本報告では,世界的なエネルギー需給を考慮した地球環境統合評価モデルGRAPEのエネルギーモジュールを用い,CO2削減目標達成に大きく貢献できる長期的な技術オプションとしてCO2フリーの水素の製造,輸送,利用技術を追加し,世界と日本における水素需要量を評価した。ここで,CO2フリー水素は,再生可能エネルギーやCCSを備えた化石燃料改質や原子力により製造する水素を指す。CO2フリー水素は,世界各地域において製造,需要地域に国際輸送され,発電部門,運輸部門,定置部門(発電と運輸を除く,主に産業・民生の熱需要)で用いられると想定した。CO2排出量の制約として1990年の排出量に対し,2050年で先進地域は80%削減,世界全体で50%のCO2削減制約を課した。世界全体では,水素は,定置向け需要のコジェネレーション,直接燃焼と運輸向け需要に用いられ,2050年では,約800 Mtoeの水素需要があることがわかった。日本では,定置,運輸需要に加えて,発電部門における水素大規模発電でも水素が導入され,2050年には57 Mtoeの水素が需要されることがわかった。感度分析の結果,日本における水素需要量は,原子力やCCS技術等の発電部門における他のゼロエミッション技術の導入に大きな影響を受けることが分かった。