腸内細菌学雑誌
Online ISSN : 1349-8363
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ISSN-L : 1343-0882
32 巻 , 4 号
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総 説 <平成29年度日本ビフィズス菌センター研究奨励賞受賞>
  • 倉島 洋介
    2018 年 32 巻 4 号 p. 159-166
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/31
    ジャーナル フリー

    マスト細胞(肥満細胞)は,消化管粘膜や皮膚といった生体の最前線のバリア機構を担う部位に存在している.粘膜面に存在するマスト細胞は,コンドロイチン硫酸やプロテアーゼによって古くから寄生虫や細菌の排除にかかわることが知られており,病原体「排除」に重要な機能を有する.その一方で,食物アレルギーをはじめとしたアレルギー反応の中核として働くことも知られており,アレルギー・炎症疾患においては我々に不利益をもたらす炎症性メディエーターを分泌し「悪玉」として働く.マスト細胞の活性化には今から50年ほど前に発見されたIgE抗体を介した反応が主たる機序として考えられているが,最近IgEを介さないマスト細胞の活性化がアレルギーや炎症疾患の増悪化にかかわることも報告されている.我々は消化器疾患の1つであるクローン病において活性化したマスト細胞が粘膜面に散見されるという過去の知見から,マスト細胞の活性化因子の同定を目指した.その結果,細胞外に放出されたアデノシン3リン酸(ATP)が深く関わることが見出された.細胞外ATPはダメージを受けた細胞からだけではなく一部の腸内細菌からも放出されることが報告されており,共生関係(commensal mutualism)の形成に重要な因子としても近年注目されている.興味深いことに,マスト細胞の細胞外ATPへの反応性は粘膜に比べ皮膚では低く保たれていることが明らかとなっている.これはマスト細胞の「組織特異性」を示す新たな知見であり,この組織特異性は間葉系細胞の働きによって賦与されていることが明らかとなった.この組織特異性が破たんした状態では,重度の慢性炎症が導かれるが常在菌がない状態では炎症が起こらないことが示されている.すなわち,常在菌との共生ニッチである生体バリアの恒常性維持には,間葉系細胞によるマスト細胞の機能調整が重要であることが明らかとなっている.今後,「共生と排除」制御破綻ともいえる様々な慢性炎症性疾患の発症部位において,マスト細胞をはじめとする免疫細胞の「組織特異性の攪乱」といった視点から間葉系細胞との相互作用に着目し解析することが新たな治療法の確立につながると期待される.

総 説<特集:腸内菌叢はコントロールできるか?>
  • 雑賀 あずさ, 國澤 純
    2018 年 32 巻 4 号 p. 167-174
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/31
    ジャーナル フリー

    腸管には数100兆個もの細菌が生息している.これら腸内細菌の影響を最も受けると考えられる腸管には,生体内で最大の免疫システムが備えられており,腸内細菌との相互作用を含めた複雑系を形成しながら恒常性を維持している.近年の分析技術の進歩により,消化器疾患や循環器疾患など様々な疾患に腸内細菌叢の変動が関わっていることが明らかになってきた.加えて,食事や栄養を介した免疫制御についてもメカニズムが解明されつつある.さらには食事成分の一部は腸内細菌による代謝を受けることから,腸内細菌による食事成分の代謝物が宿主免疫系に与える影響も同時に考える必要がある.すなわち,今後は「食事-腸内細菌-宿主」を結ぶ複雑なネットワークを明らかにすることが重要であると考えられる.そこで本総説では,食事成分を由来とする代謝産物のなかでも特に脂質に注目し,腸内細菌を介した脂肪酸代謝と免疫制御について紹介する.

  • 栗原 新
    2018 年 32 巻 4 号 p. 175-186
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/31
    ジャーナル フリー

    近年の精力的な解析により,多くの腸内細菌叢のデータが蓄積され,腸内環境制御への期待が高まっている.一方で,食餌を変化させた場合の腸内細菌叢とトランスクリプトームの変化の比較から,腸内環境制御に重要なのは腸内細菌の遺伝子機能の制御であることが示唆されている.しかしながら,ヒト腸内細菌叢のメタゲノムデータから得られる塩基配列の情報のうち,機能が予測可能なもの,明らかとなっているものはごく一部であり,遺伝子機能の制御は現状困難である.この状況を打破するためには腸内細菌の遺伝子機能の実験的な同定が重要であると考えられる.腸内細菌の菌体そのものは,大腸の免疫機構に阻まれてごく一部しかヒト組織に接触できない.これとは対照的に腸内細菌の代謝産物は,腸管上皮を通過して体内に取り込まれ,ヒト健康に対してより直接的な影響を与える.腸内細菌の代謝産物を制御するためにはその合成・輸送に関わる遺伝子機能の制御が必須となる.我々は,腸内細菌の遺伝子機能の解明を通じた腸内環境制御を最終目標として,ヒト腸内常在菌叢最優勢種のハイスループット培養系を構築した.この系を用いて腸内細菌のポリアミン合成・輸送をウェットに解析し,得られた解析結果をin silico解析結果と比較したところ,全く新規な配列を持つポリアミン合成酵素や輸送タンパクの存在が示唆された.次に,Bacteroides属細菌のポリアミン合成系についての遺伝子破壊株・遺伝子相補株を用いて解析を行った.腸内細菌は複雑な細菌叢を形成しているため,細菌叢を構成する細菌間で代謝産物の授受を行っていると考えられている.我々は,遺伝子操作した大腸菌およびEnterococcus faecalisを共培養し,複数菌種にまたがるポリアミン合成系の存在を遺伝子レベルで証明した.さらに,国内外の遺伝操作した腸内細菌を用いた研究の動向と,腸内細菌の遺伝子レベルでの研究による波及効果について概説した.これまでの多くの腸内細菌研究は宿主側を中心に行われており,腸内細菌側の解析については菌叢解析を中心としており,腸内環境の制御については今後の課題である.腸内細菌の遺伝子レベルでの研究はその制御に必須であることから,今後,その重要性が高まると考えられる.

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