情報通信政策研究
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7 巻, 1 号
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寄稿論文
  • 内山 隆
    2023 年 7 巻 1 号 p. 1-23
    発行日: 2023/11/20
    公開日: 2023/12/28
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    本稿では“道具としてのAI”の側面を考察する。著作物はあくまで人間による創作という前提、および現在の生成AIがはきだす品質や正確性、を考えれば、最後は人間によるファイナル・カットであることが求められるし、生成系AI出力を最終成果物とすることへの昨今の社会からの疑義にも違和感はない。一方、中間工程、中間財としては既に積極活用がみられ、クリエイティブの選択肢や作業効率の向上に貢献していると考えられる。

    AIという道具は、i) UGCにみられるアマチュア・趣味層の創作活動への関心と参画を促し、なかには優れた生成物を生み出して、ii)それらが一部の有償のスタッフの仕事を奪うことも起きるが、iii) 全体にプロの仕事のうち煩わしい部分の効率化につながる側面もある、と考えられる。AIの進化に伴いi)、ii)に対して、iii)の性質は産業の拡大に対してトレードオフにあり、AIの進化と産業の拡大のバランスをとることにおいては、AI活用の仕方や生成物の質の高さ、人材のキャリア・パスなど、マネジメント事項は少なくない。

特別寄稿
  • 栄藤 稔
    2023 年 7 巻 1 号 p. 25-51
    発行日: 2023/11/20
    公開日: 2023/12/28
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    生成AIの技術進化が2022年から急激に加速し、ユーザーを取り込んだ新たなコンテンツ経済圏が形成されようとしている。2014年に発明されたGAN(生成的敵対ネットワーク)という技術により、人が区別できないほど精巧な画像が自動生成されるようになった。さらに、2016年、データを高度に抽象化する深層学習技術、トランスフォーマーが登場した。これは「データを与えさえすれば機械が自動学習する」という教師なし学習の大きなブレークスルーとなった。そして2022年、ChatGPTに代表されるコンテンツを自動生成する技術が登場し、多様なメディアを対象として急速に進化しようとしている。深層学習の進化、音声や画像認識の実用化、そしてこれらの技術組み合わせることで、従来人間が行っていた文章の執筆、絵の描画、楽曲の制作、動画の撮影や編集といったクリエイティブな作業がAIによって置き換えられる時代が到来した。コンテンツ制作の主体がプロのクリエーターから一般の人々へと移行する可能性が出てきた。従来のクリエーター中心の視点から、ユーザー中心の視点へのコンテンツ経済圏のシフトが予見される。

    AIが作成したコンテンツをAIGC(AI Generated Content)と呼ぶ。それがどのような経済圏を作るかを議論したい。脚本の生成や俳優の演技のデジタル複製・変更が簡単に行えるようになり、これが脚本家や俳優の役割や権利への影響をもたらすことが予想される。このような変化は、クリエーターとして知られる脚本家、アニメーター、俳優などの様々な分野の専門家たちの生態系に大きな変動を引き起こす可能性がある。日本には、ポケモンに代表されるキャラクターコンテンツを中心とした世界的に成功を収めているメディアフランチャイズ事業や、ユーザー主導でのコンテンツの流通を特徴とするコミュニケーションマーケットなどの独自の文化が存在する。その代表例として初音ミクを取り上げる。デジタル技術の進化、ユーザーの積極的な参加、ファンの熱狂、そして柔軟な著作権管理を組み合わせたビジネスモデルが、日本において生成AIを効果的にビジネスに取り入れるための良い土壌を形成している。今後、ソーシャルメディアと生成AIの組み合わせによって、ユーザー生成コンテンツ(UGC)がAIGCと一体化し、世界的に広がっていくことが期待される。一方で、生成AIの技術の利用には、著作権法の問題や倫理的な課題など、様々な問題が伴う。特に、人間の感性や独自性を持つコンテンツの生成に関しては、AIとのバランスをどのように取るかが重要となる。生成AI技術と人間のクリエーターが対立するのではなく、互いに共存し、新しい形のコンテンツを共に生み出すことが、今後のコンテンツ産業の発展の鍵となる。

  • ―持ち寄り経済の技術とガバナンス
    國領 二郎
    2023 年 7 巻 1 号 p. 53-67
    発行日: 2023/11/20
    公開日: 2023/12/28
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    ネット経済の黎明期にはユーザ情報探索力の強化によってユーザ主導型のビジネスモデルが勃興することが予想された。しかし、現実にはその後のクラウドコンピューティングを活用したターゲットマーケティングの登場などによって逆に供給者主導の経済圏へと発展していった。利便性高い社会が生まれた一方でスポンサー利益のためにユーザの権利を侵害することへの懸念が広がっている。この状況を改善すべく、Web3.0や自己主権型アイデンティティなどの名の元でユーザに自分についての情報の流れをより有効にコントロールできるアーキテクチャが提案されつつある。政府による規制やビジネスモデル革新と合わせることで、ユーザの権利を守るデジタル社会を目指すことが望まれる。自己主権型アーキテクチャをいち早く標榜し実装した前橋デジタル田園都市においては、技術的対応に加えて情報提供者の意思と利益を守ることを使命とするデータガバナンス委員会の設置などが行われている。これらの取り組みを進める過程で(1)ユーザ主権の保護と使いやすさの相克、(2)ビジネスモデルの構築などが課題として浮かび上がってきた。いずれについても地域共同体の信頼関係とインセンティブ構造の技術的制度的整備による解決が構想できる。

  • 新保 史生
    2023 年 7 巻 1 号 p. 69-100
    発行日: 2023/11/20
    公開日: 2023/12/28
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    本稿は、①AIシステムの研究開発から利用、販売及びサービスの提供にあたって必要な「ルール(規制)」を定め、②その遵守について自主的な取り組みを尊重しつつ、③販売やサービス提供において「事実上の強制規格」として機能する「ルール(整合規格・技術標準・要求事項)」を導入し、④それを計画、実施、評価及び改善するためのマネジメントシステム規格を定め、⑤これらの仕組みを規律するための根拠を法定するとともに、⑥「AI規正委員会(仮称)」を設置し、⑦「日本版AIシステム適合性評価制度」を中核とするAI規制構想を提案する。

    専ら自主的な規律に期待するソフトローの検討を試行錯誤し続けるのではなく、一方で、反対意見が根強い規制(実質的な禁止事項の法定等)の導入に伴うハードローへの抵抗感を払拭するため、これまで検討がなされてきた原則・指針やガイドライン等をめぐる議論からは発想を転換した取り組みを模索することが本稿の目的である。当該目的を達成するために、規範の遵守を自主性に委ねハードローによる規制を行わない法規制回避論からの脱却、国際的な動向を踏まえたAI規制の「最適化(optimisation)」、AIの研究開発・利用における将来的なAI規制政策に資する方策により、新たなAI規制の制度設計を試みる。

  • 田村 善之
    2023 年 7 巻 1 号 p. 101-123
    発行日: 2023/11/20
    公開日: 2023/12/28
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    メタヴァースの世界において実用品がいかなる要件の下に知的財産法の保護を受けるかという問題がある。UGCの制作にAIを活用することにより、多種多様な実用品の大量のデザインが最終成果に何らかの形で反映されることになる以上、実用品に係る知的財産権をクリアする必要があるのはいかなる場合であるのかということを明確化する必要性は大きなものとなっている。そこで、本稿は、実用品のデザインについて登録意匠や、著作権の保護をメタヴァースの世界に無限定に及ぼす場合の問題点を明らかにするとともに、商品形態のデッド・コピー規制に係る不正競争防止法2条1項3号の2023年改正の意義を探求する。結論をいえば、これまで依拠なければ侵害なしという世界のなかで発展してきた創作の現場を、登録があれば依拠がなくても侵害となる登録意匠の世界で塗りつぶしていくことはかえって創作の現場を過度に混乱させることになるから忌避すべきであり、依拠がなければ侵害にならないという前提を堅持できる不正競争防止法上のデッド・コピー規制を活用していくことが望ましい、というのが本稿の見立てである。

寄稿論文
  • -メタバースのアバターを中心に-
    石井 夏生利
    2023 年 7 巻 1 号 p. 125-138
    発行日: 2023/04/21
    公開日: 2023/12/28
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    本稿では、メタバース内で活動するアバターの背後に存在する操作者(本人)に対し、アバターの利用を通じた人格的同一性の保持に関して付与し得る人格権ないしは人格的利益を検討した。メタバースでの秩序形成においては、なりすましによる被害から本人を法的に保護する仕組みを設けることが必要であり、係る保護を理論的に裏付ける説として、憲法学の領域における「自己イメージコントロール権」、「自己像の同一性に対する権利」、そして、実務的な観点から提唱されている「他者との関係において人格的同一性を保持する利益」としての「アイデンティティ権」が挙げられる。これらの権利概念は必ずしも確立しているわけではないが、少なくともソフトローによる秩序形成の背景に存在する根拠となり得る。今後、メタバースがさらに拡大し、ハードローによる法的保護を必要とする社会的合意が形成される段階に至った場合には、上記の各権利概念が実定法上の権利へと発展する可能性はあると考える。

  • ―パブリック・フォーラム論の機能条件
    土井 翼
    2023 年 7 巻 1 号 p. 139-162
    発行日: 2023/04/21
    公開日: 2023/12/28
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    日本のインターネット利用者全体の8割以上が、知人とのコミュニケーションや情報収集という社会生活におけるきわめて重要な目的のために、SNSを利用している。そして、SNSの利用はそうした目的達成のための主たる手段である。したがって、他者のSNS利用を阻害する行為は、対象者の社会生活に対する重大な脅威たりうる。

    そこで、私人によるSNS利用に法的な保護を与えるための議論が各国で展開されている。なかでも有力な議論の一つが、ある私人が表現活動のために一定のフォーラム性を備えた財産を利用することを当該財産の管理者に受忍させることで、表現の自由という憲法的価値のより高次の実現を図るための議論、すなわちパブリック・フォーラム論(PF論)をSNSに適用するというものである。アメリカ合衆国の裁判例には実際にPF論をSNSに適用したものも存在しており、この議論の当否を検討する意義は大きい。

    しかるに、本稿は、かかる裁判例及び日米の一部学説の潮流にもかかわらず、以下の2つの理由から、日本においてSNSにPF論を適用すべき理由は存在しないと主張する。第1に、SNSへのアクセスを法的に保障するという目的との関係で、SNSがパブリック・フォーラムか否かという問題を立てる意味がない。第2に、こうした問題に拘泥することにより、却って適切な利益衡量が阻害されうる。換言すれば、SNSに関する法的規制につき検討するためには、表現の場としてのSNSの特性及び利害関係人の利益状況をそれ自体として直截に分析すれば必要にして十分である。

    この主張を論証するために、本稿は、「ある事案においてPF論が機能するとすれば、当該事案における表現の自由の反対利益は限定的であり、かつ、そうした反対利益の価値は表現の自由に比して類型的に小さい」という仮説を措定し、アメリカ連邦最高裁判例を題材としてその仮説の妥当性を示す。そして、SNSをめぐる利害状況はそうしたPF論の機能条件を充足するものではないことを論ずる。これにより、日本においてSNSにPF論を適用する理由がないことが明らかになる。

  • ―訴状を中心に
    中島 美香
    2023 年 7 巻 1 号 p. 163-183
    発行日: 2023/11/10
    公開日: 2023/12/28
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    2020年10月20日、米司法省は、米11州の司法当局と共同してワシントンDC連邦地方裁判所に、グーグル社をシャーマン法違反を理由として提訴した。訴状は、グーグル社が、一般検索サービス市場、検索広告市場、及び、一般検索テキスト広告市場における独占事業者であり、同社の行為が、シャーマン法第2条に違反して独占を維持したと訴えている。

    EUでは、2018年7月18日に欧州委員会が、グーグル社のアンドロイドOSに関するビジネスモデル(本件訴訟と共通ないし類似する部分がある)に対して違反決定を下し、巨額の制裁金を課している。欧州委員会の違反決定書は、同社が、アンドロイドOS市場、アンドロイドのアプリ・ストア市場、一般検索サービス市場において、独占事業者であり、グーグルの複数の行為が、欧州連合運営条約第102条に違反して支配的地位の濫用を構成し、一般検索サービス市場における同社の支配的地位を維持・強化するものであると認定した。

    EU決定では、アップル社のiOSを別市場であるとして視野外に置き、もっぱらアンドロイドOS市場における支配性を認定して、抱き合わせの要件に基づいて違反決定を下した。対して、米司法省の訴えは、一般検索サービス市場、検索広告市場、及び、一般検索テキスト広告市場を市場画定することによって、アップル社との協定を含む、グーグル社が事業者らと結ぶ諸協定が、同社のライバルとなる検索エンジンが参入する機会を否定したこと、ライバルとなる検索エンジンが広告によって収益を獲得する機会を否定したことを違反行為としている。米司法省は、アップル社のiOS端末においてもグーグル検索が独占的にプリインストールされていたことを違反の構成事実としているが、この点は、EU決定ではiOSを除いて市場を画定したため争点とされておらず、米司法省による訴えとEU決定とを比較するうえでの大きな相違点であると指摘することができる。

    裁判は提訴後2年半を経た現在(2023年9月)も繋属中であり、判決には至っていない。したがって、訴状掲記の各行為は認定されたわけではなく、あくまで原告(米司法省)側の主張事実であるのにとどまる。本稿では、グーグル社のどのような行為が訴因として主張されているのかを訴状に沿って概観し、それに即して本件訴訟に係る反競争行為に関する論点を整理することとしたい。

  • 杉原 周治
    2023 年 7 巻 1 号 p. 185-214
    発行日: 2023/11/10
    公開日: 2023/12/28
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    ドイツでは、数年前から、とりわけインターネット上のライブストリーミング・コンテンツが認可を義務付けられる「放送」にあたるか否かが、判例・学説において激しく議論されてきた。その際、当該コンテンツが放送にあたるか否かの判断は、第一次的に、ドイツの放送法であるメディア州際協定にいう「放送」概念に照らして審査されることになる。すなわち、メディア州際協定にいう放送概念は、とりわけ「リニア」、「公衆」、「同時視聴」、「番組スケジュール」、および「ジャーナリスティックかつエディトリアル〔な制作〕」といった概念によって特徴付けられ、当該コンテンツがここでいう「放送」に該当するとみなされた場合、その提供のために放送認可が必要となる。

    しかしながら、当該コンテンツがメディア州際協定にいう放送にあたるとしても、その提供のために常に認可が必要なわけではない。すなわち、メディア州際協定は、第54条において「認可不要な」放送に関する規定を設け、認可義務の原則の例外について定めているのである。具体的には、メディア州際協定54条は、①個人および公の意見形成にとってわずかな意義のみを有する放送、②6ヶ月間の平均で、同時接続ユーザーが20,000未満の放送プログラム、③将来的に6ヶ月平均で同時接続ユーザーが20,000人を下回ることが明らかに予測される放送は、認可を必要としない放送とみなされると規定する。それに加えて、同条項は、認可不要な放送を判断するための審査手続および判断手続については州メディア協会が規則によってこれを詳細に規律すると定めている。

    このように、2020年11月7日発効のメディア州際協定は、従来から議論されてきた「放送」の概念の問題、および放送とライブストリーミング・コンテンツの区分をめぐる問題について一定の解決を試みたのである。そこで本稿は、このメディア州際協定54条にいう「認可不要な」放送に関する規定の内実、ならびに認可不要の確認に関する審査手続および判断基準について分析し、ドイツの法規制のあり方を検討することにしたい。

  • カライスコス アントニオス
    2023 年 7 巻 1 号 p. 215-235
    発行日: 2023/12/20
    公開日: 2023/12/28
    ジャーナル フリー HTML

    今日のデジタル社会では、ユーザー(消費者)が、自己の個人データを提供するのと引き換えにデジタル・コンテンツやデジタル・サービスの供給を受けることが増え、一般化している。このようなビジネス・モデルの普及とは対照的に、その法的規律はまだ未完全のままである。コンテンツやサービスの供給者の約款等では、一般的に、このような契約は「無償」のものとして位置づけられている。しかし、その実態として、事業者は、ユーザーから提供された個人データを用いて収益を上げており、このことは、これらの契約の法的な性質を決定する際にも重要となる。法的な観点からは、このような契約をどのように取り扱うのか、例えば、ユーザー(特に、ユーザーが消費者であるとき)に、コンテンツやサービスの契約不適合性の場合にどのような救済手段を認めるのかなど、様々な側面において重要となる。

    EUでは、この現象を捉えて、そのような場合においても、デジタル・コンテンツ等の契約不適合性について、代金(金銭等)を支払った場合と同じ救済手段が消費者に付与されるに至っている。同時に、個人データの保護は基本権であることも強調され、このような法的取扱いによって個人データがコモディティ化(商品化)されているわけではないことが明確にされている。他方で、個人データが契約上の対価として位置づけられることによって、契約法と個人データ保護法との交錯による新たな課題も生じている。具体的には、契約法に関する規律内容と個人データに関する規律内容が相互にどのような影響を与えるのか、などということである。

    本稿では、まず、デジタル・コンテンツ供給指令の採択に至るまでのEU消費者法の展開を振り返る。その上で、分析のための前提として、デジタル・コンテンツ供給指令および関連指令等(一般データの保護に関する規則(GDPR)など)を概観する。そして、本稿の中核部分として、デジタル・コンテンツ供給指令における個人データの対価としての位置づけに関して、該当する契約の成立および効力について複数の視点から考察する。本稿における分析は、日本法における今後の関連する議論に資するものとして、そして、さらには、EU法および日本法で益々顕著に見られる契約法(そして消費者保護法)と個人データ保護法との交錯に関する分析の第一歩として位置づけて行うものとなる。

論文(査読付)
  • 村上 康二郎
    2023 年 7 巻 1 号 p. 237-258
    発行日: 2023/12/04
    公開日: 2023/12/28
    ジャーナル フリー HTML

    プライバシー・個人情報保護の分野においては、従来、「同意原則」ないし「通知・選択アプローチ」と呼ばれる考え方が重視されてきた。しかし、最近では、IoT、ビッグデータ、AIといった情報技術の普及によって、実効的な本人同意を実現することが、困難になってきている。

    このような情報環境の変化は、プライバシー権に関する法理論に対しても影響を与えるようになっている。従来、我が国の憲法学では、プライバシー権については、いわゆる自己情報コントロール権説が通説であるとされてきた。しかし、近年では、前述した情報環境の変化もあり、自己情報コントロール権説を批判し、これとは異なるプライバシー権論を提唱する見解が様々な形で主張されるようになっている。

    このようにプライバシー権に関する学説は混迷を深めているが、その中でも、ある程度、共通する傾向というのは存在している。それは、プライバシー権に関する根拠を多元的に捉えるということである。仮に、プライバシー権の根拠を多元的に捉える立場に立つのであれば、プライバシー権の内容も多元化するのが素直ではないかと考えられる。本稿は、情報プライバシー権を多元化し、類型化をはかることを試みるものである。

    本稿は、結論的に、プライバシー権を以下のように類型化すべきであると主張する。まず、プライバシー権は、大きく、情報のプライバシー、自己決定のプライバシー、領域のプライバシーに分かれる。そして、情報プライバシー権は、①自己情報コントロール権、②自己情報適正取扱権、③私生活非公開権の3つに分かれるということである。

立案担当者解説
  • 岩坪 昌一
    2023 年 7 巻 1 号 p. 259-273
    発行日: 2023/07/20
    公開日: 2023/12/28
    ジャーナル フリー HTML

    第211回通常国会において成立した「放送法及び電波法の一部を改正する法律」は、近年の放送を取り巻く環境の変化を踏まえ、国内基幹放送事業者が事業運営の効率化を図りつつ放送の社会的役割を果たしていくことを将来にわたって確保するため、①複数の放送対象地域における放送番組の同一化、②複数の特定地上基幹放送事業者による中継局設備の共同利用、③基幹放送事業者等の業務管理体制の確保に係る規定の整備の各措置を講ずるものである。

    ①については、経営基盤強化計画の認定制度を改正し、国内基幹放送の役務に対する需要の減少等の認められる地域として総務大臣が指定する地域を含む地域において、地域性の確保のための措置を講ずる等の一定の条件の下で、異なる放送対象地域の国内基幹放送事業者が、その個別の経営状態にかかわらず、同一の放送番組の放送を同時に行うための制度を整備するものである。

    ②については、複数の特定地上基幹放送事業者が中継局設備を共同で利用することで事業運営の効率化を図ることを可能とするため、特定地上基幹放送事業者が、総務大臣による確認を経た上で、他者(基幹放送局提供事業者)の中継局を用いて地上基幹放送の業務を行うことを可能とするものである。

    また、日本放送協会(以下「協会」という。)の地上基幹放送の業務の効率化を図る必要性が特に高い地域として総務大臣が指定する地域において、協会の子会社が、中継局を保有・管理し、協会の地上基幹放送の業務の用に供することを可能とするとともに、協会の放送設備の当該子会社への譲渡を放送設備の譲渡制限の例外とするものである。

    ③については、基幹放送事業者及び基幹放送局提供事業者に対して設備の運用のための業務管理体制(委託先における業務管理体制を含む。)を総務省令で定める基準に適合するように維持する義務を課すとともに、基幹放送業務の認定及び基幹放送局の免許の申請書の記載事項に設備の運用の委託に係る事項を追加することにより、総務大臣が委託の実態を把握することを可能とするものである。

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