情報通信政策研究
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寄稿論文
ブレインテック・ニューロテックとAI・ロボット法
―インターネット・オブ・ブレインズ時代の法と技術
松尾 剛行
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2025 年 9 巻 1 号 p. 165-181

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要旨

ブレインテック・ニューロテックと呼ばれる脳神経情報のAIによる処理や、脳神経情報の指示に基づくロボット・人工身体の操作、そして、AIの処理結果に基づく肉体の操作等に関する技術がますます発展している。そのような中、本稿はまず、新たな技術の概要や、将来的に技術が発展した場合にどのようなことが可能となるかを明らかにする。その上で、そのような将来的な技術発展が実現した場合において、従来のAI・ロボット法が、どのように変貌を迫られるかに関する検討の基礎を提供する。

具体的な技術としては、脳神経情報の取得、AIによるこれらの情報の処理、処理結果を踏まえたデータ等を脳等へ入力し、介入すること等が挙げられる。また、BMI(ブレイン・マシン・インターフェース。BCI、ブレイン・コンピュータ・インターフェースとも。)を介した身体制御等が行われる。

このような、これまでのAI・ロボット法として想定していなかったと思われるAIによる処理やロボット(人工身体を含む)の制御方法、そして、肉体という新たな制御対象の出現により、従来AI・ロボット法においてはむしろ当然視されていたような基礎的な事項の変更が迫られている。例えば、行為の帰属・責任、意思表示の有効性、刑事・民事責任の認定といった点の再検討が必要となる。

これに加え、現行法の保護が将来的に不十分となる可能性も指摘できる。例えば、内心や意思形成に直接関与し得る脳神経情報に対してより高度な保護が必要である反面、現行法の「要配慮個人情報」概念による限り、少なくともすべての脳神経情報が、同概念による保護の対象とはなっているものではない。

加えて、従来はサイボーグが問題となっており、「機械」のロボットが肉体に取り付けられることを前提に、いわば、本来「モノ」であるロボットについて、その一部を肉体に類似するものとして法的に取り扱う(例えば傷害罪による保護の対象とする)ことはできないか等が論じられていた。しかし、肉体がAIの制御対象となった場合には、これとは議論が逆の方向となり、我々の身体がAIによって、いわばコントロールされることにより生じる挑戦について検討することが必要となる。

更に、認知過程にAIが介入することが技術的には可能となる時代の到来と共に、認知過程の自由(cognitive liberty)や神経権(Neurorights)といった概念をAI・ロボット法においても導入すべきではないかが問題となる。

このように、ブレインテック・ニューロテックの発展に伴い、AI・ロボット法における大きな変革が待ち構えている以上、AI・ロボット法を研究し、また実務においてこれを実践する上で、現段階から、これらの技術を理解し、これらの技術のもたらす挑戦に対する対応の検討を開始することが必要となるところ、本稿はまさにそのような検討を行う上で必要な論点を概観していくものである。

Abstract

The technologies commonly referred to as “brain-tech” or “neuro-tech” — specifically, the AI-based processing of neural data, the operation of robotic or artificial bodies in response to neural commands, and techniques by which AI-derived outputs are used to actuate the human body — are advancing rapidly. This article first provides a concise technical overview and, insofar as current trajectories permit reasonable projection, sketches plausible future capabilities. Building on that foundation, it then offers a conceptual framework for assessing how the evolution of these technologies could compel substantive transformation of existing legal doctrines governing AI and robotics.

Concretely, the relevant technological phenomena include: (i) the capture and interpretation of neurophysiological signals; (ii) the processing of those signals by machine-learning systems; and (iii) the delivery of information or energy back into neural tissue or other bodily systems so as to intervene in cognition or motor function. Physical control of the body mediated by brain-machine interfaces (BMI, also known as brain-computer interfaces, BCI) is already an active area of development. These modes of interaction and control implicate methods of AI processing and robotic (including artificial-body) actuation that were not contemplated by classical AI/robotics law and policy frameworks.

The emergence of the human body as a direct control target for AI reverses earlier normative concerns about “machines attached to the body” and raises distinct legal questions. Matters that require re-examination include the attribution of action and responsibility, the legal effectiveness of declarations or consent produced under neuro-mediated conditions, and standards for establishing criminal and civil liability when agency and causation are technologically entangled. There is a realistic possibility that existing protective regimes will prove inadequate. Neural data can bear on inner thought and decision-making processes; yet not all such data will fit comfortably within current legal categories of “sensitive” personal information, which risks leaving critical vulnerabilities unaddressed.

Moreover, as technical capacities to intervene in cognitive processes mature, concepts such as cognitive liberty and neurorights — which protect mental autonomy and the privacy of neural information — will likely need to be integrated into AI and robotics law. Where earlier debates focused on the legal status of cyborgs or on treating parts of machines as quasi-bodily for the purposes of criminal harm doctrines, the present challenge is the inverse: to consider the legal implications of bodies and minds being subject to machine control. Given these prospects, scholars and practitioners concerned with AI and robotics must, at this stage, acquire a working understanding of brain-tech and commence systematic analysis of legal responses. This paper surveys the principal issues that should guide such research and policy development.

1.はじめに

1.1 立ち上がるブレインテック法研究

ブレインテックとは、脳(ブレイン)と技術(テクノロジー)を組み合わせた言葉であり、脳科学・工学の知見や技術を融合して開発された製品やシステム、サービス等を指し、BMI(ブレイン・マシン・インターフェース)やBCI(ブレイン・コンピュータ・インターフェース)と呼ばれることもある1。この技術は神経(ニューロ)と技術(テクノロジー)を組み合わせた言葉を利用して、ニューロテックとも呼ばれるところ、以下では、ニューロテックと呼ばれる技術も含めてブレインテックという語で総称する。

このような技術は、様々な活用が見込まれる。例えばブレインテックを利用して、考えるだけで(コンピュータ上で)チェスをプレイする事例が報じられている2。また、例えば、実験参加者に特定の画像を示した上で、ブレインテックを利用して当該実験参加者の脳内を読み取ることで、示した画像とどの程度近接した画像を復元できるか等の実験が行われている3。更に、文章を読み上げ、それを実験参加者に聞かせ、ブレインテックを利用して当該実験参加者の脳内を読み取ることで、どの程度読み聞かせた文章に近いものを復元できるか等の実験も行われている4。

そして、脳から読み出した情報をAIで処理してその人が何を考えているかを解析し、それをもとに、例えばロボット義手・義足を動かすブレインテックや、逆に脳に対して特定の情報(例えば視覚障害治療ブレインテックであれば、目の前の映像情報)をAIで処理して脳が読み取れるような形にして送信するブレインテックは、ロボットの操作やAIでの処理が行われるという意味で、AI・ロボットとも密接な関連性を有する。

そして、既に法学分野においても、ブレインテックに関する研究が進んでいる。慶應義塾大学駒村圭吾教授を研究代表者とする、JSTムーンショット目標1・研究開発プロジェクト「身体的能力と知覚能力の拡張による身体の制約からの解放」における、脳神経科学技術の社会実装を見込んだ法的・倫理的・社会的課題探索(ELSI)を行う研究ユニット「IoB-S(“Internet of Brains"-Society)」が立ち上がり、『インターネット・オブ・ブレインズの法 神経法学の基礎と事例研究』5他が出版されている6。

1.2.AI・ロボット法への影響

ここで、ブレインテック技術の進展について、従来から存在するAI・ロボット法自体には影響が及ぼさないのであって、単にAI・ロボット法の適用対象の1類型が追加されただけと理解することはあり得る。つまり、「処理する情報に脳神経情報も含まれるようになった」「ロボットの種類にロボット義手・義足が含まれるようになった」という理解をするということである。とはいえ、ブレインテックにはさまざまな特殊性があることから、ブレインテックが「AI・ロボット法」に対してどのような影響をもたらし得るか、以下検討していきたい。

2.ロボットの範疇に「肉体」が含まれるようになること

2.1.ロボットの定義

2.1.1.ロボットの定義において「人造」物が前提とされていたこと

『ロボット法』においては、ロボットは「<感知/認識>+<考え/判断>+<行動>の循環」――”sense-think-act”cycle――を有する機械(人造物)と定義される7。つまり、ロボットの定義において、「人造物」が前提とされていた。

2.1.2.人間の肉体がAIによるコントロールの対象となること

ブレインテックにおいては、もちろん、「脳波を使ってドローンや遠隔操作ロボット(OriHime等)を動かす」等、脳神経情報を利用してロボットを操作するシチュエーションが存在するものの、同時に、人間の肉体もまた、AIのコントロールの対象となる。この場合、人間が肉体に対するコントロールを保持し、AIはあくまでも当該コントロール実現のためのツールである場合(2.1.3)と、もはやAIがコントロールを行っていると評価することが可能な場合(2.1.4)の2つの可能性がある。

2.1.3.人間が肉体に対するコントロールを保持し、AIはあくまでも当該コントロール実現のためのツールである場合

前者の人間が肉体に対するコントロールを保持し、AIはあくまでも当該コントロール実現のためのツールである場合について考えてみよう。例えば、脊椎が損傷して脳の指示がうまく四肢に伝わらない人に対して、(損傷した脊椎を迂回するため、)脳信号を一度BMIを通じて外に出し、再度四肢に伝えてこれを動かすことがあり得る。動物実験では、「脳の局所電位を記録し、そこから腕の運動にかかわる電気信号を抽出し」「その信号にあわせて障害部位より下の脊髄に刺激をあたえたところ、刺激にあわせて腕の筋肉の収縮が見られ(腕の筋電図)、手を動かし、レバーを押すことができるようにな」ったという8。これはまさに、脳が手の動きを考えた上で、BMIを通じてAIが処理した情報を手足に対して伝えるものであり、人間のコントロール下でAIが肉体を動かしている。まだ技術的には発展途上ではあるものの、今後は、手足の動かし方等をよりよくする(例えば野球をする際により速いボールを投げる、サッカーをする際にボールをより遠くに蹴る等)ためにAIが最適な信号を手足に伝える等、広く利用される可能性がある。このような利用形態において、コントロールは未だに人間側にある。

2.1.4.本人がその肉体に対するコントロールを失い、AIがコントロールを奪取する場合

しかし、将来的には、ブレインテックによる支援の程度が上がった結果として、又は、ハッキング等により、AIが自律的に人間の肉体をコントロールすることも生じ得る。

例えば、「アイドルグループのメンバーの1人が急病なので、研修生がその代役を務めるが、練習が足りないので、ブレインテックを利用し、AIの支援を受けて本来のメンバーと同じようなダンスを踊り、歌を歌えるようにする」という場合、代役たる研修生の能力や過去の練習量によっては、ほぼ全てAIの操作に基づき手足を動かし声帯を震わせることになるかもしれない。理論的にはその曲を全く知らなくても完璧に歌いきり、踊り切るようにAIがコントロールするだろうが、そこまで至ると(この曲を歌いたい、という程度の指示は人間が出していても)AIにより肉体がコントロールされていると評価できる場合がありそうである。

また、悪いハッカーが、ある人がブレインテックの支援を受けている最中に、そのブレインテックをハッキングして乗っ取り、ハッカーの思うままに被害者の身体を動かすという場合もあり得る。この場合において、ハッカーが「1万人でデモ行進をせよ」といった程度の指令をしただけで、個別にどのプラカードを待ち、どのように整列して行進するかは全てAIの自律的判断によってコントロールされるかもしれない。

2.1.5.コントロールの意義

 ここで、上記2.1.4の場合においても、コントロールはなお人間の手に残るという見方はあるだろう。確かに、アイドルの例でも「この歌を歌って踊る」という程度のコントロールは存在するし、ハッカーが乗っ取った場合においても「人間たるハッカー」がコントロールしていると評価することも可能である。

ただし、筆者が2.1.3と2.1.4を対比することで論じたかったのは、(少なくとも臓器移植のような、肉体の切り離しを行わない限り9、)本来肉体のオーナーであるはずの「その人」が自らの肉体に対する実質的なコントロールを有しているか否かという点における相違が生じていることである10。

いずれにせよこのような時代においては、肉体をいわば「生体ロボット」として人間のコントロールの下、AIの支援を得て動かしていき、場合によっては、AIに肉体を実質的にコントロールされることになるだろう。

2.2. 肉体がロボットに含まれることがAI・ロボット法にもたらす挑戦

2.2.1.サイボーグが既に論じられていたこと

これまでも、サイボーグはAI・ロボット法の検討対象となっていた11。しかし、サイボーグにおいて、「機械」のロボットが肉体に取り付けられることを前提に、本来「モノ」であるロボットについて、一部を肉体に類似するものとして法的に取り扱う(例えば傷害罪の対象とする)ことはできないか等が論じられていた。

2.2.2.サイボーグとは逆の「物ではなく肉体が意図通りに動かない、乗っ取られる」問題であること

これに対し、ブレインテックで新たに問題となるのは、これとは逆の側面である。つまり、肉体がAIによってコントロールされ得ることの問題である。

例えば、それまで脳の指示どおりに手足を動かしていたAIが、誤作動やハッキング等で、それと異なる手足の動かし方をすることがある。もしそれがロボットならば、元々「人間の意図通りに動かないことがある」とは考えられてきた。しかし、それが肉体なら、従来は、意図通りに動くことが原則と考えられており12、精神上の障害等によって統御能力等がない場合がいわば例外的事態であった。

ブレインテック技術の進展により、AI・ロボット法は、このような状況で、肉体が意図通りに動かない、場合によっては乗っ取られるシチュエーションを「十分にあり得る状況」として検討することを迫られることになる。

なお、このようなシチュエーションには二つの類型があるだろう。一つ目は、脳の指示を伝達しまたは増強して伝えるAIの誤作動や乗っ取りであり、脳の指示そのものは正しいがその後において問題が起こる場合である。二つ目は、そもそも脳の指示の部分について、ブレインテックを通じた不当な介入により、おかしなものとなる場合である。この後者については、詐欺・脅迫等の形で、ブレインテック以前にも存在したものの、そのやり方がより巧妙となり、かつ成功率が高まる。

なお、これらを「AIによる乗っ取り」と評価するべきか、「悪意あるハッカーという人間による乗っ取り」と評価するべきかは、上記2.1で述べたとおり、具体的状況次第だろう。

2.2.3.行為がどこまで意思に基づくものか分からなくなる時代のAI・ロボット法-契約不法行為刑法等

行為が意思に基づく、例えば声が意思に基づいて表出される、意思に基づいて契約をサインするということが(上記の精神上の障害により統御能力を有しない例外的な場合等を除き)前提となっていた。しかし、ブレインテックを利用する状況においては本当に行為が意思に基づくかが分からない状態となり、「それは意思によるものか」が問われるようになる。

従来の意思形成過程を図1で簡略化して図示した。

図1.従来の意思形成過程

今後は、AIを利用したエンハンスメント、例えば消費者保護のため、騙されている可能性が高い意思表示にNOを出す技術が進展することで、意思形成過程は図2のようになるだろう13。

図2.AIを利用したエンハンスメント

このように、ブレインテック以前においては、AIの介入は意思形成前(図1)か、行為の後(図2)に行われる。ところが、ブレインテックを利用するようになると、(上記の意思形成前又は行為の後の介入に加え)図3のような機序が新たに追加される。

図3.ブレインテックの場合の機序

このように、ブレインテック技術を利用することでAIの介入機序や、意思が不明確となる機序に相違が生じる。また、意思形成過程にブレインテックが関与する場合においては、直接的に意思そのものに対応する脳内状態を形成してしまう。例えば、詐欺師が、被害者に対して特定の契約の申し込みを行った場合において、その詐欺師はブレインテックを利用して、被害者の脳内に当該契約の承諾に相当する脳状態を生じさせ、それに基づき被害者が承諾の意思を表明してしまうかもしれない。そこで、その行為をした際の行為者の本当の意思が重要な問題となる。だからこそ、そのような新たな状況を範疇に置いた、契約の意思表示やその合致の問題、不法行為の問題14、行為に関する刑事責任15等をAI・ロボット法においても検討していく必要がある16。

2.2.4.保険で全て解決するのか?

上記のような各種問題を解決するためには、その行為をした際の行為者の本当の意思は何だったのか等を証拠(ブレインテックデバイスに保管されたデータやブレインテックプラットフォームのサーバに保管されたデータ等を含む)に基づき探求せざるを得ない。しかし、当該意思がブレインテック技術を通じて様々な形で外部からの影響を受けている以上、何が「本当の意思」であるかを事後的に確認することは容易ではなかろう。

ここで、保険に入った認証済みブレインテックのみを利用することを強制し、トラブルがあった場合の損失が保険金によって補償される時代が到来する可能性はある。このような時代において、果たして各種の問題について法的に詰めて考えなくてよくなるのだろうか。

筆者は、保険が一定の問題の解決につながるとは考えるものの、保険で全てを解決することはできないと考える。即ち、単にトラブルがあったと申告しただけですぐに保険が下りると、例えば投機的行動をする者が出てくるだろう(モラルハザード、モラルリスク)。例えば、「1円が200ドルになったら大儲けする契約をして、ならなかったら『ブレインテックのエラー』だとして保険から損失を補填して貰う」といった具合である。そのような事態を避けるためには、保険制度が導入された後も、引き続き本質的問題であるところの「本当の意思」等を探求しなければならないだろう(例えば上記の例であれば、それがブレインテックのエラーなのか、本人の意思で投機的行為をしただけなのかを解明する必要があるだろう)。

3.AIの処理対象の情報に脳神経情報が含まれること

3.1.EUAI法の禁止類型以上のセンシティブ性?

ブレインテックのリスクに対する一つの対応は危険なブレインテックに対する規制であろう。現在のEU AI法における禁止類型に該当するAIは図4のとおりである17。これらの禁止類型の中から、ブレインテックに適用され得るものを探してみよう18。

図4.禁止類型のAI(抜粋)

EU AI法に基づき筆者作成

3.1.1.バイオメトリクスからのプロファイリング

例えば、バイオメトリクスを利用してプロファイリングによりセンシティブな個人情報を推知すること(5条1項(g))19に対する禁止がブレインテックに対して適用される可能性がある。EU AI法3条(34)号は「バイオメトリクス」広く定義する20。そこで、どのような脳波を出しているか等に基づくプロファイリングは、「バイオメトリクス」による「プロファイリング」自体には該当し得る。しかし、「センシティブな個人情報を推知する」という目的要件があるため、人種、政治的意見、労働組合加入、宗教的又は哲学的信念、性生活又は性的指向等のセンシティブな内容を推知しようとしないのであれば、必ずしもこの禁止類型には該当しない21。

3.1.2.サブリミナル的技法等

また、ブレインテックはサブリミナル的技法等(EU AI法5条1項(a))22とも一定程度近似する。しかし、あるAIがこの禁止類型に該当するためには、単に脳が知覚できない方法を使うだけではなく、それに加えて、ある人または人の集団の行動を実質的に歪め、その人たちが十分な情報に基づく意思決定を行う能力を著しく損なうことによって、本来であれば選択しなかった意思決定を行わせることとなり、かつ、当該本人、他人、又は集団に重大な損害を生じさせ、もしくはそのおそれが合理的に認められることまでが必要である。そこで、その要件のいずれかを欠くブレインテックは、ここで禁止されるサブリミナル的技法等ではない。

3.1.3.職場や教育機関における感情推測

ブレインテックを利用することで脳内の様々な感情を推測することができる。もっとも、 職場や教育機関における感情推測(EU AI法5条1項(f))の禁止については、職場や教育機関(workplace and education institutions)という限定があることから、それ以外の場所での感情推測はこの禁止の対象には該当しない。

3.1.4.禁止類型に該当しなくても同程度のリスクのあるブレインテックの可能性

このように、EUAI法は、ブレインテックに関連する禁止類型を有することから、同法により一部のブレインテックを規制することができる。しかし、必ずしもブレインテックのリスクにピッタリと対応した、いわば「テイラーメイドの規制」とはなっていないため、「ブレインテックは利用しているものの、そのデータからセンシティブ情報の推知まではしていない」「ブレインテックを利用してはいるものの、意思決定に重大な悪影響まで与えない(そのおそれが合理的に認められない)」「ブレインテックを利用する場所が職場でも教育機関でもない」等とすると、少なくとも禁止類型には該当しないことになる。

このように、EU AI法の禁止類型に該当しないとはいえ、禁止類型と同程度にリスクの高いブレインテックが開発され、実装される可能性がある。内心の内容が詳細に推知され、そして将来的には読解されるならば、センシティブ情報を含んでいないとしても大きなリスクが生じることがあり得る。また、ブレインテックを利用して相手の感情や肉体等を操作できるところ、それが意思決定による重大な損害を生じさせる場合(やそのおそれが合理的に認められない)としても、極めて高度な精度でそのような操作をする(できる)こと自体がリスクだという考えもあり得る。更に、感情推測を職場・教育機関「以外」で行うことが一定以上危険な結果を及ぼす場合もあり得る。そうであれば、これに対する規制を導入することが必要かもしれない。

なお、このようなEU AI法との比較の視点というのは、あくまでも一つの視点に過ぎない。他の視点として、脳神経情報が必ずしも要配慮個人情報(個人情報保護法2条3項23)に該当しない24等、現行法がブレインテックに対する十分な対応をすることができていない部分があるだろう。だからこそ、禁止等の規制を行うべきAI(ブレインテック)の類型を検討すべき時期に来ている25。

3.2. スマートドラッグ類似の危険性?

 これとは異なる、別個の潜在的規制のアナロジーがスマートドラッグである。即ち、スマートドラッグはその副作用や健康被害が問題視されており26、厚生労働省は平成30年11月26日に通達27を発出し、いわゆるスマートドラッグの成分を含む医薬品や食品等について原則としてその個人輸入を禁止した。

スマートドラッグには脳の特定部位を刺激する物質等が含まれるところ、ブレインテックも同様に脳の特定部位を刺激するものである。そこで、スマートドラッグ類似の危険性を根拠に規制を行うことも考えられる28。

3.3. 早期に脳神経情報をAIで処理する場合のルール形成を行うことの重要性

いずれにせよ、脳神経情報をAIで処理することに伴うリスクに対応した新たなルールをAI・ロボット法の側において準備しておく必要性が高いことが、上記3.1及び3.2から示唆されている。

今後様々なブレインテックが出現する中において、それらのうちの大多数が良心的なベンダによるQOL等を高めるものであるとは予想されるものの、その中に一部問題のあるブレインテックが含まれる可能性は残念ながら高いと言わざるを得ない29。だからこそ、現段階で、AI・ロボット法の方がそのような警鐘をならして、現行法の解釈による規制の可能性や、法改正の可能性について提言すべきである。さもなくば、例えば何の規制もないままブレインテックを原因とする重大事故が発生したり、事件発生後にいわばパニック的に「ブレインテック全面禁止」等の過剰な規制が導入されたりする可能性がある。

4.認知過程の自由

4.1.認知過程の自由とは

神経科学技術であるブレインテックが大幅な進展を遂げる中、脳への介入等に対して特別な保護を行うべきではないかとして、新たな自由概念である「神経権(Neurorights)」や「認知過程の自由(cognitive liberty)」が論じられている。

「神経権(Neurorights)」という用語は、2017年にMarcello IencaとRoberto Andornoが提案したものであり、脳神経技術の発展に伴う倫理的・法的な課題に対処するため、認知的自由、精神的プライバシー、精神的完全性、心理的連続性という4つの権利を提案した30。

脳神経に関する権利について、「認知過程の自由(cognitive liberty)」を中心に把握する見解もある。この見解は、神経系のインテグリティを核心に据え、インプット=処理過程=アウトプットという一連の流れを想定して精神的自由権の体系全体を捉え直す統合的プラットフォームとしての権利性も視野に入れている31。

このような認知過程の自由の議論の問題意識というのは、以下のようなものと理解される。即ち、思想良心の自由(憲法19条)に関しては、従来、技術的に内心を正確に読み取ることができないことを前提として、世界観等が内心の領域にとどまる限りには絶対的に自由である32と論じられていた。しかし、例えば、上記1において、ブレインテックを利用してチェスをプレイする事例を紹介したところ、チェスをプレイするためには、どの駒をどこに動かそうとしているのか等、その人が内心で考えていることを読み取る必要がある。これはまさに、技術的に内心を読み取ることができる時代が到来する(した)ということである。

当然のことながら、これらの手法は少なくとも日本国憲法制定時には想定されておらず、伝統的な憲法19条論もここまでの状況を想定して議論してきたものではないと思われる。このような新たな時代において、認知過程の自由という枠組みを利用して、神経系のインテグリティをベースに、認知過程に対する不当な干渉に抗っていくという考え方は十分にあり得る考え方であろう33。

4.2. 認知過程を踏まえた検討をAI・ロボット法が行う必要が生じる

 AI・ロボットによる認知過程に対する影響は、いわゆるブレインテックが注目されるようになる以前から問題とされてきた。例えば、ターゲティング広告によって一番弱いタイミングで購入の意思決定を強いられること等が批判されている34。その意味では、AIを利用した認知過程へのアプローチは、既にAI・ロボット法も問題視していたところである。

そして、その巧妙さがブレインテックによってより高まる結果として、認知過程の自由が脚光を浴びる中、これまでの尊厳・プライバシー等を主要な根拠としたAIを利用した認知過程への介入に対する規制・制限論について、認知過程の自由を元に再構成することもあり得るだろう。

例えば、従来のAIによる認知過程に対する影響については、(プライバシーに関するものを含む)情報が取得されるとか、(フェイクニュース等を含む)問題のある情報が表示されるといった、いわばインプットやアウトプットの部分に着目してきた。しかしそのような規制を行うべき趣旨(本質的な問題の所在)が、本人の意図に沿わない処理や、本人の意図が捻じ曲げられて処理される等、脳内において問題のある処理が行われることを防ぎたいということであれば、それを直裁に規制すべきである。そして、仮に、従来はブレインテック技術が発達しておらず、それに対応した対抗する理論も勃興していなかった結果として、アウトプット・インプットのところで規制するしかなかった、というのであれば、認知過程の自由論がこの点を直裁に規制する根拠を与えてくれるかもしれない。

4.3.認知過程の自由論へのフィードバック

もちろん、認知過程の「自由」を認めるとしても、それは絶対的自由ではないはずである。例えば、従来ターゲティング広告に対する規制に関する検討の結果として得られた知見35を認知過程の自由論にフィードバックして、どの範囲で自由が認められ、どの範囲を超える場合において制限が可能となるか等、AI・ロボット法からブレインテック法へのフィードバックもまたあり得るように思われる。

5.人格の境界の曖昧化

5.1.AI・ロボットと脳の「一体化」がもたらす人格の新たな問題

AI法においては、既にAIに人格を認めるべきかが論じられていた36。しかし、ブレインテックによって高度にエンハンスされた人間はもはやAIと見分けがつかず、ブレインテックによって高度に人間に組み込まれたロボット(サイボーグ)もまた、もはやロボットと見分けがつかない。まさにブレインテックがAI・ロボットと脳の「一体化」をもたらすことで、人格に関する新たな問題が生じている。

5.2.生死の定義が揺るがされる時代

例えば、母胎の腹部にブレインテックデバイスを当て、胎児の脳波を詳細かつ正確に読み取り、また、胎児の脳に正確な情報を伝達することができるようになる時代が到来するかもしれない。

そのような時代には胎児も脳波を通じてコミュニケーションし得ることになる。従来は、「私権の享有は、出生に始まる。」(民法3条1項)という観点から胎児の権利能力を原則否定してきた。しかし、胎児が乳幼児レベルのコミュニケーションが取れるようになった場合には、出生前後で区別することの合理性が問われるだろう37。

また、終期についてみると、三徴候による死亡診断又は脳死判定がされた死体でも、脳を取り出し、酸素や栄養を供給すると、脳活動を継続できる可能性がある。実際BrainExと呼ばれる技術により、死後4時間の豚の脳の活動を継続させることができたとの報告がある38。今後ブレインテック技術が更に進展すれば、例えば現行法上は既に死亡して、権利能力がないとされる「死後」の人(の脳)から脳波を読み出し、脳に信号を送ることでコミュニケーションを行うことも可能となるだろう。場合によっては、契約を結ぶことも可能となるだろう。その場合においては、従来の法的な「死」の定義に当てはまっても、生前と同様に権利を得、義務を負うことが可能とも思われるような主体を法的にどう扱うか、とりわけ権利能力を認めるべきかという問題が生じるだろう39。 

5.3.複数人の脳が繋がる時代

将来的には複数人の脳をつなげることで、独立に存在していた個々人の意識が融合して新たに1つの意識ができあがると言われている40。

学際的な共同作業の際、多様な研究者たちが集まって議論する場合があるが、議論だけではその背景知識までつながってこない。そこで、ブレインテック技術を利用して、数学者、物理学者及び生物学者といった複数の専門家が「オールインワン」になっている状況を実現すること等が構想されている41。このような人格統合により、自分では思ってもいないようなことを思いつくことができるかもしれない42。

もちろん、個人個人が引き続き自己の意識を持ち続けた上で、ブレインテックを単なる「コミュニケーションツール」として利用するだけであれば、3人の学者が会議室で、電話で、またはweb会議等で議論するといった、従来の議論の場面と法的にみて有意な差はないだろう。しかし、それを超え、このような複数人が共同して1つの意識を持つ場合においては、人格の問題等が問われるだろう43。

例えばAさんとBさんとCさんという3名の(異分野の)学者がその意識を統合した場合において、その「意思統合体」の意思決定は3名全員に帰属するものなのだろうか。もちろん、結果責任を問う形になってしまうことには問題があろう。反面、三人全てが「『自分自身』はそのように考えていない」と主張することで責任を回避できてしまうことも問題である。そのような状況において、共同不法行為(民法719条)のような責任追及のための従来の枠組みは適切だろうか。

また、そのような複数人が結合した「主体」を、個別のAさん、Bさん及びCさんの組み合わせと捉えて良いのだろうか。その複数人の「自己」決定は単純な「Aさんの自己決定」、「Bさんの自己決定」及び「Cさんの自己決定」という3つの個別の自己決定の集合体とも異なるように思われる。例えば三人が全員それぞれ「甲」と考えても、統合した意識は「乙」と考えるかもしれない。ABが「丙」と考えてCが「丁」と考える場合にも、単純な多数決で「丙」となるのではなく、(少数派の)「丁」や、(そもそも誰も思いつきもしなかった)「戊」になるかもしれない。そこで、このような状況をどのように考えるべきかが問われるだろう。

このように、まさに、「自己」として従来想定されていたもの(人格・主体)を拡張し、複数主体が一つの人格を(アドホックに)形成し得ることを認めるべきかが問題となるだろう。もちろん、従来も、人格的主体たる人間同士の交流により、より良いものが生まれる(思想の自由市場論)等、人格(を有する個人)同士の「やり取り」自体は想定され、議論されてきた。しかし、やり取りに参加する者がそれぞれ人格を持っているという大前提がブレインテックによって揺り動かされ得るのである。

5.4.境界が曖昧になることで人間の本質が問われる

要するに、ブレインテック時代にはさまざまな形で、何が「人間」の本質なのかが更に問われるだろう。ある意味では、ブレインテックというこれまでの常識が揺るがされる技術が登場したことで、これまで一見当たり前と思われていた人間とAI・ロボットの境界、生死の境界、そして人格の境界等が揺るがされ、それによって人間の本質が再度問われる時代が到来したといえよう。AI・ロボット法はそのような時代における、これまでのどのような場合にAIに人格を認めるべきか等という議論をさらに精緻化させることで対応していくべきだろう44。

6.おわりに

ニューラルネットワーク技術について考えてみると、そのような技術を利用したAIは人間の脳を一種のモデルとして構築されている。そうすると、ブレインテック時代において、脳科学の知見に基づきAI・ロボット法に関する新たな検討を行うことは、一見新しそうには見えるものの、一種の「先祖帰り」と評することもできるかもしれない。AI・ロボット法は今後ブレインテック技術の進展によって、ますますチャレンジングなものとはなるものの、同時に更に面白くなっていくと思われる。AI・ロボット法がこのような新たな時代に対応していく上で、本稿が一つの議論の「たたき台」を提供することができれば幸いである45。

参考文献

脚注の引用文献のとおり。

以上

脚注

1 ブレイン・テック ガイドブック作成委員会「ブレイン・テック ガイドブックv1.3」2023年6月23日(https://brains.link/wp/wp-content/uploads/2023/06/braintech_USE_230623.pdf)

2 佐藤由紀子=ITmedia「イーロン・マスク氏のNeuralink、初治験者の動画 公開『私の人生を変えてくれた』」ITmediaNEWS(2024年3月21日) https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2403/21/news102.html

3 Yu Takagi, Shinji Nishimotom, High-resolution image reconstruction with latent diffusion models from human brain activity, bioRxiv 2022.11.18.517004; doi: https://doi.org/10.1101/2022.11.18.517004

4 Marc Aihart, Brain Activity Decoder Can Reveal Stories in People’s Minds, UT News, May 1, 2023(https://news.utexas.edu/2023/05/01/brain-activity-decoder-can-reveal-stories-in-peoples-minds/)

5 駒村圭吾編集代表、IoB-S編『インターネット・オブ・ブレインズの法 神経法学の基礎と事例研究』日本評論社、2025年)。なお、IoB-S『実装実験系中間報告書 脳神経科学技術(ブレインテック)の法的課題―神経法学(Neurolaw)の構築に向けて』(共著、2024年)も参照。

6 筆者は、2021年には既に、脳信号のAIでの処理に関する法的問題を含む、計測自動制御学会編『次世代医療AI - 生体信号を介した人とAIの融合』(コロナ社、共著、2021年)を共著していた。その他の筆者が関与するブレインテックと日本法に関する研究のうちの主なものとして以下がある。

松尾剛行=小松詩織「脳神経情報と個人情報保護・プライバシー」情報ネットワーク・ローレビュー22巻67頁以下(https://www.jstage.jst.go.jp/article/inlaw/22/0/22_220004/_article/-char/ja)

松尾剛行「ブレインテックと行政法 : 脳神経情報を利用して行政活動が行われる時代における行政法総論、行政救済法、行政規制等の検討」一橋研究49巻3号(2024年)31頁以下(https://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/hermes/ir/re/84633/kenkyu0490300310.pdf)

松尾剛行「ブレインテックと手続法-民事訴訟法、刑事訴訟法を中心に-」学習院

法務研究19号(2025年)13頁以下(https://glim-re.repo.nii.ac.jp/records/2003053)

松尾剛行=西垣裕太「ブレインテックと民事実体法(総則、契約・取引、人格権、

不法行為等)」一橋研究50巻1号(2025年)19頁以下(https://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/hermes/ir/re/85911/kenkyu0500100190.pdf)

松尾剛行=柳池直輝「ブレインテックと消費者法」一橋研究50巻2号(2025年)(2025)49頁(https://hit-u.repo.nii.ac.jp/record/2061086/files/kenkyu0500200490.pdf)

松尾剛行「ブレインテック・ニューロテックと刑事法ー脳神経科学情報と刑法総

論・刑法各論」 Law and Practice19号(2026年)掲載予定

なお、筆者は、以下の研究発表を行なっている。

松尾剛行「ニューロロー(脳神経科学と法)に関する日本における議論の到達点とInternet of Brainsへの示唆」ムーンショット型研究開発事業「身体的能力と知覚能力の拡張による身体の制約からの解放」(Internet of Brains)研究会 2022年1月28日

松尾剛行「ブレインテックと手続法-民事訴訟法、刑事訴訟法を中心に-」学習院法務研究所法実務研究会2024年7月19日

小松詩織=松尾剛行「ブレインテックの投げかけるELSIに対する挑戦とそれに対する対応」情報ネットワーク法学会第24回研究大会個別法報告 2024年12月15日

松尾剛行「ブレインテックと労働法」神戸労働法研究会2025年3月22日

松尾剛行「ブレインテックを考慮の範疇とすることが既存のAIに関する法解釈・法律実務に与える影響」情報通信法学研究会 AI分科会(令和7年度第1回)2025年7月2日

小松詩織=松尾剛行「海外のブレインテック・BMI動向と日本への示唆」情報ネットワーク法学会第24回研究大会個別法報告 2025年11月23日

松尾剛行「ブレインテック・ニューロテックと医事法」医事法学会2025年度大会2025年11月30日

7 平野晋『ロボット法』(弘文堂、第2増補版、2024年)59頁

8 Yukio Nishimura, Steve I. Perlmutter, Eberhard E. Fetz, Restoration of upper limb movement via artificial corticospinal and musculospinal connections in a monkey with spinal cord injury, Frontiers in Neural Circuits 2013; Volume 7; doi: https://doi.org/10.3389/fncir.2013.00057; URL: https://www.frontiersin.org/journals/neural-circuits/articles/10.3389/fncir.2013.00057

9 この点については、松尾=西垣前掲注6・38頁において、「Brain as a Service(BaaS)」として、脳をインターネットを通じて「貸し出す」可能性について検討している。

10 なお、上記のアイドルのダンスの例において、その研修生自身はAIを利用することに対して同意はしているのだろう。しかし、具体的に自分の手足や声帯がどのように動くかを完全にAIの判断に委ねているのであれば、筆者としては、本人の実質的コントロールは及んでいないと評価せざるを得ないと考える。

11 小名木明宏 「科学技術時代と刑法のあり方 : サイボーグ刑法の提唱」北大法学論集63巻5号(2013年)524頁(https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/2115/52479/1/HLR63-6_001.pdf)、松尾剛行「ロボットCA固有の問題〜季刊連載第4回 ~」InfoCom T&S World Trend Report2025年3月号28頁以下(https://www.icr.co.jp/newsletter/wtr431-20250227-keiomatsuo.html)等参照。

12 いわば、「殴ったのだから、それは、通常、あなたが殴ろうと考えて殴ったのだろう」ということである。

13 例えば、90%以上の確率で詐欺で、かつ、損失額が10万円を超えるなら、そのような承諾の意思表示をしたいと思っても消費者保護AIによって自動的に相手に表示されないようになる時代が来るだろう。但し、これは必ずしもブレインテック技術を利用する必要はない。例えばオンラインショッピングモールプラットフォームにおいて、意思表示が行為(キーボードを叩く)等により外部に表出された後、相手に表示される前に、消費者保護AIにより「この取引は詐欺の可能性が高い」等と警告する場合には、必ずしもブレインテック技術を利用する必要はないだろう。なお、この点は、松尾=柳池前掲注6・55頁以下、特に56頁を参照のこと。

14 この点については松尾=西垣前掲注6・36頁以下参照。

15 この点については松尾前掲注6(ブレインテック・ニューロテックと刑事法ー脳神経科学情報と刑法総論・刑法各論)参照

16 なお、特定のブレインテックが「動産」(製造物責任法2条1項)の範疇に含まれる場合がある。典型的にはBMI等のデバイスとソフトウェアが結合した組込ソフトウェアの場合である。そのような場合においては、当該ブレインテックの製造業者等(同法2条3項)が製造物責任を負うだろう。なお、ブレインテックソフトウェア等の「動産」ではないものについては、現行製造物責任法上の責任を問うことはできないだろう。この点につき、松尾剛行=伊藤駿介「EUのPL指令改正と日本のAI製品について」情報ネットワーク法学会第24回研究大会個別法報告 2025年11月23日も参照。

17 松尾剛行『生成AIの法律実務』(弘文堂、2025年)397頁以下、とりわけ400頁以下参照。

18 なお、ハイリスク等他の類型についても同様の検討が可能であるが、ここでは詳論しない。

19 the placing on the market, the putting into service for this specific purpose, or the use of biometric categorisation systems that categorise individually natural persons based on their biometric data to deduce or infer their race, political opinions, trade union membership, religious or philosophical beliefs, sex life or sexual orientation; this prohibition does not cover any labelling or filtering of lawfully acquired biometric datasets, such as images, based on biometric data or categorizing of biometric data in the area of law enforcement。(仮訳:バイオメトリクスに基づいて自然人を個別に分類し、その人の人種、政治的意見、労働組合加入、宗教的又は哲学的信念、性生活又は性的指向を推測もしくは導き出すことを目的として、バイオメトリクス分類システムを市場に出すこと、当該特定の目的のために使用可能とすること、又は使用すること。ただし、適法に取得されたバイオメトリクスデータセット(例えば画像)について、バイオメトリクスに基づいてラベリング又はフィルタリングを行うことや、法執行分野におけるバイオメトリクスの分類については、この禁止の対象とはならない)。

20 personal data resulting from specific technical processing relating to the physical, physiological or behavioural characteristics of a natural person, such as facial images or dactyloscopic data(仮訳:自然人の身体的、⽣理的、または⾏動的特性に関連する特定の技術的処理に起因する個人データ、例えば、顔画像や指紋データなど)

21 Commission Guidelines on prohibited artificial intelligence practices established by Regulation (EU) 2024/1689 (AI Act) (https://ec.europa.eu/newsroom/dae/redirection/document/112367)も参照のこと。

22 the placing on the market, the putting into service or the use of an AI system that deploys subliminal techniques beyond a person’s consciousness or purposefully manipulative or deceptive techniques, with the objective, or the effect of materially distorting the behaviour of a person or a group of persons by appreciably impairing their ability to make an informed decision, thereby causing them to take a decision that they would not have otherwise taken in a manner that causes or is reasonably likely to cause that person, another person or group of persons significant harm(仮訳:人が自覚できないサブリミナル的技法、または意図的に操作的・欺瞞的な技術を用い、その結果として、ある人または人の集団の行動を実質的に歪め、その人たちが十分な情報に基づく意思決定を行う能力を著しく損なうことによって、本来であれば選択しなかった意思決定を行わせることとなり、かつ当該本人、他人、又は集団に重大な損害を生じさせ、もしくはそのおそれが合理的に認められる場合において、AIシステムを市場に出すこと、使用可能とすること、又は使用すること。)

23 「この法律において「要配慮個人情報」とは、本人の人種、信条、社会的身分、病歴、犯罪の経歴、犯罪により害を被った事実その他本人に対する不当な差別、偏見その他の不利益が生じないようにその取扱いに特に配慮を要するものとして政令で定める記述等が含まれる個人情報をいう。」

24 この点については、松尾=小松前掲注6・82-83頁を参照のこと。

25 なお、ヨーロッパではドラギ報告書と俗称されるThe future of European competitiveness(https://commission.europa.eu/topics/eu-competitiveness/draghi-report_en#paragraph_47059)やCompetitive Compass(https://commission.europa.eu/topics/eu-competitiveness/competitiveness-compass_en)等のAIに対する規制を緩めようという動きも存在することから、その意味では現在の「この程度のリスクがあればEU AI法においてこの程度の規制がされる以上、それと同程度以上のリスクをもたらすブレインテックに対して同程度の規制をすべき」という議論は今後変化を迫られる可能性があることにも留意すべきである。なお、本稿校正中の2025年11月19日に、EUはDigital Omnibus Regulation Proposalと呼ばれるハイリスク規制の施行延期等を含む規制簡素化を公表した。 (https://digital-strategy.ec.europa.eu/en/library/digital-omnibus-regulation-proposal)

26 秋本義雄他「脳機能調整薬情報の流布状況および健康被害調査」厚生労働科学研究費補助金 (医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究事業) 平成 30-令和 2 年度 総合分担研究報告書(https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202025001B-buntan4.pdf)

27 薬生監麻発1126第3号「脳機能の向上等を標ぼうする医薬品等を個人輸入する場合の取扱いについて」

28 駒村前掲注5・252頁以下。

29 既に一部の問題のあるブレインテックが存在することにつき、ブレイン・テックガイドブック作成委員会「ブレイン・テック エビデンスブック2024/11/01 ver2.1」(https://brains.link/wp/wp-content/uploads/2024/11/evidencebook_ver2.1.pdf)も参照。

30 Marcello Ienca & Roberto Andorno, Towards new human rights in the age of neuroscience and neurotechnology, 13 Life Sciences, Society and Policy, 5 (2017).

31 小久保智淳「『認知過程の自由』研究序説――神経科学と憲法学――」法学政治学論究126号(2020 年秋季号)397-400頁。

32 芦部信喜(高橋和之補訂)『憲法』(岩波書店、第8版、2023年)161頁

33 もちろん、間接的な干渉はこれまでも可能であったものであり、アウトプットのレベルでの間接干渉の制限(例えば、踏み絵により、間接的に内心を吐き出させることや、プロファイリングへの規制)やインプットレベルでの間接干渉の制限(例えばサブリミナル手法の利用制限)等は存在した。もっとも、ダイレクトに認知過程への介入そのものを規制するという発想が薄かった。まさに正面からこの点を問題としようとしているところに、認知過程の自由論の新しさがあると考えられる。

34 山本龍彦『AIと憲法』(日本経済新聞出版社、2018年)48頁以下、とりわけ49頁、137頁等参照。

35 一般社団法人 日本インタラクティブ広告協会(JIAA)「行動ターゲティング広告ガイドライン」2016年改定(https://www.jiaa.org/wp-content/uploads/2019/11/JIAA_BTAguideline.pdf)等参照。

36 平野前掲注7・283頁以下参照。

37 松尾=西垣前掲注6・21-22頁参照。

38 駒村前掲注5・281頁以下

39 松尾=西垣前掲注6・20-21頁参照。

40 同上・107頁以下

41 同上・110頁

42 数学者と物理学者と生物学者といった複数の専門家が集まることで素晴らしい発明が可能になるかもしれない。

43 通常はアドホックに必要な時に必要な時間のみ、ということだろうが、将来の「結婚」は半永久的に人格を統合するものを意味するようになるかもしれない。

44 なお、近時、アバター時代の人格について、様々な研究がされている。小塚荘一郎「仮想空間における法人格」小塚荘一郎=曽野裕夫編『デジタル資産とアバターの民事法』(商事法務、2025年)217頁以下所収、白石友行「アバターと人の法」同書231頁以下所収、栗田昌裕「CAの法主体性と人格権侵害」君嶋祐子他編『サイバネティック・アバター(CA)と法』(弘文堂、2025年)18頁以下所収、柳明昌「権利能力なき社団・組合としてのCAの利用」同書58頁以下所収、斉藤邦史「CAと法人格」同書88頁以下所収等参照。本稿はこれらの議論を反映することができていないが、今後はこのようなアバター法とAI法の間の相互作用(松尾前掲注17・373頁参照)が期待される。

45 本稿は松尾剛行「ブレインテックを考慮の範疇とすることが既存のAIに関する法解釈・法律実務に与える影響」情報通信法学研究会 AI分科会(令和7年度第1回)2025年7月2日という発表が元となっている。主査の中央大学国際情報学部平野晋学部長、コメンテーターの九州大学法学研究院・法学部成原慧准教授、質疑に参加して下さった研究会参加者の皆様、そして主催者の皆様に心より感謝の意を表したい。しかし、本稿の誤りは全て筆者一人の責任である。

 
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