を義務付けるのみで、措置内容の報告等を義務付けていない。
電波の有効利用を促進するため、電波監理審議会による勧告をより有効に機能させるには、電波監理審議会による勧告に対して総務大臣が講じた施策を電波監理審議会に報告させることにより、電波監理審議会が過去の勧告の実施状況を適切に把握し、それらを前提としてより適切な勧告を実施することを可能とする必要がある。
3.2.改正の概要 3.2.1.電波監理審議会による有効利用評価これまで総務大臣が行ってきた有効利用評価について、技術革新等に対応したより適切な評価を行うため、広い経験と知識を有する委員から構成される電波監理審議会が行うものとする。
3.2.2.電波監理審議会による勧告機能の強化等有効利用評価の主体を電波監理審議会とすることにより、有効利用評価に関する事項は電波監理審議会への必要的諮問事項とする必要はなくなる。一方、有効利用評価は、周波数の再編等に加えて今般の改正で再割当て(新電波法第27条の12第2項の規定を踏まえ、開設指針を制定し、開設計画の認定を行うこと。以下同じ。)に関連付けられる。重要性が高まる有効利用評価のプロセス全体に、電波監理審議会を主体的に関与させることにより電波の有効利用に資することが期待されることから、電波監理審議会が総務大臣に対し必要な勧告ができる事項に有効利用評価に関する事項を追加するとともに、総務大臣が勧告に基づき講じた施策について電波監理審議会への報告を義務付けることとする。
携帯電話等の基地局(以下「電気通信業務用基地局」という。)については、通信の相手方である携帯端末の移動範囲における無線通信を確保するため、同一の周波数を使用して、広範囲にわたって、相当数開設されることが必要となる。広範囲の開設には一定期間を要するところ、当該開設が行われていない地域で他者が当該開設に必要な周波数を使用する無線局の免許を申請した場合には、無線局免許の原則1に基づくと、当該周波数が割当可能である以上、当該免許を付与せざるを得ない状況が生じ得る。そのような場合には、電気通信業務用基地局の開設に必要な周波数が他の免許人の無線局に使用され、当該電気通信業務用基地局の広範囲の開設が困難となるため、そのような状況が生じないように、電波法では、無線局の免許手続の特例として、特定基地局の開設計画に関する認定制度を設けている。
当該制度では、電気通信業務用基地局のうち電波の公平かつ能率的な利用を確保するためその円滑な開設を図ることが必要と認められるものを「特定基地局」と位置付けた上で、
携帯電話等の通信量の増大等により携帯電話等用の周波数はひっ迫傾向にあるところ、有限希少な電波の中から新たな周波数を携帯電話等用に割り当てることには限界があるため、既に開設されている電気通信業務用基地局(以下「既設電気通信業務用基地局」という。)が現に使用している周波数(以下「使用周波数」という。)の電波の有効利用を図る必要性が高まっている状況にある。
既設電気通信業務用基地局が電波を有効利用していない場合は、当該周波数を使用した新たな特定基地局の開設指針(以下「再割当てに係る開設指針」という。)を定めてその開設を図ることが必要となり2、当該開設指針を制定することは、電波法の文言上排除されていない3。しかし、
から、再割当てに係る開設指針を制定する場合には、あらかじめその要件の明確化や手続保障の整備等を図った上で行うことが必要となる5。
4.1.3.電波の公平な利用の確保に関する事項の開設指針等への追加の必要性電波法の目的の一つである電波の公平な利用(できるだけ多くの者が電波を利用すること、免許人間で使用する周波数の幅の均衡が取れていること等)の確保は、有限希少な電波の割当てを受けられる者は限られることから、重要である。
従来の開設指針では、電波の公平な利用の確保に関する事項は、バスケット条項(特定基地局の円滑な開設の推進に関する事項その他必要な事項)(旧電波法第27条の12第2項第9号)に基づき規定していたが、今回、周波数の再割当てに係る制度の整備に伴い、開設計画の認定の有効期間を原則10年に延長すること6により、認定開設者(開設計画の認定を受けた者をいう。以下同じ。)が認定に係る周波数を排他的に利用できる期間が長延化するため、長期間の排他的利用が認められる当該周波数の公平な利用を確保することが一層必要となる。
4.2.改正の概要電波法の目的である「電波の公平かつ能率的な利用を確保することによって、公共の福祉を増進すること(電波法第1条)」を一層図るため、電気通信業務用基地局が使用する周波数について、以下の3つの時期ごとに必要な措置を講ずる。
従来の開設指針の記載内容等を踏まえ、以下の事項を開設指針の記載事項として明確化する。それに対応し、開設計画の記載事項を明確化する。
認定計画には特定基地局の設置場所(カバーエリア)を記載し(旧電波法第27条の13第2項第5号)、認定計画に従って特定基地局を開設しないことは認定の取消事由となる(旧電波法第27条の15第2項第1号)ため、認定計画に記載した設置場所における特定基地局の開設は確保することができる。
他方、事業採算性等の観点から認定計画に記載されない場所も生じ、排他的な免許申請権を有する認定開設者により、当該場所で特定基地局が開設されないと当該場所での電波は死蔵されることになるから、無線通信を確保し、当該電波の有効利用を図るため、認定開設者に当該場所での特定基地局の開設の努力義務を課すこととする。
4.2.3.周波数の再割当てに係る特定基地局の開設指針の制定に関する制度の整備 (1)再割当てに係る開設指針の制定要件の明確化及び手続規定の整備再割当てに係る開設指針の制定が既設電気通信業務用基地局の免許人や利用者に与える影響等の懸念があることに鑑み、総務大臣は、次の①~③の場合に限り、再割当てに係る開設指針を制定することができる旨を明確化する。再割当てに係る開設指針の制定に当たっては、総務大臣に既設電気通信業務用基地局の免許人への意見聴取義務を課すなど、所要の手続規定を整備する。
①既設電気通信業務用基地局の使用周波数の電波の有効利用の程度が一定の基準を満たしていないと認めるとき有効利用評価の結果、既設電気通信業務用基地局の使用周波数の電波の有効利用の程度が一定の基準を満たしていないと認めるときは、当該周波数を使用する特定基地局の開設指針を制定可能とする。
②開設指針の制定の申出を受け、当該申出に係る開設指針を定める必要がある旨を総務大臣が決定したとき(2)の制度に基づき申出がされた開設指針の制定が必要と総務大臣が決定したときは、当該決定に係る周波数を使用する特定基地局について開設指針を制定可能とする。
③電波の公平かつ能率的な利用を確保するため、既設電気通信業務用基地局の使用周波数の再編を行い、新たな特定基地局の開設を図ることが必要であると認めるとき電波の公平かつ能率的な利用を確保するためには、土地に例えれば「区画整理」を行うことが必要な場合があることから、必要な場合には、これに相当する既設電気通信業務用基地局の使用周波数の再編7を行い、再編後の周波数を使用する特定基地局の開設指針を制定可能とする。
図5.新電波法第27条の12第2項に係る特定基地局の開設指針の制定
(出典)総務省資料
5G等の進展により、携帯電話等の周波数の利用ニーズが高まる中、既設電気通信業務用基地局の免許人以外の者において、当該既設電気通信業務用基地局が使用する割当て済みの周波数を当該免許人よりも有効利用できると考えても、当該周波数の割当てを受けることができない。そのため、既設電気通信業務用基地局の使用周波数を使用する電気通信業務用基地局を特定基地局として開設することを希望する者は、当該特定基地局の開設指針の制定を総務大臣に申し出ることができることとする。
総務大臣は、申出を受けた場合は、既設電気通信業務用基地局の免許人及び申出人の意見聴取を行った上で、申出に係る周波数に係る有効利用評価の結果、申出人が開設を希望する特定基地局に係る周波数の電波の有効利用の程度の見込み等を勘案して、申出に係る開設指針の制定の要否を決定することとする。また、申出に係る特定基地局の開設指針の制定の要否の決定をしたときは、要否の決定の旨を申出人及び既設電気通信業務用基地局の免許人に通知するとともに、公表することとする。
(3)再割当てに係る周波数を使用する既設電気通信業務用基地局の再免許申請に係る規定の整備周波数の再割当ての結果、既設電気通信業務用基地局の免許人以外の者が新たに開設計画の認定を受け、排他的な免許申請権が付与される8と、当該周波数に係る他者の免許申請ができなくなるが、既設電気通信業務用基地局の免許人については、直ちに再免許申請ができなくなると、当該免許人の利用者への役務提供に支障が生じるおそれがある。そのため、当該周波数の円滑な移行を図る観点から、当該認定の日から当該周波数の使用期限9までの間を当該周波数の移行期間と捉え、当該移行期間中は、既設電気通信業務用基地局の免許人の再免許申請を可能とする。
4.2.4.その他の規定の整備 (1)開設計画の認定の有効期間の見直し旧電波法において、開設計画の認定の有効期間は原則「5年を超えない範囲」であるが、これは再割当ての実施を想定せずに定められた年数である(実態的には既設電気通信業務用基地局の免許人は、再免許を繰り返して割り当てられた周波数をより長期に使用)。周波数の再割当ては、既設電気通信業務用基地局の免許人の事業運営や投資インセンティブに与える影響が大きいことから、周波数の再割当制度の導入に伴い、その事業運営の安定性や投資コストの回収等に配慮し、認定の有効期間を原則「10年を超えない範囲」に見直すこととする。
また、現在の周波数移行では、既に移行期間が5年を超えるものも発生しており10、加えて、周波数の再割当てに伴い、モバイル市場で競争関係にある携帯電話事業者同士による周波数移行が必要となるが、一部の携帯電話事業者からは、7~10年間の移行期間を求める意見11も表明されている。
したがって、周波数移行が必要とされる場合の認定の有効期間は、改正後の通常の認定の有効期間(10年を超えない範囲)に移行期間(10年を超えない範囲)を加えたものとする。
図6.周波数の再割当てに係る移行期間
(出典)総務省資料
再割当てに係る開設指針を制定し、審査を行った結果、当該開設指針に係る周波数を現に使用している既設電気通信業務用基地局の免許人以外の者が新たな認定開設者となる場合、当該免許人は当該既設電気通信業務用基地局及びその通信の相手方である携帯端末の周波数の使用期限までに当該周波数の使用を終了する必要がある。
旧電波法における終了促進措置は異なるシステム間の周波数移行を想定した制度であるが、電気通信業務用基地局同士の周波数移行であっても、既設電気通信業務用基地局の移行を促進する措置を自ら行いたいと考える新たな認定開設者側の需要に対応するため、当該電気通信業務用基地局同士の終了促進措置を導入することとする。
(3)電気通信紛争処理員会によるあっせん及び仲裁の対象の拡大旧電波法における終了促進措置(異なるシステム間の周波数移行)を含め、終了促進措置に関する契約の締結に当たっては協議が調わない可能性があることから、協議が調わない場合に電気通信紛争処理委員会にあっせん・仲裁を申請できるようにすることとする。
(4)無線局の免許の取消し等の対象の拡大4.2.3.(3)のとおり、周波数の再割当てにより、既設電気通信業務用基地局の免許人以外の者が認定を受けた場合、当該周波数の円滑な移行を図る観点から、当該認定の日から当該周波数の使用期限までの間を当該周波数の移行期間と捉え、当該移行期間中は、既設電気通信業務用基地局の免許人の再免許申請を可能とする。この場合において、当該使用期限が到来するまでの間に再免許が行われる時は、運用上、免許の有効期間が当該使用期限を超えないように条件を付して再免許することが可能である12。
一方、電波の有効利用を図るため、当該使用期限を免許の有効期間中に設定することが必要な場合も想定されるため、そのような場合には、免許の有効期間中であっても、当該使用期限後に当該既設電気通信業務用基地局の周波数の変更や免許の取消しを可能とする。なお、これらの行為によって生じた損失は、当該免許人に対して補償しなければならないとしている(電波法第76条の3第2項)。
電波利用料とは、電波の監視等の電波の適正な利用の確保に関し総務大臣が無線局全体の受益を直接の目的として行う事務(電波利用共益事務)の処理に要する費用(電波利用共益費用)を、その事務の受益者である無線局の免許人等に負担させるものとして、平成4年の法改正により導入されたものである。
電波利用料制度については、少なくとも3年ごとに見直すこととされている。直近では、令和元年に「電波法の一部を改正する法律」(令和元年法律第6号)により、電波利用料制度の改正が行われたところである。
電波利用料の料額は、電波法第103条の2及び電波法別表第6から第9までにおいて規定されている。当該料額は、通例では3年間を一期間として、当該期間に必要と見込まれる電波利用共益費用を、当該期間に開設していると見込まれる無線局の免許人等で負担することとして、無線局の区分ごとに定めるものである。例えば、改正前の料額は、令和元年度から令和3年度までの3年間に見込まれる電波利用共益費用(年平均750億円)や無線局の開設状況等を勘案して定められたものである。
「デジタル変革時代の電波政策懇談会」においては、次期(令和4年度から令和6年度までを想定)の料額の算定方法について議論が行われ、同懇談会の報告書において「現在の料額算定の枠組みは維持することが適当」と取りまとめられた。
5.1.2.電波利用料の使途電波利用料の使途となる電波利用共益事務は、電波法第103条の2第4項各号に列挙されている13。
旧電波法第103条の2第4項第3号では、電波の有効利用技術の研究開発事務として、「①周波数を効率的に利用する技術、②周波数の共同利用を促進する技術又は③高い周波数への移行を促進する技術としておおむね5年以内に開発すべき技術に関する無線設備の技術基準の策定に向けた研究開発」を規定している。
近年、無線システムは目覚ましい進展を続けており、今後、あらゆる産業・社会の基盤となっていくことが想定されている。新たな無線システムの実現に向けては、より一層の通信量の増大や広帯域での電波利用が想定されており、周波数ひっ迫対策の観点からこれらに対処していくためには、電波の有効利用技術の研究開発に早期に取り組んでいく必要がある。
また、現在、旧電波法第103条の2第4項第3号の研究開発は、総務大臣が研究開発の主体として研究開発課題を設定し、委託先を公募して実施している。他方で、今後の新たな無線システムの実現に向けた研究開発においては、その実現に必要となる要素技術の研究開発の難易度が飛躍的に高まるととともに、諸外国との研究開発競争の中で、最新の動向も見極めながら、広範な研究開発課題に対応していくことが求められていることから、知見や経験を有する外部の機関が実施する研究開発の成果についてもより広く取り入れて、効率的かつ効果的に研究開発を実施し、無線設備の技術基準に反映していく必要がある。
図7.Beyond5G(いわゆる6G)について
(出典)総務省資料
「デジタル変革時代の電波政策懇談会」の報告書等を踏まえ、改正前の料額算定の枠組みを維持することとする。これを前提として、新電波法別表第6等の料額を算定する。算定方法の概要は次のとおり。
① 1年当たりの電波利用共益費用を、a群に係る費用とb群に係る費用に配分する。
b群:電波の適正な利用を確保するために必要な恒常的な事務(不法電波の監視、総合無線局監理システムの運用等)
② a群に係る費用については、次の3段階により、使用する電波の利用価値を勘案して各無線局に配分することにより、無線局ごとの料額を算定する。
第2段階:帯域区分ごとに配分された費用を、当該帯域区分内の無線システムごとに配分する。当該配分は、無線システムごとの割当周波数帯幅に基づき行うが、一部の無線システムについては電波の利用形態や公共性等の特性を勘案した特性係数を適用する。
第3段階:無線システムごとに配分された費用を個別の無線局に配分する。その際、必要に応じて、各無線局の設置場所や出力等を勘案する。なお、広域使用電波に係る電波利用料については、「無線局」ごとに費用を配分して料額を算定するのではなく、周波数帯幅に応じた1MHz当たりの料額を算定する。
③ b群に係る費用については、原則として、電波利用料を負担する無線局の総数で均等割する。ただし、総合無線局監理システムの運用に係る費用の一部については、各無線局のデータベースの情報量に応じて各無線局に配分する。
④ 計算した料額が、改正前の料額と比較して大幅に増加する場合については、増加額が一定の水準となるように計算を行う。
図8.料額算定方法の概要(令和4年改正)
(出典)総務省資料
5.1.2を踏まえ、新電波法第103条の2第4項第3号の研究開発について、総務大臣が研究開発の主体として直接に実施することに加えて、知見や経験を有する外部の機関が主体となって民間企業・大学等への委託等を通じて行う研究開発に対して支援を行うことを可能とするため、新たに当該研究開発のための補助金の交付を加えることとする。
その際、補助金の交付対象とする研究開発は、5.1.2の①から③までの技術の研究開発であることに変わりはなく、補助金の交付は、あくまで研究開発の新たな実施手段として規定することとする。
以上のことから、同号において、「研究開発及び当該研究開発のための補助金の交付」と規定することとする。
放送法及び電波法に基づき、放送の業務を行う者及び無線局の開設・運用をする者において、以下の者(以下「外資規制対象者」という。)に外資規制が課されている。
外資規制は、次の㋐・㋑を理由として課されるものであり、放送関係(上記①~⑤)には、㋑の理由18から(上記③の一部19及び④を除く。)、一般無線局より相対的に重い規制が課されている。
外資規制は、国籍規制、役員規制及び出資規制に分かれ、認定等(放送法第93条第1項の認定、第159条第1項の認定、電波法第4条の無線局の免許、旧電波法第27条の13第1項の開設計画の認定をいう。以下同じ。)の申請時には、国籍規制等を欠格事由として審査する(放送法第93条第1項第7号、第159条第2項第5号並びに電波法第5条第1項及び第4項並びに旧電波法第27条の13第4項第4号)とともに、認定等を受けた後に、国籍規制等に違反した場合には、認定等の必要的取消事由としている(放送法第103条第1項、第166条第1項並びに電波法第75条第1項及び旧電波法第27条の15第1項)。
国籍規制は、外国人等(日本の国籍を有しない人、外国政府又はその代表者及び外国の法人又は団体をいう。以下同じ。)に該当しないことが課されている20(放送法第93条第1項第7号イからハまで及び第159条第2項第5号イ(1)から(3)まで並びに電波法第5条第1項第1号から第3号まで及び第4項第1号)。
役員規制は、外国人等21がその代表者等である法人又は団体に該当しないことが課されており、具体的な規制内容は、放送の業務を行う者かどうか等の社会的影響力に応じて差異が設けられている(放送法第93条第1項第7号ニ及び第159条第2項第5号イ並びに電波法第5条第1項第4号及び第4項第2号)。(表1)
[役員規制]外国人等が右欄㋐又は㋑である法人又は団体に該当しないこと (下記:白は放送法、橙は電波法が規制根拠) |
㋐特定役員 | ㋑代表者又は役員の3分の1以上 | |
①認定基幹放送事業者 |
a.地上基幹放送 | ○ | - |
b.衛星基幹放送 c.移動受信用地上基幹放送 |
○ | - | |
②特定地上基幹放送事業者 | ○ | - | |
③基幹放送局提供事業者 |
a.地上基幹放送 | ○ | - |
b.衛星基幹放送 c.移動受信用地上基幹放送 |
× | ○ | |
④移動受信用地上基幹放送をする特定基地局に係る認定開設者 | × | ○ | |
⑤認定放送持株会社 | ○ | - | |
⑥一般無線局の免許人 | × | ○ |
出資規制は、外国人等がその議決権割合の5分の1以上又は3分の1以上を占める法人又は団体に該当しないことが課されており、更に5分の1以上の出資規制は、直接出資規制のみ課される者と間接出資規制も課される者に分かれるなど、外資規制対象者の社会的影響力に応じて差異が設けられている(放送法第93条第1項第7号ニ及びホ並びに第159条第2項第5号イ及びロ並びに電波法第5条第1項第4号並びに第4項第2号及び第3号)。(表2)
[出資規制]外国人等が右欄㋐又は㋑の議決権割合を占める法人又は団体に該当しないこと (下記:白は放送法、橙は電波法が規制根拠) |
㋐5分の1以上 | ㋑3分の1以上 | ||
間接出資規制 | 直接出資規制 | |||
①認定基幹放送事業者 | a.地上基幹放送 | ○ | ○ | - |
b.衛星基幹放送 c.移動受信用地上基幹放送 |
× | ○ | - | |
②特定地上基幹放送事業者 | ○ | ○ | - | |
③基幹放送局提供事業者 |
a.地上基幹放送 | ○ | ○ | - |
b.衛星基幹放送 c.移動受信用地上基幹放送 |
× | × | ○ | |
④移動受信用地上基幹放送をする特定基地局に係る認定開設者 | × | × | ○ | |
⑤認定放送持株会社 | ○ | ○ | - | |
⑤一般無線局の免許人 | × | × | ○ |
旧放送法及び旧電波法においては、外国人等が占める議決権の割合や外国人等の役員に関する事項(以下「議決権割合等」という。)は、認定等の申請書や添付書類の記載事項として明文上位置付けられておらず、認定放送持株会社については、認定申請書の記載事項に係る委任省令(旧放送法第159条第3項第5号)、それ以外の者については、実施省令において、認定等の申請書や申請書に添付する書類の記載事項とされていた(旧放送法第93条第3項並びに旧電波法第6条第1項及び第2項並びに第27条の13第2項)。
また、議決権割合等に変更があった場合は、認定放送持株会社には、法律上届出義務が課され(放送法第160条第2号)、当該義務違反には罰則を科す(放送法第192条第1号)ことによりその履行を担保し、それ以外の者のうち一般無線局の免許人以外の者には、総務省令で届出義務等が課されていたが(放送法施行規則(昭和25年電波監理委員会規則第10号)第86条第1項、電波法施行規則(昭和25年電波監理委員会規則第14号)第43条の2第1項及び無線局免許手続規則(昭和25年電波監理委員会規則第15号)第25条の7第1項)、一般無線局の免許人には、総務省令で届出義務が課されていない状況にあった。このほか、無線局の免許を受けた者には、報告徴収権(電波法第81条)に基づき議決権割合等の報告を求めることが可能となっている23。
6.1.4.外資規制に違反した場合の取消猶予措置外資規制の違反は認定等の必要的取消事由とされているが、当該取消しは事業者の事業運営やその受信者の利益等に大きな影響を与えること、また、当該違反状態が治癒されれば認定等を取り消す必要性はなくなることから、当該違反の事情を勘案して必要があると認めるときは、当該取消しを一定期間猶予できる措置が設けられている。
旧放送法及び旧電波法においては、取消猶予措置の対象は、基幹放送事業者及び地上基幹放送に係る基幹放送局提供事業者の間接出資規制違反に限定されていた(旧放送法第103条第2項及び旧電波法第75条第2項)。これは、基幹放送の社会的役割(国民が日常生活や社会生活を営むに当たり必要な情報を提供し基本的情報の共用を促進すること等。以下同じ。)の大きさに加え、基幹放送事業者等の議決権を保有する者を通じて間接に占められる議決権は外国人等による当該基幹放送事業者等の議決権を保有する者の議決権の取得で変動するなど、名義書換拒否制度24や議決権失効制度25等26があっても規制対象者には予見や統制がしにくい事情により違反状態となる蓋然性が高いことを考慮したものである。
6.2.改正の概要 6.2.1.認定申請書等の記載事項への外国人等が占める議決権の割合等の追加等外資規制の実効性を確保するためには、認定等の申請時において議決権割合等を申請させ、これを審査するとともに、申請事項に変更があったときには届出をさせることで、認定等の期間において外資規制の遵守状況を適時に把握する仕組みを構築することが必要である。この点について、本法律による改正前においては「認定等の申請時の規律」及び「変更があった場合の規律」が外資規制対象者により区々であり、変更があった場合の規律にはその担保措置が明確ではないものがあった。
そこで、本法律では、外資規制対象者に対する一律の規律として、議決権割合等について、認定等の申請書又は申請書に添付する書類の記載事項として位置付ける(新放送法第93条第2項第10号及び第159条第3項第5号から第7号まで並びに新電波法第6条第1項第10号、同条第2項第9号及び第27条の14第1項第2号)とともに、これに変更があった場合には届出義務(新放送法第97条第2項及び第160条第2号並びに新電波法第9条第5項、第17条第2項及び第27条の15第5項第1号)を課しその違反は罰則で担保(新放送法第192条第1号並びに新電波法第116条第3号、第4号及び第15号)することとした。
議決権割合等に変更があった場合の届出義務に関して、議決権割合等の変更については、例えば外資比率が低い数値で変動する場合など、変更の内容によっては欠格事由に該当するおそれが少ないものも存在する。このような変更まで総務大臣が把握し、変更の都度これを届け出させる必要はないことから、事業者における社会的影響力及び負担等を考慮し、本法律では、その変更によって外資規制に関する欠格事由に該当することとなるおそれが少ないものとして総務省令で定める要件を満たす変更については変更届出の対象外とした。欠格事由に該当するおそれが少ない変更の具体的内容については、本法律の施行に合わせて整備する省令によって規定することとなる。この届出を要しない変更については次段落に記載する外資規制の遵守に関する定期的な報告の報告事項としている。
これに加え、外資規制の遵守の一層の徹底を図るため、社会的影響力が相対的に低い一部の者(出資規制が直接1/3以上となっている者:衛星基幹放送・移動受信用地上基幹放送の基幹放送局提供事業者、移動受信用地上基幹放送をする特定基地局に係る認定開設者及び一般無線局の免許人等)を除き、外資規制の遵守のために講じた措置の実施状況等を定期的に報告させることとした(新放送法第116条の2及び第161条の2並びに新電波法第80条の2。虚偽報告や報告義務懈怠に対する罰則は新放送法第193条第1号及び新電波法第116条第29号)。この点について、基幹放送局以外の外資規制の適用を受ける一般無線局については、基幹放送局と異なり、①放送が公衆(不特定多数の者)によって直接受信されることを目的とする電気通信の送信(放送法第2条第1号)であるのに対して、一般無線局には公衆性はなく、特定の者に受信されることを目的とするものであること、②基幹放送局の免許は比較審査に基づき行われるのに対して、一般無線局の免許は全て先願主義となっていることから、一般無線局が公共に与える影響は比較的限定的であり、基幹放送事業者等において必要とされる外資規制の遵守を一層徹底するための措置までは要しないとして報告の対象外とした。また、衛星基幹放送又は移動受信用地上基幹放送をする無線局に関しては、これらの無線局は地上基幹放送をする無線局と異なり、複数の基幹放送の業務に用いられるため、個々のソフト事業者との関係性が希薄であり、社会的影響力が大きくはないことから、一般無線局と同等の外資規制が課されている。このような社会的影響力が大きくない基幹放送局に対しては、外資規制の遵守を一層徹底するための措置は要しないとして報告の対象外とした。
6.2.2.取消猶予措置の対象の拡大外資規制対象者が外資規制に違反した場合の措置について、6.1.4.のとおり、取消猶予措置の対象は、基幹放送事業者及び地上基幹放送に係る基幹放送局提供事業者の間接出資規制違反に限定されていた。
この点について、直接出資規制についても、放送事業者等において、外国人等が直接に占める議決権割合の把握において自らの責めに帰すことができない事由で誤りが生じる場合や、事業者自身による議決権比率のコントロールが困難である場合も存在している。基幹放送が今なお社会的役割を有する中で、直接出資規制違反に対して一律に認定を取り消すこととしては、基幹放送に求められる社会的役割を果たすことが困難となる場合もあり得るため、必要があると認めるときは、認定又は免許を取り消さないとすることが適当であるとし、本法律では取消猶予措置の対象を直接出資規制及び役員規制に拡大することとした。
また、認定放送持株会社に対しては、これまで直接出資規制及び間接出資規制のいずれの場合であっても取消猶予措置の対象となっていなかった。しかしながら、認定放送持株会社の認定が取り消された場合、認定放送持株会社の傘下にある基幹放送事業者もまた、外資規制又はマスメディア集中排除原則を理由に認定若しくは免許が取り消される又は拒否され、放送が停止する事態が生じ得ることとなる。このため、認定を取り消された認定放送持株会社においては、傘下の基幹放送事業者が外資規制等に関する欠格事由に該当することがないよう、保有する株式を譲渡する必要があるが、このような認定放送持株会社の持分を減らす取組は、デジタル化の進展に伴う競争の激化等の厳しい経営環境にある放送分野の経営上の課題に対して、放送持株会社によるグループ経営を通じて対処することができるようにすることを目的とする認定放送持株会社制度の趣旨を没却することとなる。このような外資規制の趣旨・目的及び認定放送持株会社の役割を踏まえ、本法律においては、取消猶予措置の対象を認定放送持株会社にも拡大することとした。
本法律では、取消猶予措置の対象を拡大するとともに、取消猶予措置に係る手続規定を置くこととした。旧放送法第103条第2項の取消猶予の規定に関しては、外資規制に違反した事業者に対し、同条第1項の規定により取消手続に直接進むのか、又は同条第2項の規定により取消猶予の手続に進むのかが明確でなく、総務大臣の裁量に委ねられていたため、認定基幹放送事業者が猶予の利益を受けることできるか不安定な地位に置かれていた。取消しの猶予に関する決定は取消しと表裏一体の関係を有する行政処分であるため、認定基幹放送事業者に対して取消しの猶予に関する決定を受けられる機会を保障することが望ましいことから、本法律では、総務大臣に対して猶予するか否か決定する義務を課し、取消しに関する処分の前に猶予に関する決定をする必要があること、また当該決定を行った場合には当該決定に係る外資規制対象者に対して理由を付して決定内容を通知することを規定した。(図9)
図9.外資規制に関する欠格事由に該当した場合の取消しの手続
(出典)総務省資料
あわせて、本法律では認定等を取り消すこととするか、取り消さないこととして猶予を与えるかの決定においては、①外資規制に関する欠格事由に該当することとなった状況、②取り消すこと又は取り消さないことが、認定等に係る基幹放送の受信者の利益に及ぼす影響等を勘案することとした(新放送法第103条第2項及び第166条第2項並びに新電波法第27条の16第2項及び第75条第2項)。①については、⑴どの欠格事由(直接出資規制、間接出資規制又は役員規制)に該当したか、⑵出資規制に関する違反であれば基準を超過した割合、⑶故意、過失の程度、⑷届出を意図的に遅らせ、違反の事実を隠蔽する意図がなかったかといった事項を勘案することにより、欠格事由に該当することとなった認定基幹放送事業者の帰責の程度が評価されることとなる。
②については、取消しによる影響として基幹放送事業者等の放送が停止することによって受信者が基幹放送を通じて必要な情報を取得できなくなるか、また、取り消さないことによる影響として、議決権を保有する外国人等の意図、例えば、経済的利益の追求にあるのか、事業者の経営判断への影響力の行使にあるのか、といった点から違反があった基幹放送事業者等の放送が継続されることによる影響を勘案することとなる。
②について、認定放送持株会社においては、認定基幹放送事業者と異なり、自らが放送を行うものではないため、当該認定放送持株会社に係る受信者の利益というものは存在しない一方、認定放送持株会社に対して取消しを猶予する意義が前述のとおり、傘下の基幹放送事業者が行う放送の継続性を確保すること、また、基幹放送事業者の経営上の課題に対して放送持株会社によるグループ経営を通じて対処するという認定放送持株会社制度の趣旨を維持することにあることから、傘下の基幹放送事業者の利益と、当該基幹放送事業者が行う基幹放送の受信者に及ぼす影響を勘案事項とした(新放送法第166条第2項第2号)。一般無線局においても、一般無線局に対して取消しの猶予を与えるのは、これらの無線局については公共性が高いものが多く、外資規制の違反を理由として直ちに免許の取消しを行い、その運用を停止させた場合には、公共の安全や航行の安全等が脅かされるおそれがあることから、公共の利益に及ぼす影響を勘案することとした(新電波法第75条第2項第2号ロ)。
6.2.3.外資規制の廃止及び緩和 (1)船舶又は航空機に開設する無線局の外資規制の廃止船舶や航空機に開設する無線局のうち、実験等無線局、アマチュア無線局及び外国の船舶や航空機に開設する無線局27については、外資規制が廃止されているが、日本の船舶や航空機に開設する無線局については外資規制が課されている状況にある。
日本の船舶や航空機に開設する無線局については、船舶及び航空機については、これらを利用して行う内航海運業、漁業及び航空運送業に外資規制が課されていることから、電波法で規定する外資規制を廃止した場合でも新たに開設される無線局数は限定的であり、電波の自国民優先利用が害される事態は生じないと考えられること、また、船舶又は航空機に開設される無線局は、多くの先進国で外資規制が設けられていないことを考慮し、本法律により外資規制を廃止することとした(新電波法第5条第2項)。
(2)コミュニティ放送の間接出資規制の廃止コミュニティ放送は、地上基幹放送に該当し、県域を放送対象地域とするテレビジョン放送や超短波放送と同様に最も厳しい水準の外資規制が課されているが、市町村の全部又は一部を放送区域とする小規模な超短波放送であるため、その特性に応じた外資規制の緩和が要望されている。
コミュニティ放送は、放送区域が市町村の全部又は一部と狭く受信者の数も相対的に少ないため、県域を放送対象地域とする地上基幹放送に比べると相対的に社会的影響力が小さいこと、その放送区域は、同じ超短波放送の県域放送が重畳してカバーし地域に必要な情報を提供する役割を果たしているため、適切な水準の規制を課すことを前提にコミュニティ放送の外資規制を現行水準よりも緩和したとしても特段の問題が生じるとは考えにくいこと、県域を放送対象地域とする地上基幹放送に比べて相対的に社会的影響力が小さい衛星基幹放送や移動受信用地上基幹放送については、役員規制や直接出資規制は地上基幹放送と同水準の規制が課される一方、間接出資規制は規制対象外となっていることなどを踏まえ、コミュニティ放送に係る間接出資規制を廃止することとした(新放送法第93条第1項第7号及び同条第2項第10号ハ並びに新電波法第5条第4項第3号及び第6条第2項第9号ハ)。
協会は、あまねく日本全国において受信できる豊かで良い放送番組による国内基幹放送(国内放送である基幹放送をいう。)等を行うことを目的として設立された特殊法人であり(放送法第15条)、その事業運営の財源は、受信契約を締結した者(以下「締結者」という。)が支払う受信料から賄うこととされている(広告放送は禁止(放送法第83条第1項))。
受信契約は、協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者(以下「受信設備設置者」という。)にその締結が義務付けられ(放送法第64条第1項)、受信料の額は、国会が協会の収支予算を承認することによって定まることとされている(放送法第70条第4項)。
受信料の徴収に関して、現在、受信契約の締結義務を負う者の約17%が受信契約の未締結者となっている(令和2年度末)。未締結者のうち、受信契約の締結義務の履行を遅滞した者(以下「義務不履行者」という。)が支払わない受信料費用は、同時期に受信設備を設置しながら、速やかに受信契約を締結した者(以下「義務履行者」という。)の負担に転嫁されていることに加え、義務不履行者への営業費用は義務履行者が支払う受信料で賄われているなど、義務履行者と義務不履行者の間には不公平が生じている。
他方、受信料の額は、収支予算作成時に必要と見込まれる受信料収入の予想額に基づき算定され、実際には受信料の徴収率の上昇による収入増や経営努力による費用減等が生じるため、事業年度終了後の決算では剰余金が生じ得る構造にあり、近年はその蓄積額が増加傾向にある(令和2年度末で1,600億円弱)。
適正水準を超える剰余金は、受信料の額が総括原価方式による収支相償の考え方に基づき算定されることに鑑みると、適正水準を超える受信料の額を徴収したことの現れとなるため、後年度の受信料の額の引下げに用いて受信料負担の適正化を図ることが適当である。
この点、国会の附帯決議等28は、協会に対し剰余金の現状を踏まえた受信料体系・水準の在り方の検討を求めているが、協会はこれまで受信料の額の引下げには慎重な傾向にあった(これまで剰余金を受信料の引下げに充てる制度は存在していなかったが、過去70余年の協会による受信料の額の引下げ実施の実績は、平成24年度、令和2年度の2回であり、現実に引下げが行われることは少なかった。)。
7.1.2.協会による出資の制度協会の合理化、効率化を図るためには協会本体が行うよりも、他の独立の事業者を利用した方が適当な場合があることから、旧放送法第22条は、協会は放送法第20条第1項(本来業務)又は第2項(目的達成業務)の業務を遂行するために必要がある場合には、総務大臣の認可を受けて、出資をすることができると規定している。一方、出資の資金は受信料で賄われるものであることから、出資の対象は法律や政令で定めるものに限定されている。具体的には、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)、放送法第140条第2項に規定する指定再放送事業者及び本来業務又は目的達成業務に密接に関連する政令で定める事業を行う者が出資の対象である。協会においては本出資の制度を活用し、現在11の子会社を保有している。
これらの協会の子会社の業務は、受信料を原資とする協会からの業務委託費によって実施されているものもあり、子会社の経営管理業務を適正に行い、子会社の業務の効率的な遂行を図ることで協会からの受信料費用の支出が抑制されることが期待される。しかし、子会社の経営管理業務を行うことを目的とする関連事業持株会社、いわゆる中間持株会社に対して協会が出資をすること、また、協会が中間持株会社を介して子会社に間接的に出資することは旧放送法第22条の規定では認められていなかった。
7.1.3.日本放送協会と民間放送事業者との連携放送法は、「放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障する」ことを目的の一つとし(放送法第1条第1号)、公共放送と民間放送の双方の普及を実現するため、①地理的な格差が生じないように、㋐協会に対して全国におけるテレビジョン放送等のあまねく普及義務(放送法第20条第5項)を課し、㋑特定地上基幹放送事業者及び基幹放送局提供事業者に対して各放送対象地域29におけるあまねく普及努力義務(放送法第92条)を課すとともに、②障害等による格差が生じないように、放送事業者(基幹放送事業者及び一般放送事業者)に対して、字幕番組や解説番組を放送する努力義務(放送法第4条第2項)を課している。
7.2.改正の概要 7.2.1.受信契約の締結義務の履行遅滞に係る割増金の徴収に関する制度の整備義務不履行者の契約締結を促し、受信料の公平負担を実現するには、正当な理由がないにもかかわらず受信契約の締結に応じない受信設備設置者を対象として、刑事罰・行政罰とは異なる民事上の担保措置として、受信契約に基づき未契約期間に係る割増金を徴収できるようにすることが有効であると考えられる。この割増金に関して、最高裁判決(最大判平成29年12月6日民集71巻10号)では、義務不履行者と受信契約を締結した場合に、受信契約の条項に基づき、受信設備の設置時以降の受信料の支払を請求できることは明確となったが、未契約期間に係る割増金の支払を請求できるかは明確とはなっていない。
そこで、本法律では、受信料の公平負担を確保するため、受信契約の条項の記載事項を法定化する(新放送法第64条第3項)とともに、義務不履行者に対して、協会が受信契約の締結義務の履行を遅滞した期間の割増金を徴収することができることを、受信契約の条項に記載しなければならない事項とした(同項第4号ロ)。また、同号に基づき協会が徴収することができる割増金の額の上限を総務省令で定めることとした(同条第4項)。
なお、本法律で規定する割増金は、義務不履行者が受信契約を締結した場合に、当該割増金に係る受信契約に基づいて、協会が当該未契約期間に係る割増金を請求するものであり、受信契約を締結しないまま、協会が割増金のみを義務不履行者に対して請求できるようにするものではない。
7.2.2.還元目的積立金に関する制度の整備協会の剰余金を受信料の額の引下げの原資に充てさせるため、次のとおり、還元目的積立金の積立て義務・取崩し制限、還元受信料額による収支予算の作成義務を課すこととした。
本法律では、協会は、協会及びその子会社から成る集団の業務の効率的な遂行を確保するために必要がある場合には、総務大臣の認可を受けて、収支予算、事業計画及び資金計画で定めるところにより、定款で以下の①及び②に掲げる事項を定める会社(以下「関連事業持株会社」という。)に出資することができることとした(新放送法第22条の2)。また、協会は、当該出資をしている間は、当該出資をした関連事業持株会社を子会社として保有しなければならないこととした(同条各号)。
関連事業持株会社から密接関連事業を行う者に対して出資を行うに当たっては、関連事業持株会社の出資に関する計画(関連事業出資計画)を作成し、当該計画が適当である旨の総務大臣の認定を受ける必要がある(新放送法第22条の3第1項)。当該認定は、関連事業出資計画の実施が、協会が本来業務又は目的達成業務を遂行するために必要なものであることを要件としている(同条第2項)。
7.2.4.他の放送事業者等による責務の遂行に対する協会の協力に係る努力義務規定の整備動画配信サービスの普及等により、放送事業者等は厳しい事業環境に直面しており、今後、7.1.3.に記載した放送事業者等に課される責務(7.1.3.①㋑各放送対象地域におけるあまねく普及努力義務及び②障害等による格差が生じないように、字幕番組や解説番組を放送する努力義務)を十分に遂行できない者が生じることが懸念されるところ、当該責務の遂行に係る負担を軽減するためには、①㋑の責務については協会の放送局と設備共用をすること、②の責務については協会から視聴覚障害者向け番組の制作に係る技術やノウハウの提供を受けること等が有効となると考えられる。
本法律では、協会に対して、その本来業務や目的達成業務の遂行に支障のない範囲内で、他の放送事業者等がこれらの責務にのっとり講ずる措置の円滑な実施に協力する努力義務を課すこととした(新放送法第20条第6項)。
基幹放送事業者は、基幹放送の業務若しくは基幹放送局の運用の休止(1月以上)又は基幹放送の業務若しくは基幹放送局の廃止(以下「休廃止」という。)をするときは、総務大臣への事前届出が必要である一方(放送法第95条第2項及び第100条並びに電波法第16条第2項及び第22条)、その旨を公表する義務は課されていなかった。
動画配信サービスの普及等により、経営状況が悪化し業務等を廃止する基幹放送事業者が生じており、今後も業務等の休廃止が生じるおそれが高まっているところ、基幹放送の社会的役割に鑑みると、当該休廃止により受信者に不測の事態が生じないようにすることが必要となる。
8.2.改正の概要基幹放送事業者は、基幹放送の業務等の休廃止をするときは、その旨を公表しなければならないこととした(新放送法第110条の2)。
本法律は、公布の日(令和4年6月10日)から起算して9月を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとしたが、情報通信分野の外資規制の見直し、還元目的積立金及び基幹放送の業務等の休廃止の公表に関する改正規定は公布の日から起算して1年を超えない範囲において施行することとした。また、電波利用料の使途の追加及び船舶又は航空機に開設する無線局の外資規制の廃止に関する規定は公布日に施行することとした(附則第1条)。
なお、本法律の施行後3年を目途として、利用状況調査、有効利用評価、特定基地局及び関連事業持株会社に係る制度について、本法律の施行後5年を目途として、外資規制に係る制度、基幹放送の業務等の休廃止の公表制度について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずることとした(附則第10条)。
本法律により、電波の公平かつ能率的な利用の促進、情報通信分野における外資規制の実効性確保及び協会の受信料の適正かつ公平な負担に向けた改革が実現することを期待する。
1 無線局一局ごとの免許申請を前提とし、先願主義の場合には絶対審査を、競願主義の場合には比較審査を行い、申請された無線局一局ごとに免許を付与することを原則としている。
2 認定期間満了後は、認定を受けていた者は、既設電気通信業務用基地局の免許の排他的申請権を有しないが、他者が当該既設電気通信業務用基地局の使用周波数を使用する電気通信業務用基地局を開設しようとしても、無線局免許の原則に従い、先願又は競願により広範囲にわたる無線局の免許を取得する必要があり、新たに認定を受けない限り、それは事実上困難となっている。
3 特定基地局の定義(電波法第27条の12第1項)は、「陸上に開設する移動しない無線局であつて、(略)、同一の者により相当数開設されることが必要であるもののうち、電波の公平かつ能率的な利用を確保するためその円滑な開設を図ることが必要であると認められるもの」であるため、既設電気通信業務用基地局の使用周波数を使用する電気通信業務用基地局がこの定義に該当すれば、開設指針の制定は可能と考えられる。
4 「デジタル変革時代の電波政策懇談会」報告書(令和3年8月)においても、既設電気通信業務用基地局の免許人への十分な配慮が重要とされている。
5 開設計画の認定の有効期間の満了に合わせて、例えば、当該認定を更新することも考えられるが、当該認定の更新を行った場合、4.2.3(1)①~③に掲げるような電波の有効利用を図る機会が損なわれることとなる。
6 4.2.4.(1)を参照。
7 300万メガヘルツ以下の周波数を、周波数帯(例:700MHz帯)ごとに区分し、更に各周波数帯に属する周波数を同一の免許人が開設する無線局ごとに区分した上で、その周波数の区分を対象として、当該一の周波数の区分を更に区分し、又は二以上の周波数の区分を統合し、若しくは統合した上で区分することをいう。
8 電波法第6条第8項の規定により当該周波数を公示することにより、認定開設者以外の者は原則として免許申請ができなくなる(新電波法第27条の18)。
9 今回、開設指針の記載事項として、周波数の再割当てに伴う既設電気通信業務用基地局に係る周波数の使用期限を追加する。開設指針の記載事項とすること自体は、当該使用期限を明示する効果は有するが、周波数の使用をその期限までに制限する法的効果は有さない。そのため、再免許の有効期間が当該使用期限を超えそうな場合は、当該再免許の有効期間の終期を当該使用期限にそろえる運用を行うこととする。なお、使用期限を免許の有効期間中に設定する場合は、4.2.4.(4)の制度に基づき、当該使用期限後の当該既設電気通信業務用基地局の周波数の変更や免許の取消しを可能とする。
10 現在の周波数の移行期間の実績は、3年9か月(900MHz帯パーソナル無線 /STL STL7の移行)~7年(1.7GHz帯固定系公共業務用無線局の移行)である。
11 携帯電話等の周波数移行に必要な期間として既存の免許人からは7~10年程度かかるという意見もある(デジタル変革時代の電波政策懇談会 別紙「いわゆるプラチナバンドの周波数が移行する場合の個別課題に関する主な意見(概要)」)。
12 携帯電話等の免許期間の始期と終期が統一される一斉再免許制度が令和4年10月1日から運用される。
13 電波利用共益事務のうち、時限的に実施するものについては、電波法附則第15項及び第16項に規定している。
14 基幹放送とは、「電波法の規定により放送をする無線局に専ら又は優先的に割り当てるものとされた周波数の電波を使用する放送」(放送法第2条第2号)であり、基幹放送以外の放送は一般放送(同条第3号)である。
15 地上基幹放送とは、「基幹放送であつて、衛星基幹放送及び移動受信用地上基幹放送以外のもの」(放送法第2条第15号)である。
16 基幹放送局とは、「基幹放送をする無線局」(放送法第2条第9号)である。
17 自動車その他の陸上を移動するものに設置して使用し、又は携帯して使用するための受信設備により受信されることを目的とする基幹放送であって、衛星基幹放送以外のもの(放送法第2条第14号)である。
18 認定放送持株会社は、ソフト事業者ではないが、その子会社である地上基幹放送の業務を行う基幹放送事業者を含む複数の基幹放送事業者に大きな影響力を有し一の基幹放送事業者と同等以上の社会的影響力を有することを理由としている。
19 衛星基幹放送及び移動受信用地上基幹放送に係る基幹放送局提供事業者が該当する。これらの事業者の基幹放送局は、複数の基幹放送の業務に用いられるため、個々のソフト事業者との関係性が希薄であり、社会的影響力が小さいことから、一般無線局と同等の外資規制が課されている。他方、地上基幹放送に係る基幹放送局提供事業者については、特定のソフト事業者への設備の提供が想定され、個別の基幹放送の業務の認定と一括して免許の申請、審査が行われる(電波法第7条第2項第5号)等、ソフト事業者との密接な関係に基づき、総体として大きな社会的影響力を有することから、ソフト事業者と同等の外資規制が課されている
20 認定放送持株会社については、株式会社である(放送法第159条第2項第1号)ため、自然人や団体に関する要件を課す必要はなく、また、認定放送持株会社が「外国の法人」である場合、子会社である地上基幹放送事業者が外資規制に違反し、基幹放送に係る業務の認定又は免許を受けることができない者となることで、当該認定放送持株会社もまた認定の要件を満たさなくなることが自明であることから、国籍規制が課されていない。
21 認定放送持株会社にあっては、法人が株式会社の取締役となることができない(会社法(平成17年法律第86号)第331条第1項第1号)ため、「外国の法人又は団体」が役員規制から除かれている(放送法第159条第2項第5号イ)。
22 法人又は団体の役員のうち、当該法人又は団体の業務の執行に対し相当程度の影響力を有する者として総務省令で定めるものをいう(放送法第2条第31号)。同号の規定を受けて、基幹放送の業務に係る特定役員及び支配関係の定義並びに表現の自由享有基準の特例に関する省令(平成27年総務省令第26号)第3条が規定されている。
23 認定基幹放送事業者及び認定放送持株会社についても、議決権割合等に関し放送法第175条に基づき資料の提出を求められるよう、外資規制検討会での議論を踏まえ、令和3年12月10日に放送法施行令(昭和25年政令第163号)第8条の改正を行った。
24 外国人等が取得した株式について株主名簿への記載又は記録をした場合に出資規制に違反するときは、当該記載又は記録を拒否できる制度(放送法第116条第1項及び第2項、第125条並びに第161条)
25 名義書換拒否ができる場合を除き、外国人等を通じて間接に占められる議決権の増加により間接出資規制に違反することとなる場合に、当該違反とならないように外国人等が占める議決権の一部について議決権を有しないとする制度(放送法第116条第3項及び第4項、第125条第2項並びに第161条第2項)
26 譲渡制限株式(譲渡による当該種類の株式の取得について当該株式を発行した会社の承認を要するもの)(会社法第108条第1項第4号)の発行
27 本邦内を航行する外国籍の船舶又は航空機は、所有者の多くが外国人等であるが、航行の安全等の観点から無線局の設置が義務付けられている(船舶安全法(昭和8年法律第11号)第29条ノ7及び航空法(昭和27年法律第231号)第127条ただし書)ため、従来から外資規制の適用を除外している。
28 放送法第七十条第二項の規定に基づき、承認を求めるの件に対する附帯決議(第196回国会承認第1号)等
29 放送対象地域とは、協会の放送、放送大学学園の放送又はその他の放送の区分、国内放送、国際放送、中継国際放送、協会国際衛星放送又は内外放送の区分、中波放送、超短波放送、テレビジョン放送その他の放送の種類による区分その他の総務省令で定める基幹放送の区分ごとの同一の放送番組の放送を同時に受信できることが相当と認められる一定の区域をいう(放送法第91条第2項第2号)。
30 協会は、3年以上5年以下の期間ごとに協会の経営に関する計画として中期経営計画の作成が義務付けられている(放送法第71条の2)。令和元年の放送法改正により導入。令和3年度を初年度として作成。
31 本来業務又は目的達成業務に密接に関連する放送法施行令で定める事業をいう。