ブレインテック・ニューロテックと呼ばれる脳神経情報のAIによる処理や、脳神経情報の指示に基づくロボット・人工身体の操作、そして、AIの処理結果に基づく肉体の操作等に関する技術がますます発展している。そのような中、本稿はまず、新たな技術の概要や、将来的に技術が発展した場合にどのようなことが可能となるかを明らかにする。その上で、そのような将来的な技術発展が実現した場合において、従来のAI・ロボット法が、どのように変貌を迫られるかに関する検討の基礎を提供する。
具体的な技術としては、脳神経情報の取得、AIによるこれらの情報の処理、処理結果を踏まえたデータ等を脳等へ入力し、介入すること等が挙げられる。また、BMI(ブレイン・マシン・インターフェース。BCI、ブレイン・コンピュータ・インターフェースとも。)を介した身体制御等が行われる。
このような、これまでのAI・ロボット法として想定していなかったと思われるAIによる処理やロボット(人工身体を含む)の制御方法、そして、肉体という新たな制御対象の出現により、従来AI・ロボット法においてはむしろ当然視されていたような基礎的な事項の変更が迫られている。例えば、行為の帰属・責任、意思表示の有効性、刑事・民事責任の認定といった点の再検討が必要となる。
これに加え、現行法の保護が将来的に不十分となる可能性も指摘できる。例えば、内心や意思形成に直接関与し得る脳神経情報に対してより高度な保護が必要である反面、現行法の「要配慮個人情報」概念による限り、少なくともすべての脳神経情報が、同概念による保護の対象とはなっているものではない。
加えて、従来はサイボーグが問題となっており、「機械」のロボットが肉体に取り付けられることを前提に、いわば、本来「モノ」であるロボットについて、その一部を肉体に類似するものとして法的に取り扱う(例えば傷害罪による保護の対象とする)ことはできないか等が論じられていた。しかし、肉体がAIの制御対象となった場合には、これとは議論が逆の方向となり、我々の身体がAIによって、いわばコントロールされることにより生じる挑戦について検討することが必要となる。
更に、認知過程にAIが介入することが技術的には可能となる時代の到来と共に、認知過程の自由(cognitive liberty)や神経権(Neurorights)といった概念をAI・ロボット法においても導入すべきではないかが問題となる。
このように、ブレインテック・ニューロテックの発展に伴い、AI・ロボット法における大きな変革が待ち構えている以上、AI・ロボット法を研究し、また実務においてこれを実践する上で、現段階から、これらの技術を理解し、これらの技術のもたらす挑戦に対する対応の検討を開始することが必要となるところ、本稿はまさにそのような検討を行う上で必要な論点を概観していくものである。