抄録
井下清の史蹟名勝天然記念物の保存事業に関する考えを, 昭和2年と7年の論文を中心に考察し, 井下自身に影響を与えた長岡安平ら一世代前の保存論議から井下の批判点と発言の意味を明らかにする。保存事業が保存が済めば, 注意札を立てて終わりという保存物件の維持運営に関する意識の低さを根底から批判している。保存物件は学者にとっては研究対象, 実業家にとっては経済的な対象にすぎず, そこには保存維持の論拠がみえてこない。井下は明治以来の公園事業が一定の保存事業を遂行したことを明らかにし, 自らも実践する。