腸内細菌学雑誌
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総 説<特集:腸内菌叢はコントロールできるか?>
遺伝子レベルのヒト腸内常在菌叢最優勢種研究の重要性
栗原 新
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2018 年 32 巻 4 号 p. 175-186

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抄録

近年の精力的な解析により,多くの腸内細菌叢のデータが蓄積され,腸内環境制御への期待が高まっている.一方で,食餌を変化させた場合の腸内細菌叢とトランスクリプトームの変化の比較から,腸内環境制御に重要なのは腸内細菌の遺伝子機能の制御であることが示唆されている.しかしながら,ヒト腸内細菌叢のメタゲノムデータから得られる塩基配列の情報のうち,機能が予測可能なもの,明らかとなっているものはごく一部であり,遺伝子機能の制御は現状困難である.この状況を打破するためには腸内細菌の遺伝子機能の実験的な同定が重要であると考えられる.腸内細菌の菌体そのものは,大腸の免疫機構に阻まれてごく一部しかヒト組織に接触できない.これとは対照的に腸内細菌の代謝産物は,腸管上皮を通過して体内に取り込まれ,ヒト健康に対してより直接的な影響を与える.腸内細菌の代謝産物を制御するためにはその合成・輸送に関わる遺伝子機能の制御が必須となる.我々は,腸内細菌の遺伝子機能の解明を通じた腸内環境制御を最終目標として,ヒト腸内常在菌叢最優勢種のハイスループット培養系を構築した.この系を用いて腸内細菌のポリアミン合成・輸送をウェットに解析し,得られた解析結果をin silico解析結果と比較したところ,全く新規な配列を持つポリアミン合成酵素や輸送タンパクの存在が示唆された.次に,Bacteroides属細菌のポリアミン合成系についての遺伝子破壊株・遺伝子相補株を用いて解析を行った.腸内細菌は複雑な細菌叢を形成しているため,細菌叢を構成する細菌間で代謝産物の授受を行っていると考えられている.我々は,遺伝子操作した大腸菌およびEnterococcus faecalisを共培養し,複数菌種にまたがるポリアミン合成系の存在を遺伝子レベルで証明した.さらに,国内外の遺伝操作した腸内細菌を用いた研究の動向と,腸内細菌の遺伝子レベルでの研究による波及効果について概説した.これまでの多くの腸内細菌研究は宿主側を中心に行われており,腸内細菌側の解析については菌叢解析を中心としており,腸内環境の制御については今後の課題である.腸内細菌の遺伝子レベルでの研究はその制御に必須であることから,今後,その重要性が高まると考えられる.

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© 2018 (公財)日本ビフィズス菌センター
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