腸内細菌学雑誌
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総 説
腸内細菌とその代謝物による宿主代謝機能の制御機構
竹内 直志
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2025 年 39 巻 1 号 p. 21-26

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抄録

腸内細菌とヒトとの相互作用は近年大きな注目を浴びており,この関係性はヒトの病態生理において決定的な要素の一つと認識されている.しかしながら,従来のヒト腸内細菌研究においては「どの」細菌種が宿主の病態生理に関連するかが主要な焦点であり,細菌が「どのように」影響を及ぼすかについての知見は限定的であった.腸内細菌が産生する代謝物は,腸内細菌からのシグナルを伝達するメッセンジャーとしての役割を果たすと考えられる.そこで,本稿ではヒト腸内細菌の機能的側面を明らかにする一つの試みとして,我々が最近実施した腸内細菌と宿主の代謝生理機能との関連性に焦点を当てた腸内細菌オミクス研究について紹介する.本研究では従来のメタゲノム解析に加えて糞便中の低分子化合物を網羅的に探索し,宿主細菌連関を検討した.その結果,インスリン抵抗性被験者において糞便中の炭水化物,特に宿主が利用可能な単糖が増加している点を明らかにした.同化合物は腸内細菌による直接的な代謝物ではないものの,腸内細菌の変化が多糖分解や単糖利用など機能的な変化を介して腸管内の単糖増加に寄与している可能性を示した.本研究は腸内細菌とその代謝物がヒト代謝機能に影響を及ぼす機能的な知見を提供しており,腸内細菌の代謝機能およびその産生物質を標的とした新規治療介入の可能性に道を開くものである.

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© 2025 (公財)腸内細菌学会
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