情報通信政策研究
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寄稿論文
米国グーグル・反トラスト法裁判
―訴状を中心に
中島 美香
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2023 年 7 巻 1 号 p. 163-183

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要旨

2020年10月20日、米司法省は、米11州の司法当局と共同してワシントンDC連邦地方裁判所に、グーグル社をシャーマン法違反を理由として提訴した。訴状は、グーグル社が、一般検索サービス市場、検索広告市場、及び、一般検索テキスト広告市場における独占事業者であり、同社の行為が、シャーマン法第2条に違反して独占を維持したと訴えている。

EUでは、2018年7月18日に欧州委員会が、グーグル社のアンドロイドOSに関するビジネスモデル(本件訴訟と共通ないし類似する部分がある)に対して違反決定を下し、巨額の制裁金を課している。欧州委員会の違反決定書は、同社が、アンドロイドOS市場、アンドロイドのアプリ・ストア市場、一般検索サービス市場において、独占事業者であり、グーグルの複数の行為が、欧州連合運営条約第102条に違反して支配的地位の濫用を構成し、一般検索サービス市場における同社の支配的地位を維持・強化するものであると認定した。

EU決定では、アップル社のiOSを別市場であるとして視野外に置き、もっぱらアンドロイドOS市場における支配性を認定して、抱き合わせの要件に基づいて違反決定を下した。対して、米司法省の訴えは、一般検索サービス市場、検索広告市場、及び、一般検索テキスト広告市場を市場画定することによって、アップル社との協定を含む、グーグル社が事業者らと結ぶ諸協定が、同社のライバルとなる検索エンジンが参入する機会を否定したこと、ライバルとなる検索エンジンが広告によって収益を獲得する機会を否定したことを違反行為としている。米司法省は、アップル社のiOS端末においてもグーグル検索が独占的にプリインストールされていたことを違反の構成事実としているが、この点は、EU決定ではiOSを除いて市場を画定したため争点とされておらず、米司法省による訴えとEU決定とを比較するうえでの大きな相違点であると指摘することができる。

裁判は提訴後2年半を経た現在(2023年9月)も繋属中であり、判決には至っていない。したがって、訴状掲記の各行為は認定されたわけではなく、あくまで原告(米司法省)側の主張事実であるのにとどまる。本稿では、グーグル社のどのような行為が訴因として主張されているのかを訴状に沿って概観し、それに即して本件訴訟に係る反競争行為に関する論点を整理することとしたい。

Translated Abstract

On 20 October 2020, the U.S. Department of Justice in conjunction with 11 states filed a Complaint against Google LLC in the U.S. District Court for the District of Columbia for violations of the Sherman Act. Complaint alleges that Google is the monopoly in the markets of general search services, the search advertising, and the general search text advertising and that Google's conducts have resulted in maintenance of the monopoly power in violation of Section 2 of the Sherman Act.

On 18 July 2018, on the other side of the Atlantic, the European Commission issued a decision against Google's business model for Android OS and fined Google €4.3 billion. The decision found that Google was a monopoly in the market for licensing of smart mobile operating systems (Android OS market), the market for Android app stores, and the market for general search services and that its specified conducts had constituted violations of Article 102 of the Treaty on the Functioning of the European Union so as illegally to maintain and strengthen Google’s dominant position in the market for general search services.

The U.S. DOJ's suit against Google is in the middle of the pre-trial proceedings and has yet to begin a trial, so that Google's conducts enumerated in Complaint are still allegations by DOJ. This article is aimed to give an overview of Google's business doings in the specified markets through DOJ's Complaint, with a short review on anti-competitive issues related therein.

1.はじめに

1.1.提訴

2020年10月20日、米司法省(United States Department of Justice : DoJ)は、米11州の司法当局と共同して(以下、原告らを代表するものとして単に「米司法省」という。)、ワシントンDC連邦地方裁判所にグーグル・エルエルシー(Google LLC、以下、「グーグル社」)をシャーマン法(Sherman Antitrust Act)違反を理由として提訴した(以下、「本件訴訟」)2。訴状3は、グーグル社の複数の行為が、同法第2条に違反しそれにより、米国内の一般検索サービス市場、検索広告市場、及び、一般検索テキスト広告市場(これらの定義については後述する。)において違法に独占を維持したと主張している。就中、以下の各行為が問題であると指摘されている。

  • ・アップル・インク(Apple Inc.、以下、「アップル社」)のiOS端末におけるデフォルト・検索エンジンをグーグル検索とすることを協定していること
  • ・グーグル社がオープン・ソースOSとして提供するモバイル・オペレーティング・システム用OSであるアンドロイドOS(Android OS、以下「アンドロイド」)の利用や搭載端末の販売に関して事業者と協定することにより競争を阻害していること――具体的に問題とされるのは、断片化禁止協定(Anti-Forking Agreements: AFAs)、モバイル・アプリ頒布協定(Mobile Application Distribution Agreements: MADAs)、収益分配協定(Revenue Sharing Agreements: RSAs)の3つの協定である――
  • ・コンピューター及びモバイルのブラウザの検索アクセス・ポイントをグーグル検索とすることを要求していること
  • ・スマート・ウォッチ、スマート・スピーカー、スマートTV、コネクテッド・カーといった次世代検索デバイス用に、事業者が新たなアンドロイドOS(のバージョン)を開発することを禁止していること

1.2.米国反トラスト法――独占行為の禁止

訴えが適用法として掲げるのは、独占行為(monopolizing)を禁止するシャーマン法第2条である。同条は、以下のように定める。

「数州間又は外国との取引もしくは商業のいかなる部分をも独占し、独占を企図し、又はその目的をもって1人もしくは数人と結合もしくは共謀をする者は重罪を犯したものとし、有罪の決定があったときは、裁判所の裁量により、法人の場合には1億ドル以下の罰金、その他の場合には100万ドル以下の罰金もしくは10年以下の禁錮に処し、又はこれを併科する。」4

邦語概説書は、同条について次のように説く5

シャーマン法第2条は、独占行為、独占の企て、独占のための共謀もしくは結合を禁止しているが、カルテルのように定まった行為類型があるわけではなく、また、その行為類型も、その行為が行われる市場構造との関係で評価されなければならない。したがって、独占行為の違法性の判断は、「合理の原則」に従ってなされる。

独占行為とは、市場で大きな経済力を有する企業の行う独占行為を指すものであり、その構成要件は、通常は、①独占力の存在、および、②意図的な独占の形成行為又は維持行為の存在、であると考えられている。

独占力とは、シャーマン法第1条6の市場支配力又は市場力よりも大きな力である。しかし、ある企業が独占力を有していると、直ちにシャーマン法第2条によって違法とされるわけではない。独占力を有する企業が、その独占力を行使して価格その他の市場条件を操作しまたは競争を排除するときに、この行為が「独占行為」として規制の対象となる。すなわち、独占力の存在のほか、これを行使して行う競争抑圧行為、および、このような形で独占力を行使するという目的ないし意図の存在が必要である。

1.3.本件訴訟の位置づけと状況

米国では、2013年に、連邦取引委員会(Federal Trade Commission : FTC)が、グーグル社の「サーチ・バイアス」を含む反トラスト法上の問題に関して調査を行ったが、そのときは、特段の措置は採られなかった7。しかし、その後のデジタル・プラットフォーム事業の拡大発展は目覚ましく、それに呼応して各国・法領域の政策動向にも大きな変化がみられる。

2018年7月18日、ヨーロッパでは欧州委員会が、グーグル社のアンドロイド・エコシステムを通じたビジネスモデルに対して違反決定を下し、巨額の制裁金を課している8。そして、2020年10月6日、米国では、連邦議会下院の司法委員会反トラスト法小委員会が、当時多数派であった民主党委員らによる調査報告書を公表し、GAFAの事業分割を提言した9。本件訴訟は、デジタル・プラットフォーム事業をめぐるこうした動向の一環であるが、また、1998年マイクロソフト事件以来のデジタル・プラットフォーム企業に関する大型競争法裁判であるという観点から、社会的にも注目を集めている。

本件訴訟は提訴後2年半を経た現在(2023年9月)も繋属中であり、判決には至っていない。したがって、訴状掲記の各行為は認定されたわけではなく、あくまで原告(米司法省)側の主張事実であるのにとどまる。本稿では、グーグル社のどのような行為が訴因として主張されているのかを訴状に沿って概観し、それに即して本件訴訟に係る反競争行為に関する論点を整理することとしたい10

2.訴因――米司法省の主張

2.1.関連市場

米司法省は、米国における関連市場として、①一般検索サービス市場、②検索広告市場、及び、③一般検索テキスト広告市場を画定し、グーグル社は、そのいずれの市場においても独占力を有すると主張する。各市場を、訴状は次のように定義している。

①一般検索サービスとは、消費者が一般検索エンジン(グーグル社のほか、ビング(Bing)、ダックダックゴー(DuckDuckGo)等がある。)に検索キーワードを入力することによって、インターネット上にある対応情報を見つけることができるようにするサービスである(para. 88)。

②検索広告市場とは、オンライン検索クエリに応じて生成される広告全般からなる市場の全体をいう。一般検索テキスト広告(グーグル、ビングなどの一般検索エンジンが提供する。)のほかに、特定検索広告(一般検索エンジンが提供するほか、アマゾン(Amazon)、エクスペディア(Expedia)又はイェルプ(Yelp)11等の特化(分野)検索(specialized search)プロバイダが提供する。)がある(para. 97)。

また、③検索広告市場(上記②)に包摂されその一部を成す一般検索テキスト広告についても、これを一つの製品市場として画することが適切である。一般検索テキスト広告は、一般検索エンジン(サービス)が販売し、典型的には検索結果ページ(Search Engine Results Page: SERP)に自動生成される検索結果の直上又は直下に配置される広告である。「広告(ads)」とか「スポンサー提供(sponsored)」といった注記が目立たない形で付記されてはいるが、検索結果そのものと似た外観を呈している。これと対照的に、一般検索テキスト広告と区別される検索広告(殊に、特化検索広告)は、テキスト広告と視覚的にも異なり、また、(テキスト広告にはない)種類の情報を伝達する。例えば、(特化検索広告の)グーグル・ショッピング広告(Google Shopping Ads)では、製品画像、価格、星に基づく評価付けが表示される。2018年、一般検索テキスト広告は、米グーグル社の検索広告収益の85%近くを占めた(para. 101)12

2.2.反競争行為

米司法省は、グーグル社が、上記3つの市場における独占事業者であり、各市場における同社の以下の行為が反競争的であると主張する。

第1に、グーグル社は、モバイル検索サービス市場において他社検索サービスの頒布(distribution)を阻害している(訴状の項目番号「A.」)。モバイル端末市場は、アップル社のiOS端末(同「1.」)とアンドロイド端末(同「2.」)とに二分されているが、グーグル社は、前者についてはアップル社との収益分配協定(RSA)により、また、後者については、端末製造者及び端末販売者との間で締結するアンドロイド・フォーク禁止協定(AFAs、)(同「a)」)、モバイル・アプリ頒布協定(MADAs)(同「b)」)、及び、RSAs(同「c)」)により、頒布・普及を阻止している。

第2に、グーグル社は、ブラウザについても、上記の各協定により他社ブラウザの頒布を阻止している(訴状の項目番号「B.」)。

第3に、グーグル社は、次世代デバイスにおける検索サービスの頒布経路(distribution channels)をコントロールしようとしている(訴状の項目番号「C.」)。

以下、訴状の項目立てに沿って概観する13

A. モバイルにおける検索サービスの囲い込み

1. アップル社のiOS端末における頒布

アップル社は、自社の一般検索エンジンを開発しておらず、そのようなサービスを提供していない。アップル社とグーグル社との現行(複数年)協定の下では、アップル社は、グーグル検索エンジンをサファリのデフォルトとしなければならず、また、シリ(Siri、アップル社の音声対応アシスタント)及びスポットライト(Spotlight、アップル社のシステム統合検索機能(system-wide search feature))での一般検索エンジンにグーグル社を用いなければならない。アップル社の大規模な顧客基盤にアクセスする権限を与えられることと引き換えに、グーグル社は、アップルに毎年数十億ドルにのぼる広告収益を支払っており、推定額は約80億ドルから120億ドルと言われている14。グーグル社がアップル社に配分する収益は、アップル社の世界におけるインターネット上の収益の約15%から20%におよぶ15(para. 118)。

サファリにおける検索のデフォルトを利用者がグーグル(検索)から他社の一般検索エンジンへ変更することは可能であるが、変更することはほとんどないことから、グーグル社は事実上の独占的一般検索エンジンとなっている。「サファリ・デフォルトは、収益経路の重要な一つであり、協定を失えば会社の収益基盤に深刻な打撃となる。」とするグーグル社の内部文書16がある。(para. 119)。

アップル社とのRSAは、アップル社ができるだけ多くの検索トラフィックをグーグル社に向かわせ、ライバルにその規模を享受させないというグーグル社の戦略に手を貸すという動機付けを与える。例えば、2018年に両社のCEOが会談して、両社が検索収益の成長をコントロールするためにどのように協働することが可能かを協議している。その会談の後にアップル社の幹部社員が、グーグル側の担当社員に宛てて、「私たち(両社)のビジョンは、私たちがあたかも一つの会社であるようになって協働することです。」と書き送っている17(para, 120)。

両社の現行協定は、実質的に、複数年にわたって、グーグル検索のライバルを重要な頒布経路から締め出している。同協定は、モバイル端末及びコンピューターを含む、米国のすべての一般検索クエリの概ね36%をカバーする。グーグル社は、2019年、検索トラフィックのほぼ50%がアップル社の端末上で生じたと推定している18(para. 121)。

とりわけ後述する他の独占的頒布協定と併せて考察するならば、グーグル社がアップル社の頒布経路を保持することは、自己強化的(self-reinforcing)であり、ライバル一般検索エンジンの、競合製品を市場提供する能力を損ない、(その結果として、)グーグル社の独占は競争規律が及ばない鉄壁の守りとなっている。グーグル社は、広告主から得た独占レント(monopoly rents)の一部をアップル社に支払うことによって、アップル社の収益意欲を自らと同調させ、かつ、(アップル社への検索エンジン)頒布の入札価格を異常な高額――数十億ドル――に設定した。さて、今、あるライバル(一社)が、頒布関係から収益を得なくてもよいものと覚悟し、さらには、将来にわたっても収益をしないでいる余力を有していたとしても、同社はなお(グーグル社には)太刀打ちできないだろう。というのは、現行頒布協定は、10年以上にわたってライバルが規模のメリットを享受するのを阻止しており、それにより(1)ライバルの一般検索製品及び検索広告製品の品質(の向上)、はたまた、(2)広告主を惹きつけるべきその利用者数(の獲得)のいずれをも頭打ちに抑えてきたからである。言い換えると、長期にわたり規模(の享受)を奪われたことにより、(今や)グーグル以外のいかなる検索エンジンも、アップル社に(であれ、他のパートナーにであれ)、市場を支配するグーグル社ほどの品質、ブランド認知及び経済性を兼ね備えた検索サービスを提供することはできないのである(para. 122)。

2. アンドロイド端末における他社検索サービス頒布の阻止

グーグル社は、アンドロイド端末の頒布経路を、頒布者協定(distributor agreements)と自身が所有管理し頒布する権利19とによりコントロールしている(para. 123)。

アンドロイドはオープン・ソースOSであるけれども、グーグル社は、同社の稼ぎ柱である一般検索と検索広告の独占を守る方途としてアンドロイドを利用してきた。(というのは、)同社は、断片化禁止協定、プリインストール協定(preinstallation agreements)20及び収益分配協定を通して(アンドロイド利用の)ルールを設定しているが、注目すべきことは、各協定は、コントロールを維持するために、相互に他の2協定(締結)を所与とする構造となっていることである。かくして、(1)断片化禁止協定、(2)端末上の目をひく位置にグーグル検索ポイントをプリインストールすることを定めるプリインストール協定、(3)グーグル社に、初期設定でデフォルト・ポジション付与し、さらにほとんどのケースでは、ライバル一般検索プロバイダのアクセス・ポイントをプリインストールすることを禁止することを(併せて)定める、収益分配協定ないし端末(製造・販売)奨励金協定(mobile incentive agreement)の3つの協定が締結されなければ、グーグル社が、端末機器に対して分配金であれ奨励金であれ、支払うことはない(para. 124)。

これらの相連結する反競争的な協定を通じて、同社は、その独占的利益を隔離して守っている。これらの制限的協定に関するグーグル社の内部分析は、現状において、同社の世界全体のアンドロイド検索収益のうちで競争に晒されているのは、そのわずか1%にすぎないと結論付けている。同分析は、アンドロイド頒布による検索広告収益の拡大は、「プラットフォーム堅守へのさらなる取り組みと協定とによってもたらされたものである。」とも付言している(para. 125)。

a) 断片化禁止協定21

アンドロイドに代わるOSがあったら、それはグーグル以外の一般検索サービス頒布の一路となりうる。しかしながら、同社のAFAsは、検索競合他社にとって市場参入のための一路を拓くことにもなるOSが、アンドロイド・フォーク・ベースで開発されることを阻止している(para. 126)。

OSをゼロから開発することは、非常にコストがかかるのであるが、しかし、端末製造業者が既成のアンドロイド・オープン・ソース・コードを利用して取り掛かるならば、コストはその何分の一という少額で済ませることができる。さらに、アプリ開発者がGMS22互換アンドロイド・アプリを、あるアンドロイド・フォークに「移植する(porting)」のにかかるコストは、全く新規のOS向けにアプリを開発するのに比べれば、かなり少なくて済む(para. 127)。

しかしながら、同社のAFAsは、端末製造業者及び頒布者がグーグル版アンドロイドに忠実であろうとするように仕向けて、フォークキング(別バージョンの作成)によってOSの革新が生まれることを妨げてきた。頒布者は、AFAsに違反すれば、アンドロイド・エコシステムから放擲され、マスト・ハブであるGPS23とグーグル・プレイ24が利用できなくなり、その上、数百万ドルから数十億ドルにも及ぶレベニュー・シェア(分配金)を失うことになることを理解している。かくして、頒布者は、グーグルから「断片化」――同社が「意図して…(定義せず)非常にあいまいなままにしている」用語――であると解釈されかねないような何ごとをなすのも避けることとなる(para. 128)。

同社によるAFAsの拡大解釈、及び、同社がアンドロイド頒布者の間に生み出すアンドロイド代替版支援への消極性は、参入障壁となっている。そのことが顕かとなったのは、アマゾン社が、ファイアOS(Fire OS)を開発して、(グーグル版アンドロイドではない)別のアンドロイド・フォークを作り出したときである。アマゾン社はファイア端末に、グーグル社の検索エンジン、GPS、グーグル・プレイその他のグーグル・アプリに代えて、自社開発のアプリをプリインストールし、ビングをデフォルト検索エンジンに初期設定することを(マイクロソフト社と)協定した。アマゾン社は、当初、ファイアOSタブレットのみを販売し、2014年にファイアOSを搭載したモバイル・フォンの販売にも乗り出したが、モバイル・フォンは商業的に成功せず、アマゾン社は、モバイル・フォン事業からすぐさま撤退した。同社はファイア・タブレットの販売を続けているが、その普及率は、米国におけるモバイル端末の2%以下を占めるに過ぎない(para. 130)。

グーグル社のAFAs協定と施策がアマゾン社のモバイル・フォン及びファイアOSの成長を阻害することとなったのは、主要な端末製造業者が、アマゾン社のモバイル・フォンを支援すれば、グーグル社との有利な取引を危険に晒すことになりかねないという恐れから支援を控えたことが理由である。アマゾン社と協働することに前向きな端末製造業者(もいたが、それら)は、最大手端末製造業者に比肩するほどのマーケティング及びロジスティクス力を有していなかった。タブレットとモバイル・フォンに約10年以上にわたって何億ドルもの投資を費やしたにもかかわらず、ファイアOSは今もって、グーグル版アンドロイド(端末)にチャレンジするのにも、また、検索競合事業者にとって市場参入への(グーグル検索に代わる)有望な一路を拓くことにも、十分なクリティカル・マス(必要規模)に到達していない(para. 131)。

b) プリインストール協定

グーグル社は、その検索関連製品を一まとめ(entire suite)にしてアンドロイドGMS端末上に特別の場所を与えられることを保証するために、プリインストール協定――MADAs――を用いている。消費者が検索を行う際、自然な流れとして、こうした特別の場所を与えられた検索アクセス・ポイントへ向かうことになる。また、プリインストール協定は、それ自体の中にフォーク禁止条項を組み入れたり、あるいは、この形の方がより一般的だが、端末製造業者がAFAへの署名者であることを締結の条件にしたりしており、これによりグーグル社のフォーク禁止は一層強固なものになっている(para. 133)。

もし端末製造業者がグーグル社のキー・アプリ及びAPIを一つでも欲しいと思うならば、端末に、同社によって選択された他のグーグル・アプリを抱き合わせてあらかじめ搭載しなければならない。6つの「コア」アプリ(というの)は、グーグル・プレイ、クローム、グーグル検索アプリ、Gメール、グーグル地図、及び、ユー・チューブである。端末製造業者は、消費者がそれらを欲するかどうかにかかわらず、消費者がコア・アプリを削除できない方法でプリインストールしなければならない。こうしたプリインストール協定は、米国において販売されているほとんどすべてのアンドロイド端末をカバーしている(para. 134)。

プリインストール協定は、ある抱き合わせ(a tie)を実現している。すなわち、グーグル・プレイ及びGPSの頒布(端末に搭載すること)をその他のアプリを頒布(同前)することの条件とするのである。この抱き合わせは、同社の独占を強化する。プリインストール協定は、アンドロイド端末製造業者にオール・オア・ナッシングの選択を求める。(つまり、)もし端末製造業者がグーグル・プレイ又はGPSを欲するならば、端末製造業者は、グーグル検索製品を始めとするグーグル・アプリ一式をプリインストールし、いくつかのケースでは、それを最優先する場所を割り当てることまでしなければならないのである。グーグル・アプリのプリインストールを強制することは、端末製造業者が競合のアプリをプリインストールすることを妨げる。このことは、ライバルに一般検索エンジン頒布(端末への搭載)の機会を失わせ、グーグル社の独占を守ることになる(para. 135)。

プリインストール協定は、頒布者にそのモバイル・フォンをグーグル社の仕様に対応する外観にすることを余儀なくする点で、単純な抱き合わせ以上に悪質である。例えば、同協定は、端末製造業者に端末のデフォルト・ホーム・スクリーン上にグーグル社の検索ウィジェットを置くように求める。グーグル社は、検索ウィジェットを「グーグル・ブランドの重要な部分」であると考えており、端末製造業者が、プリインストール協定の検索ウィジェット要件を免除する(waive)ように求めても拒絶する。端末製造業者が同じホーム・スクリーン上に2つの検索ウィジェットをプリインストールすることは実用的でないため、このことは、ほかの検索アクセス・ポイントを締め出すことになる(para. 138)。

プリインストール協定はまた、音声検索の優遇扱い(preferencing)も義務付ける。(というのは、)グーグル・アシスタントをプリインストールすることに加えて、端末製造業者に以下を課す。(1)グーグル・アシスタントをアクティベートするグーグル・ホットワードを実装すること。(2)端末のホーム・ボタンに、グーグル・アシスタント又はグーグル(アプリ)を直接起動する特別のタッチ・アクションを設定すること。さらに、グーグル社は、ほとんどの端末製造業者との協定で、(3)グーグル・アシスタントをデフォルトのアシスタント・アプリとすることを取り決めている(para. 139)。

グーグル・アシスタントのライバルらには、こうした取り決めをする機会は与えられない。グーグル社のプリインストール協定のほとんどでは、ライバル・アシスタントをデフォルトに初期設定したりあるいは(その起動に)ホーム・ボタンを用いたりすることが禁止されている。グーグル社は、非グーグル・アプリが使うことができるAPIを制限して、ホットワードの使用や通話を可能とする、マイク・アクセスの「常時オン」といった便利な機能が、グーグル・アシスタントにしか利用できないようにすることにより、ライバルのアシスタント(アプリ)に不利を強いている。グーグル・アシスタントの主要なライバルであるアマゾン社のアレクサでさえ、こうした障害を潜り抜けて、アンドロイド端末に実効的なプリインストール又は機能的統合を実現することはできていない(para. 140)。

c) 収益分配協定

グーグル社の検索広告収益から相当な配当を得るのと引換に、アンドロイド頒布者は、グーグル(検索)を、端末上のすべての重要な検索アクセス・ポイントのデフォルトの一般検索エンジンに初期設定することに合意している。加えて、こうした協定は、典型的には、競合する(他社)一般検索サービスをプリインストールすることを禁止する独占条項を設けている(para. 144)。

グーグルは、アンドロイド端末製造業者及び通信事業者との収益分配協定が端末搭載一般検索サービスの独占を可能にしていることを久しく認識している。2014年のグーグル戦略会議資料(strategy deck)ドラフトにははっきりと、同社とアンドロイド端末製造業者あるいはOEM端末製造業者との収益分配協定が「検索の独占を可能にし」、通信事業者との取引もこれと同様に、「他(社)の検索エンジンやブラウザをプリインストールすることを阻止し」、かくして、「グーグル社が、端末が利用者の手に届くまでの道程にわたって、搭載される検索(サービス)の独占を守ること」を可能にする、と記載されている(para. 145)。

同様に、グーグル社のある役員は、独占こそが、「収益分配協定の一般哲学、あるいは(言い換えれば)、協定で取り交わされる価値理念(the tenets of the value exchanged in RSA)の一つである」ことを確認している。別の同社役員も、「我々の哲学は、排他性の『見返りに』収益分配を行っているということである」と述べているが、彼はさらに続けて、この協定は、「非常に重要である」、なぜなら、「さもなくば、いつ何時、ビングやヤフーがやってきて、我々のアンドロイド(端末への)検索頒布(搭載)を奪い去ってしまうことにもなりかねない」、とも述べている(para. 146)。

(これらの)社内文書が示しているように、プリインストール協定と収益分配協定は、2つが一緒になって、アンドロイド端末上で行われる検索をグーグル(検索)へと向かわせ(そうして、競合する検索サービスから遠ざけ)るための二重防御戦略(a belt-and-suspenders strategy)として機能する。2017年にグーグル社役員が説明するところでは、同社は収益分配協定を「グーグル社とそのエコシステムの目標と一致するようにパートナー社の行動を動機付ける梃子として」、かつ、「(MADAによってカバーされない検索デフォルト(初期設定)を確保して)一層の収益増加図るために」用いているのである。独占利益(monopoly profits)を用いて、同社は、MADAsによってカバーされない検索アクセス・ポイントにおけるデフォルト・ポジションを獲得するため端末製造業者及び通信事業者に「より厳重な要件」を課すことさえ可能である。同社のプリインストールと収益分配協定を結合した結果が、消費者がアンドロイド端末上で検索にアクセスするすべての主要な通り道を塞ぐことである。こうして、ライバルを締め出し、同社の独占的地位が保護されることになる(para. 147)。

グーグル社がアンドロイド頒布者に支払った金額の規模が、協定によって提供されるデフォルト・ポジションと独占がもたらす価値の巨大さを示している。昨年、同社は米国の主要な通信事業者に総額で十億ドル以上を支払っている(para. 148)。

競争者に残されている他の販売経路は、グーグル社が買収して協定によって守護している頒布経路に全く太刀打ちできるものではない。例えば、理屈としては、消費者が競合(他社の)検索アプリを自身でダウンロードすることは可能である。しかし、役員の一人が露骨に述べるように、「ほとんどの利用者は端末上にあるものを使用するだけであり」、他の一般検索サービスをダウンロードし又は使用しようとすることはない(para. 149)。

グーグル社は(上記と)同様な仕方で協定を定め、離脱を考える頒布者にペナルティを与えて同社に拘束する。通信事業者及び端末製造業者との収益分配協定の典型的な契約期間は、2年から3年である。もしある通信事業者や端末製造業者が同社との収益分配協定を更新しないとするならば、(その)頒布者は新規のモバイル端末だけでなく、既売の消費者が所持しているモバイル・フォン及びタブレットの分も、収益分配の権利を失うことになる。かかる条項は、離脱を考える通信事業者や端末製造業者にとって懲罰的であり、(かくして)通信事業者らや端末製造業者らが同社から離脱を考えることがないように仕向けるのに役立っている(para. 152)。

ライバル検索プロバイダが(端末の)デフォルト・ポジションへの初期設定を獲得するためになす提案が、通信事業者や端末製造業者にとって魅力的であるためには、通信事業者又は端末製造業者がこれから製造する端末についてグーグル社から支払われる収益(分)だけでなく、すでに消費者の手にわたっている全端末について支払われる収益(分)についても、カバー(補償)しなければならないことになろう。(この場合でも)グーグル社は、グーグル(検索)にすでにデフォルト設定されている(既売の)端末からは収益し続ける。ライバル検索プロバイダには、その検索サービスが他の点ではどれほど競争力があったとしても、それら(既売)の端末から収益を得ることを確保する現実的な方途はないのである(para. 153)。

B. 他社ブラウザの頒布の阻止

アンドロイド及びアップル社の端末における頒布(グーグル検索の搭載)を囲い込む(端末製造業者等との)協定(締結)にとどまらず、グーグル社は、(端末に搭載される)ブラウザ(事業者)との間でも独占的な収益分配協定の締結を推し進めている。グーグル社は、「ウェブ・ブラウザ(事業者)とのパートナーシップを堅持することは枢要」であることを認識している。ブラウザ(事業者)との協定は、一般的に、ブラウザ(事業者)のコンピューター版及びモバイル版の両方でグーグル(検索)を、検索アクセス・ポイントに初期設定するデフォルト一般検索エンジンとするようブラウザ(事業者)に求める(para. 156)。

デフォルト一般検索エンジンに(グーグル検索)を初期設定することと引き換えに、グーグル社は、検索アクセス・ポイントから生じる広告収益の最大40%をグーグル社のブラウザ(事業では)ライバル(である事業者)たちに分配している25。ブラウザ(事業者との)収益分配協定は、通常は最短期間2年、更新されるのが常である(para. 157)。

ブラウザは、ほとんどの消費者にとってインターネットへの入り口であるため、一般検索サービスにとって最重要の頒布経路のひとつである。モバイル端末及びコンピューター上での多くの検索クエリは、端末のブラウザを介して実行される。今日、グーグル社は、アップル社のサファリ・ブラウザやモジーラ社(Mozilla)のファイアフォックス(Firefox)・ブラウザなど、米国で最も広く使用されるブラウザ(事業者)と収益分配協定を締結している。マイクロソフト社のブラウザは、唯一つの注目すべき例外である。米国における全ブラウザ利用の85%以上が、グーグル社自身のクローム・ブラウザ上又は収益分配協定によってカバーされるブラウザ上で行われている(para. 158)。

C. 次世代デバイスにおける検索サービスの頒布経路の支配

現状ではモバイル・フォンとコンピューターが、インターネット上の一般検索の大多数を占めているけれども、将来、スマート・ウォッチ、スマート・スピーカー、スマート・テレビ、コネクテッド・カーといった次世代の端末で行われる検索が次第に増大することになるだろう。グーグル社は、新興及び既存のライバルたちを(競争から)排除して、これらの新たに登場する検索頒布経路をもコントロールする位置に自らを置きつつある(para. 160)。

グーグル社は、AFAsのほか様々な機会を用いて、端末の協定事業者が次世代機器の開発にライバルOSと協働しないように仕向けてきたが、さらに、アンドロイド携帯端末を販売していないコネクテッド機器の製造事業者にもモバイル頒布協定と同様な制限条項をもつ契約の締結を求めている。例えば、コネクテッド・カー製造事業者にはライバルの検索関連アプリをプリインストールしないことを求め、スマート・ウォッチ製造事業者には、グーグル社の「無料」OS(Wear OS)の許諾と引き換えに、検索サービスを含む第三者ソフトウェアをプリインストールすることを禁止する(paras. 161-162)。

グーグル社は、グーグル・アシスタント(Google Assistant)の許諾条件として、IoT機器の製造事業者にグーグル以外の音声アシスタントを並行して搭載することを禁止する。グーグル社は、音声アシスタントが普及すれば、「並行(concurrency)」機能が、消費者のインターネット・アクセスに対するグーグル社のコントロールを脅かすことになると考えており、並行性は消費者にとっては好ましい機能であることを認識しながらも、消費者が(グーグル・アシスタントとライバル社のアシスタントの並行使用を)自在に使い分けるのに委ねることは、危険が大きすぎるとみている。この間の事情は、スマート・スピーカー、グーグル・ネスト(Google Nest)搭載スマート・ホームなどのハードウェア機器についても同様である。グーグル社は、検索の将来を見通して、「(アマゾン社の音声アシスタント)アレクサ(Alexa)その他は、機能を高度化し、また、スクリーン付き端末にも搭載されることで、グーグル検索及び(それを搭載する)ブラウザの代替となる可能性は、ますます高まる。」とみている(paras. 163-164)。

2.3.反競争効果

以上、概観してきたグーグル社の独占的協定その他の競争阻害行為を訴状は、次の6項目に総括する。

  • a. 一般検索サービスにおける競争を甚大に(substantially)阻害し、米国における大多数の検索クエリを実のある(meaningful)競争(に晒されること)から保全している
  • b. 一般検索ライバルを実効的な(effective)頒布経路から排除し、それによって、ライバルが一般検索サービス、検索広告、及び、一般検索テキスト広告の各市場において実効的な競争を遂行するのに必要な規模(の享受を獲得すること)を妨げている
  • c. 一般検索サービス・ライバルに、他の頒布経路(の開拓)を妨害している
  • d. コンピューター及びモバイル端末の両方において、新興の競争者の参入に対する障壁を増大させ、新たに登場する検索アクセス・ポイントでの競争から排除している
  • e. 現在に至るまで利用されてきた(traditional)グーグル検索モデルに対して、それにとって代わる検索アクセス・ポイントとも、又は、妨害者(disruptor)ともなりうるような、新規製品が革新を進めることを阻害している
  • f. 一般検索サービス、検索広告、及び、一般検索テキスト広告の製品及びサービスを改善させなければという大きな競争圧力からグーグル社を遮断し(免れさせ)ている(para. 166)

そして、グーグル社の行為による反競争的効果を次のように主張する。

一般検索サービスにおける競争を制限することによって、グーグル社の行為は、(プライバシー、データ保護及び消費者データの利用等の領域にも関わる)一般検索サービスの品質を減じ、一般検索サービスの選択を少なくし、革新を阻害し、それによって消費者を害している(para. 167)。

同社の独占行為はまた、検索広告及び一般検索テキスト広告市場における競争を大きく制限し、広告主を害している。競争を抑圧することによって、グーグル社は、同社が広告主により高い料金を請求することできるような仕方で、広告の在庫量と(広告料金の)入札力学(auction dynamics)とを思うままに操作する力を得ているが、その力は(抑圧がなくもっと)競争的な市場であれば同社が持ちえた程度を超えている。同社はまた、広告主に提供するサービスの質を減ずることも自由である。例えば、広告主が行うマーケティング・キャンペーンについてグーグル社が広告主に提供する情報を限定することなどである(para. 168)。

グーグル社の行為はまた、(競争が適正であれば)グーグル(検索)の脅威となるような特色のある検索を売りにする革新的なアプリの頒布を妨げ、競争を害してきた。同社の一般検索サービスにおける独占はまた、インターネットの入り口として非常に大きな力を同社に与えてきた。かつてグーグル社は、利用者をオーガニック・リンクを介して検索結果ページから、検索語に最適な答えとなる第三者サイトへと送り出す「改札口」であることを自認し誇りとしていた。しかし、現在、グーグル検索結果では、検索広告とグーグル社の提供広告が優先表示され、その結果、オーガニック・リンクはどんどん下へ下へと追いやられて、スクロールを重ねなければ表示されない位置に追いやられている。検索結果で上部の位置にとどまるには、グーグル社から検索広告を買うことが必要であり、それが事業者のコストを上げ、競争力を削ぎ、結果として、利用者にとって魅力的となる革新に投資する気力・体力を減じることになる(paras. 169-170)。

2.4.違反行為の申立て/差止請求

訴状は、グーグル社が、シャーマン法第2条に違反して、一般検索サービス、検索広告及び一般検索テキスト広告(の各市場)の独占を維持しているとする。以下、訴状に沿って概観する。

グーグル社は、一般検索サービス、検索広告及び一般検索テキスト広告(の各市場)において、意図して反競争的かつ独占的な諸々の頒布協定を用いて、その独占力を維持・濫用してきた。それら協定は、ブラウザ、モバイル端末、コンピューターその他の端末上に設けられる検索アクセス・ポイントの初期設定デフォルト位置をグーグル専用として提供すること、同社アプリ類のプリインストールとその(画面上での)顕著な配置とを義務付けること、グーグル検索アクセス・ポイント(の搭載)をグーグル・プレイ及びグーグルAPI(の利用許諾)と抱き合わせること、を定めている。また、それ以外にも、同様の意図・目的で、ライバルの不利益の下に、グーグル社を利する諸種の制限26を用いている。

同社の独占的な行為は、一般検索サービス市場、検索広告市場及び一般検索テキスト広告市場において(ライバルの)大部分を排除してきた。同社の反競争的行為は、競争、広告主及び消費者に有害な効果を有してきた。同社の独占的な協定の反競争的効果は、当該関連市場における競争促進的な利益(があるとしてもそれ)を上回っており、又は、それほど抑圧的でな(く、その競争促進的な利益を上回らな)い手段によっても達成されうるものである(para. 174-193)。

米司法省は、シャーマン法第2条に違反するとして、いかなる反競争的な害をも取り除くために必要とされる構造的救済措置(structural relief)を講じること、グーグル社が訴状に記載した反競争的行為を行うことを禁ずること、そして、グーグル社の違法な行為によって影響を受ける市場において競争的な条件を回復するのに必要かつ適切な、あらゆる予備的又は恒久的な救済も講じることを求めている27(para. 194)。

3.グーグル社の反論

提訴から3か月後の2020年12月21日、グーグル社は答弁書を提出した28。その冒頭で次のように述べる。

グーグル社は、原告らが訴状で主張する法律上の主張は総じて否認する(“Google generally denies”)。グーグル社は、この約四半世紀にわたり、世界の情報を整理して、あまねくアクセスし利用可能とすることをミッションとしてきたのである。そして、このミッションを遂行すべく、グーグル検索を開発し、飽くなく改善を続け、普及に努め全世界の消費者の利用に供してきたのである。人々がグーグル検索を使うのは、強いられているからではないし、インターネット上の情報検索に、グーグル検索に代わる他の方法を見出すことが容易でないからでもない。グーグル検索を使うべく選択するからこそである。

答弁書は続いて、訴状に記載された事実関係の存否ないし事実に関する主張(例えば、意図、目的、因果関係等)、及び、法律上の主張に対して、各段落(答弁書の段落番号は訴状のそれと一致させている。)、文節(センテンス)毎に逐一認否29を行っている。

そして、積極的抗弁(affirmative defenses)として3点を主張する30

  • 第1 訴因の主張が不十分であり却下されるべきである。
  • 第2 訴状記載のグーグル社の各行為は、合法・正当・競争適合的であり、適正な商業活動として遂行されており、かつ、善良な競争行為である。
  • 第3 原告が求める措置(relief)31は、公益に反し消費者を害するほか、不衡平、非現実的であり、その効果を期待できない(unworkable)ものである。

いずれも概括的な主張にとどまり、そこから訴訟でグーグル社が具体的にどのような反論を行うのかをうかがい知ることは難しい。もっとも、提訴と同日の日付で、グーグル(アルファベット)の上級副社長(当時)が、提訴が不当であるとする声明を公表している。同声明文に記載されている主張は、本件訴訟におけるグーグル社の訴訟方針(の少なくともその一斑)を示唆すると思われるので、その概要を見ることとする。

グーグル社は、同社とアップル社やその他の端末製造事業者及び通信事業者との協定は、他の多くの事業者がソフトウェアを頒布するために伝統的に用いてきた協定と異ならないと反論している。いわく、アップル社の「サファリ」で検索エンジンを変更することは容易である。また、同社が、アンドロイド端末に関して締結している協定は、アンドロイドを無料で頒布することを可能とするものであり、当該協定を締結してもなお、通信事業者及び端末製造業者は、競合する膨大なアプリやアプリ・ストアをあらかじめ搭載している。また、アメリカ人は2019年に2,040億のアプリをダウンロードしているとのデータがある。さらに、同社は一般検索エンジンとのみ競争しているのではなく、人々は、ニュースをツイッター(Twitter)で、フライト情報をカヤック(KAYAK)32やエクスペディアで、レストラン情報をオープン・テーブル(OpenTable)で、おすすめ情報をインスタグラム(Instagram)やピンタレスト(Pinterest)で見つける。また、何かを購入する際、アメリカ人の約60%は、アマゾンで検索する、などと主張している33

その後、証拠開示手続き(discovery)期間を経て、グーグル社が審理前決定を求める異議申し立てを行った。ここでの争点は、同社が、①ウェブ・ブラウザ開発者との協定においてグーグル検索をデフォルトとすること、②OEM端末製造業者及びモバイル通信事業者との協定においてグーグル検索をデフォルトとすること、③自己優遇を行い、特化型垂直プロバイダ(Specialized Vertical Providers; SVPs)の市場支配力を弱めること、④競争を妨害するために検索エンジン・マーケティング・ツール「SA360」を用いること、⑤アンドロイド互換性義務(Android Compatibility Commitments; ACCs)及び断片化禁止協定(Anti-Fragmentation Agreements; AFAs)を課すこと、⑥グーグル・アシスタント及びIoT端末に関する協定においてグーグル検索をデフォルトとすること、⑦アンドロイド・オープン・ソース・プロジェクトにおいて反競争的な意思決定を行ったこと、の7点である34

4.若干の検討

米司法省は、訴状において、グーグル社が、一般検索サービス市場、検索広告市場、及び、一般検索テキスト広告市場における独占事業者であり、同社の行為(①アップル社のiOS端末におけるデフォルト検索エンジンをグーグル検索とすることを協定していること、②アンドロイドの利用や搭載端末の販売に関して事業者と協定することにより競争を阻害していること、③コンピューター及びモバイルのブラウザの検索アクセス・ポイントをグーグル検索とすることを要求していること、④次世代検索デバイス用に、事業者が新たなアンドロイド(のバージョン)を開発することを禁止していること)が、シャーマン法第2条に違反して独占を維持したと訴えている。

2018年7月18日、EUでは、欧州委員会が、グーグル社のアンドロイドに関するビジネスモデル(本件訴訟と共通ないし類似する部分がある)に対して違反決定を下し、巨額の制裁金を課している。同決定書(以下、「EU決定」)は、同社が、スマート・モバイル使用許諾型OS(licensable smart mobile OSs)35市場、アンドロイドのアプリ・ストア市場ないし一般検索サービス市場において、独占事業者であるとする。そして、同社の複数の行為、具体的には、①同社の検索エンジン・アプリ「グーグル検索」を同社のスマート・モバイル・アプリ・ストア「プレイ・ストア」と抱き合わせたこと、②同社のモバイル・ウェブ・ブラウザ「グーグル・クローム」を「プレイ・ストア」及び「グーグル検索」アプリと抱き合わせたこと、③「プレイ・ストア」及び「グーグル検索」アプリをライセンスするにあたって、端末製造業者に対して断片化禁止協定の締結を求め、同社が開発したアンドロイドの他社改訂版(いわゆる「アンドロイド・フォーク」)を搭載するスマート・モバイル端末を販売しないことを義務付けたこと、そして、④OEM端末製造業者及びモバイル通信事業者が、同社との間で合意したポートフォーリオの規格に該当する端末製品に競合他社の一般検索サービスをプリインストールして販売しないことを、検索連動型広告収益分配協定の支払条件としたことが、欧州連合運営条約第102条に違反して支配的地位の濫用を構成し、一般検索サービス市場における同社の支配的地位を維持・強化するものであると認定した36

EU決定は、アップル社のiOSを別市場であるとして調査の対象外に置き、もっぱらアンドロイドOS市場における支配性を調査して、抱き合わせの要件に基づいて違反決定を下した。対して、米司法省の訴えは、一般検索サービス市場、検索広告市場、及び、一般検索テキスト広告市場を市場画定することによって、アップル社との協定を含む、グーグル社が各事業者らと結ぶ諸協定が、同社のライバルとなる検索エンジンが参入する機会を否定したこと、ライバルとなる検索エンジンが広告によって収益を獲得する機会を否定したことを違反行為としている。米司法省は、アップル社のiOS端末においてもグーグル検索が独占的にプリインストールされていることを違反の構成事実としているが、この点は、EU決定ではiOSを除いて市場を画定したため争点とされておらず、米司法省による訴えとEU決定とを比較検討する上での重要な相違点であると指摘することができる。

グーグル社のモバイルOSのビジネスモデルに関しては、EU決定の以前から賛否両面から論文が公表されていたが37、近年、本件訴訟を契機として、マイクロソフト社に対するEU違反決定や米国連邦裁判所の反トラスト法裁判を先例として参照しつつ、グーグル社に対するEU決定と米国の反トラスト法裁判(本件訴訟)との比較を行う論文が公刊されている38。さらに、デジタル・プラットフォームによるデータの独占という問題意識からアプローチして、「不可欠施設の法理(The Essential Facilities Doctrine)」に依拠することが本件訴訟の解決に適していると主張する論文が著され、注目される39。これら議論の詳細については、別稿として公表することとしたい。

デジタル・プラットフォームをめぐる規制のあり方については、現在、EU・米国双方において、新たな法律が制定され、あるいは、法律案が提案されるなどしており、活発な動きを見せている。EUでは、2023年5月2日、デジタル市場法が施行される一方、米国では、2020年10月6日、議会下院の司法委員会反トラスト法小委員会の報告書が、グーグル社、アマゾン社、フェイスブック社、アップル社の事業分割を提言したのち、2021年6月11日以降、議会下院の司法委員会にて、デジタル・プラットフォーム上における自社製品などの優遇措置を規制する法律案(American Innovation and Choice Online Act)や、支配的なプラットフォームが自身の支配力を活用し、自由かつ公正な競争を損なう方法で競合他社を優遇したり冷遇したりすることを禁じる法律案(Ending Platform Monopolies Act)を含む、デジタル・プラットフォーム規制法案が複数提出されるなどしている。これらは、デジタル・プラットフォームのビジネスモデルに対して、競争法で事後的に規制するにとどまらず、事前規制を導入することを意味している。

最後に、我が国の動向に触れておくならば、デジタル・プラットフォームに関する立法としては、2021年2月1日、「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」、2021年5月10日、「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律」が施行されている。前者は、デジタルプラットフォーム提供者と商品等提供利用者との間の取引関係における相互理解の促進を図ることを目的として、規制の大枠を法律で定めつつ、詳細を事業者の自主的取組に委ねる「共同規制」の規制手法を採用する。後者は、オンラインモールなどの「取引デジタルプラットフォーム」において、危険商品の流通や販売業者が特定できず紛争解決が困難になるなどの問題が発生していることから、消費者の利益の保護を図るものである。

また、2023年2月9日、公正取引委員会が、「モバイルOS等に関する実態調査報告書」を公表したのち、2023年6月16日、内閣の下に設置されたデジタル市場競争本部のデジタル市場競争会議において「モバイル・エコシステムに関する競争評価 最終報告」が公表されている。グーグル社のモバイルOSのビジネスモデルに関しては、一定規模以上のOSやブラウザを提供する事業者に対して、検索サービスのデフォルト設定をユーザーが容易に変更できるようにする仕組みを可能とするよう義務付ける、といった対応の方向性が示されている。つまり、日本としても、デジタル・プラットフォームに関しては、独占禁止法とは別に、新たに事前規制に踏み出ことが検討されている。グーグル社のモバイルOSのビジネスモデルについて、事前・事後の両面において(どのような)規制を行う必要があるのかを検討し法政策に反映することが喫緊の課題であるといえよう。

本研究はJSPS科研費JP22K01291の助成を受けたものです。

脚注

1 中央大学国際情報学部准教授

2 DoJ (2020), Press Release, Justice Department Sues Monopolist Google For Violating Antitrust Laws, October 20, 2020, available at, https://www.justice.gov/‌opa/pr/‌justice-‌department-sues-monopolist-google-violating-antitrust-laws.

3 Complaint (2020), United States of America, et al., v. Google LLC, Case No. 20-cv-3010 (APM) (D.D.C.), available at, https://www.justice.gov‌/opa/‌press-‌release/‌file/‌1328941/‌download, or also at, https:// ‌storage.courtlistener.com/‌recap/‌gov.uscourts.dcd.223205/‌gov.‌uscourts.‌dcd.223205.1.0_6.pdf.なお、以下で脚注/本文中で訴状を参照する場合には、該当の段落番号(para(s). +数字)を示すこととする。

4 訳文は、松下満雄・渡邉泰秀(編)(2012)『アメリカ 独占禁止法[第2版]』東京大学出版会7頁による。

5 前注4・松下(2012)95頁及び102~105頁の趣旨を、本稿に必要な範囲で摘要した。

6 シャーマン法第1条は、以下のように定めて、取引制限行為を禁止する(訳文は、前注4・松下6頁)。

「数州間又は外国との取引または商業を制限するすべての契約、トラストその他の形態による結合または共謀は、これを違法とする。本条で違法とする契約を締結し、又は結合もしくは共謀する者は重罪を犯したものとし、有罪の決定があったときは、裁判所の裁量により、法人の場合には1億ドル以下の罰金、その他の者の場合には100万ドル以下の罰金もしくは10年以下の禁錮に処し、またはこれを併科する。」

7 FTC (2013), Press Release, Google Agrees to Change Its Business Practices to Resolve FTC Competition Concerns In the Markets for Devices Like Smart Phones, Games and Tablets, and in Online Search, January 3, 2013, available at https://www.ftc.gov/‌news-‌events/‌press-releases/2013/01/google-agrees-change-its-business-practices-resolve-ftc.

8 European Commission (2018), AT.40099 – Google Android, COMMISSION DECISION of 18.7.2018 relating to a proceeding under Article 102 of the Treaty on the Functioning of the European Union (the Treaty) and Article 54 of the EEA Agreement (July 18, 2018), available at ‌https:// ‌ec.europa.eu/‌competition/‌antitrust/‌cases/‌dec_docs/‌40099/‌40099_9993_3. ‌Pdf.

9 Subcommittee on Antitrust Commercial and Administrative Law of the Committee on the Judiciary(2020), INVESTIGATION OF COMPETITION IN DIGITAL MARKETS — MAJORITY STAFF REPORT AND RECOMMENDATIONS, October 6, 2020, available at, https://judiciary.house.gov/‌uploaded‌files‌/competition_in_digital_‌markets.pdf?‌utm_‌campaign‌=4493-519.

10 本件訴訟の提訴後の経緯について時系列に沿って記載すると、以下の通りである。

まず、提訴から2ヶ月後、コロラド州が中心となり、38州ないし海外領土の司法長官(Attorneys General)が、グーグル社に対して訴訟を提起した(Complaint (2020), Colorado, et al., v. Google LLC, No.20-cv-3715(APM)(D.D.C.)、以下「コロラド訴訟」という)。そして、2021年1月7日、裁判所は両訴訟を併合した。

次に、2021年1月15日、カリフォルニア州、ミシガン州、ウィスコンシン州が原告に加わり、米司法省は、訴状の改訂版を提出した(Amended Complaint (2021), United States of America, et al., v. Google LLC, Case No. 20-cv-3010 (APM) (D.D.C.), available at https://storage.‌courtlistener.‌com/‌recap/‌gov.uscourts.dcd.223205/‌gov.uscourts. ‌dcd.223205.94.0.pdf)。改訂版による変更は、提訴後に原告にさらに数州が加わったことを表記するのみであり、内容に及ぶところはない。

さらに、証拠開示手続き(discovery)を経て、グーグル社が“summary judgement”を求める異議申し立てを行った。2023年8月4日、裁判所は、グーグル社の異議申し立ての一部を認め、その部分に関する原告の主張が訴えに十分でないとして却下する決定(“summary judgement”は審理開始前の司法判断を言う。以下、本稿では仮に「審理前決定」という。)を下した。そのほかの主張事実については、9月10日以降に始まる正式審理へと進むことになる。

以上の通り、本件提訴については、本件訴訟提起時の訴状、コロラド訴訟の訴状、訴状の改訂版が存在しているほか、脱稿の直前に審理前決定が下されている(後注34)。これらのすべてを漏らさず紹介することは筆者の目下の余力を超えるので、本稿では、原則として提訴時の訴状に基づいて観ていくこととする。

11 イェルプは、米国とカナダで“crowdsourcing”を用いて事業展開している企業である。ウェブサイト(https://www.yelp.com/about)は、「Yelpは、人と地域の優良事業者との橋渡しをします(Yelp connects people with great local businesses.)。」との標題を掲げる。

12 グーグル社答弁書(後注28)は、この数値を認める。

13 以下、訴状の記載に則って訳出するが、目的は司法省の主張を概観することであり訴状文言の忠実な翻訳ではないので、適宜、要約あるいは補足し、原義を損なわない限りで意訳する(本稿において、他所の訳出についても同じ)。

14 グーグル社答弁書は、支払額が「年10億ドルを超える」ことを認める。

15 グーグル社答弁書は、アップル社の収益不知を理由に、この数値を否認する。

16 グーグル社答弁書は、この文書(記載)を認める。

17 グーグル社答弁書は、このメール(記載)を認める。

18 グーグル社答弁書は、2つのパーセンテージのうち、前者は不知、後者については認める。

19 グーグル・モバイル・サービスとして、アンドロイドとは別に頒布するアプリ・API群のことを指すと思われる。後注22参照。

20 訴状は、グーグル社・端末製造業者間で締結される「モバイル・アプリ頒布協定(MADAs)」の一般呼称として、この語を用いている(para. 72)。

21 “fork(ing)”とは、アンドロイドOSの改変(語義は「支流、支道」)をいい、“fragmentation”(断片化)とは、その結果としてアンドロイドに複数のバリエーションが生じるこという。もっとも、協定にその定義はなく、そのことがグーグル社に広範な解釈運用の幅を与えている(para. 67)。

22 グーグル・モバイル・サービス(Google Mobile Services; GMS)は、ブラウザ・アプリのクローム、動画アプリのユー・チューブ(YouTube)、地図アプリのグーグル・マップ(Google Map)、アプリ・ストアのグーグル・プレイ(Google Play)などの、グーグル社が所有管理する一群のアプリやAPI(次注)をワンセットにして、一括して利用許諾する仕組みである(para. 73)。

23 グーグル・プレイ・サービス(Google Play Service: GPS)とは、アプリ(第三者アプリを含む)及びアンドロイド機能の相互間の連携(情報のやり取り)を可能にするAPIである。アプリの開発者は、GPSを利用して、例えば、アンドロイドOSの「通知」機能やそのアプリであるグーグル・マップの位置情報を開発するアプリに用いることができるが、GPSもGMS(前注)に含まれる(para. 74)。

24 グーグル・プレイ(Google Play)は、端末上でアプリを頒布/販売するアプリ(ストア・アプリ)である(iOSのApp Storeに相当する。)。端末アプリ開発/頒布者にとっては、その利用は必須である。実際、アンドロイド用アプリの90%以上は、同アプリからダウンロードされてている(para. 73)。

25 この部分の意味は取りにくいが、グーグル社はブラウザ・アプリとしてクロームを頒布しており、他のブラウザ事業者は、その面ではライバルでもあることを意味すると思われる。

26 グーグル社は、次世代機器(例えば、コネクテッド・カーやスマート・ウォッチ、音声アシスタント機器)の開発者との協定においても、アンドロイド関連の協定と同様の制約を課している(paras. 161-165)。

27 この点について、2021年12月6日、段階審理命令(order to bifurcate proceedings)が下されている(Order to bifurcate proceedings (2021), United States of America, et al., v. Google LLC, Case No. 20-cv-3010 (APM) (D.D.C.), and Colorado, et al., v. Google LLC, No.20-cv-3715(APM)(D.D.C.), available at, https:// ‌www.justice.gov/‌media/‌1185611/dl?inline.)。段階審理とは、“liability”と“damages/remedies”の審理を分離して、前者をまず行うというものである。

28 Defendant Google LLC’s answer and Affirmative defenses to plaintiffs’ complaint (2020), United States of America, et al., v. Google LLC, Case No. 20-cv-3010 (APM) (D.D.C.), available at, https://storage.‌courtlistener.com/‌recap/gov.‌uscourts.‌dcd.‌223205/‌gov.uscourts.dcd.223205.87.0.pdf. なお、グーグル社は、翌年1月29日に訴状改訂版(前注10)に対して改めて答弁書を提出しているが(Defendant Google LLC’s answer and Affirmative defenses to plaintiffs’ complaint (2021), United States of America, et al., v. Google LLC, Case No. 20-cv-3010 (APM) (D.D.C.), available at, https://storage.‌courtlistener.‌com/‌recap/gov.‌uscourts.‌dcd.‌223205/‌gov.uscourts.‌dcd.‌223205.103.0_1_1.pdf)、内容に変更はない。

29 認否の方法は、端的な“admit”(自白)、“deny”(否認、なお、「争う」の意もある。)のほか、“lack knowledge/information”(不知)を理由とする否認がある。答弁書は、訴状の記載をほぼ全面的に否認(不知否認を含む。)しているが、グーグル自身において存否/真偽を確認する(ことができる)事実(例えば、特定の文書・メールの存否/記載内容)については、自白している。認否の例として前注12, 14~18を付したか所を参照。

30 前注28・Defendant Google LLC’s answer and Affirmative defenses to plaintiffs’ complaint (2020), pp.40~41.

31 請求の趣旨は、違法宣言のほか、是正措置(relief)と禁止命令である。是正措置は「必要」「適切」と表記されるのみで、訴状では特定されていない(para. 194)。

32 カヤック(KAYAK)は、多数の航空券サイトからフライトを検索し、最安値のフライトを見つけるための、いわゆる特定検索サイトである(https:// ‌www. ‌kayak. ‌com)。

33 Kent Walker (2020), SVP of Global Affairs, Google & Alphabet, A deeply flawed lawsuit that would do nothing to help consumers, October 20, 2020, available at, https:‌//blog.google/‌outreach-‌initiatives/public-policy/response-doj/.

34 脱稿前の2023年8月3日、裁判所は、異議申し立ての一部を認め、本文中③、⑤、⑥及び⑦の4点について、司法省の主張が訴訟維持に十分でないとして却下する審理前決定を下した。したがって、9月に始まる本審理では、①、②及び④の3点のみが争点事実として取り上げられることになる(Memorandum Opinion (2023), United States of America, et al., v. Google LLC, Case No. 20-cv-3010 (APM) (D.D.C.), and Colorado, et al., v. Google LLC, No.20-cv-3715(APM)(D.D.C.), available at, https://ecf.dcd.‌uscourts.‌gov‌/cgi-bin‌/show_public_doc?‌2020cv3010-626.)。なお、以下、本文にはこの最新の動向は反映していない。

35 グーグル社は、アンドロイドをオープン・ソースかつ無償としており、アンドロイドは「使用許諾型OS」である。アップル社は、いわゆる「垂直統合型」のビジネスモデルであるが、EU決定は、アップル社のiOSを“non-licensable smart mobile OSs”(「非使用許諾型OS」)と定義している。

36 前注8。EU決定の詳細については、中島美香 (2021)「グーグル・アンドロイド事件―スマート・モバイルOSのライセンスと競争法上の問題について―」特許研究No.71 34頁を参照。

EU決定後の2018年10月9日、グーグルは欧州委員会の違反決定を不服として、EU一般裁判所へ提訴した。2022年9月14日、EU一般裁判所は、欧州委員会の違反決定をおおむね支持する判決を下している(欧州委員会の決定について、収益分配協定による制限の一部に関する決定を無効とし、グーグルに課された制裁金を減額した)(Case T-604/18 (Google Android) (2022), Google and Alphabet v. Commission, Judgement of the General Court, September 14, 2022)。

37 グーグル社のビジネスモデルに批判的な立場:

Benjamin Edelman and Damien Geradin (2016), Android and Competition Law: Exploring and Assessing Google’s Practices in Mobile, 12 European Competition Journal 159.

グーグル社のビジネスモデルを支持する立場:

J. Gregory Sidak (2015), Do Free Mobile Apps Harm Consumers?, 52 San Diego Law Review 619, available at https:// ‌papers.ssrn.com/‌sol3/‌papers.cfm? ‌abstract_id‌=2507905; Torsten Körber (2014), Let’s Talk About Android – Observations on Competition in the Field of Mobile Operating Systems, available at https:// ‌ssrn.com/‌abstract=2462393.

38 Giorgio Monti and Alexandre Ruiz Feases (2021), THE CASE AGAINST GOOGLE: HAS THE U.S. DEPARTMENT OF JUSTICE BECOME EUROPEAN?, 35 Antitrust ABA 26; Benjamin Clay Hughes (2020), TIME FOR CHANGE: HOW GOOGLE'S ANTICOMPETITIVE CONDUCT REVEALS THE DEFICIENCIES OF MODERN ANTITRUST REGULATION, 4 Cardozo Int'l & Comp. L. Rev. 399; Joé Lamesch (2016), Market Definition in the Google Android Case, available at http:// ‌hdl.handle.net/‌2268.2/‌1812; Travis Clark (2017), Google v. Commissioner: A Comparison of European Union and United States Antitrust Law, 47 Seton Hall L. Rev. 1021.

39 Joshua Nelson (2021), TECH PLATFORMS ARE ESSENTIAL FACILITIES, 22 Nev. L.J. 379; Inge Graef (2019), Rethinking the Essential Facilities Doctrine for the EU DigitalEconomy, 53 R.J.T. 33; Nikolas Guggenberger (2021) ,THE ESSENTIAL FACILITIES DOCTRINE IN THE DIGITAL ECONOMY DISPELLING PERSISTENT MYTHS, 23 Yale J. L. & Tech. 301.

参考文献
  • 中島美香 (2021)「グーグル・アンドロイド事件―スマート・モバイルOSのライセンスと競争法上の問題について―」特許研究No.71 34頁
  • 松下満雄・渡邉泰秀(編)(2012)『アメリカ 独占禁止法[第2版]』東京大学出版会
  • Amended Complaint (2021), United States of America, et al., v. Google LLC, Case No. 20-cv-3010 (APM) (D.D.C.).
  • Benjamin Clay Hughes (2020), TIME FOR CHANGE: HOW GOOGLE'S ANTICOMPETITIVE CONDUCT REVEALS THE DEFICIENCIES OF MODERN ANTITRUST REGULATION, 4 Cardozo Int'l & Comp. L. Rev. 399.
  • Benjamin Edelman and Damien Geradin (2016), Android and Competition Law: Exploring and Assessing Google’s Practices in Mobile, 12 European Competition Journal 159.
  • Case T-604/18 (Google Android) (2022), Google and Alphabet v. Commission, Judgement of the General Court, September 14, 2022.
  • Complaint (2020), Colorado, et al., v. Google LLC, No.20-cv-3715(APM)(D.D.C.).
  • Complaint (2020), United States of America, et al., v. Google LLC, Case No. 20-cv-3010 (APM) (D.D.C.).
  • Defendant Google LLC’s answer and Affirmative defenses to plaintiffs’ complaint (2020), United States of America, et al., v. Google LLC, Case No. 20-cv-3010 (APM) (D.D.C.).
  • Defendant Google LLC’s answer and Affirmative defenses to plaintiffs’ complaint (2021), United States of America, et al., v. Google LLC, Case No. 20-cv-3010 (APM) (D.D.C.).
  • DoJ (2020), Press Release, Justice Department Sues Monopolist Google For Violating Antitrust Laws, October 20, 2020.
  • European Commission (2018), AT.40099 – Google Android, COMMISSION DECISION of 18.7.2018 relating to a proceeding under Article 102 of the Treaty on the Functioning of the European Union (the Treaty) and Article 54 of the EEA Agreement (July 18, 2018).
  • FTC (2013), Press Release, Google Agrees to Change Its Business Practices to Resolve FTC Competition Concerns In the Markets for Devices Like Smart Phones, Games and Tablets, and in Online Search, January 3, 2013.
  • Giorgio Monti and Alexandre Ruiz Feases (2021), THE CASE AGAINST GOOGLE: HAS THE U.S. DEPARTMENT OF JUSTICE BECOME EUROPEAN?, 35 Antitrust ABA 26.
  • Inge Graef (2019), Rethinking the Essential Facilities Doctrine for the EU DigitalEconomy, 53 R.J.T. 33.
  • J. Gregory Sidak (2015), Do Free Mobile Apps Harm Consumers?, 52 San Diego Law Review 619.
  • Joé Lamesch (2016), Market Definition in the Google Android Case, available at http:// ‌hdl.handle.net/‌2268.2/‌1812.
  • Joshua Nelson (2021), TECH PLATFORMS ARE ESSENTIAL FACILITIES, 22 Nev. L.J. 379.
  • Kent Walker (2020), SVP of Global Affairs, Google & Alphabet, A deeply flawed lawsuit that would do nothing to help consumers, Octover 20, 2020.
  • Memorandum Opinion (2023), United States of America, et al., v. Google LLC, Case No. 20-cv-3010 (APM) (D.D.C.), and Colorado, et al., v. Google LLC, No.20-cv-3715(APM)(D.D.C.).
  • Nikolas Guggenberger (2021) ,THE ESSENTIAL FACILITIES DOCTRINE IN THE DIGITAL ECONOMY DISPELLING PERSISTENT MYTHS, 23 Yale J. L. & Tech. 301.
  • Order to bifurcate proceedings (2021), United States of America, et al., v. Google LLC, Case No. 20-cv-3010 (APM) (D.D.C.), and Colorado, et al., v. Google LLC, No.20-cv-3715(APM)(D.D.C.).
  • Subcommittee on Antitrust Commercial and Administrative Law of the Committee on the Judiciary(2020), INVESTIGATION OF COMPETITION IN DIGITAL MARKETS — MAJORITY STAFF REPORT AND RECOMMENDATIONS, October 6, 2020.
  • Torsten Körber (2014), Let’s Talk About Android – Observations on Competition in the Field of Mobile Operating Systems, available at https:// ‌ssrn.com/‌abstract=2462393.
  • Travis Clark (2017), Google v. Commissioner: A Comparison of European Union and United States Antitrust Law, 47 Seton Hall L. Rev. 1021.
 
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