腸内細菌学雑誌
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野鳥の糞からのEnterococcus faecalisの菌株の分離およびその薬剤耐性菌の検出状況
深山 海維上塚 浩司
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2025 年 39 巻 3 号 p. 181-191

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抄録

本研究は,日本の自然環境中における抗菌薬耐性の拡散度合いを把握し,耐性菌リザーバーとしての野鳥の実際を調査することを目的として,まず国内の野鳥11種の113個の糞サンプルからEnterococcus faecalisを分離し,鳥種ごとの分離頻度を調べ,次に,得られた菌株を用いてKirby-Bauer法による薬剤感受性試験を実施した.その結果,E. faecalisはオオヨシキリ(Acrocephalus orientalis),ウグイス(Horornis diphone),モズ(Lanius bucephalus),ノゴマ(Calliope calliope),アオジ(Emberiza spodocephala),オオジュリン(Emberiza schoeniclus)の6種の計36個の糞サンプルから分離されたが,カワラヒワ(Chloris sinica),スズメ(Passer montanus),シジュウカラ(Parus minor),カシラダカ(Emberiza rustica),ニュウナイスズメ(Passer rutilans)の5種からは分離されなかった.菌株が分離された鳥種から3菌株ずつで実施した薬剤耐性試験では,全体で74株を試験し,エリスロマイシン(EM),テイコプラニン(TEIC),バンコマイシン(VCM)に中度耐性を示す株が検出され,耐性菌の分離率はそれぞれ,24.3%,12.2%,8.1%であった.オオジュリンとノゴマから分離された菌株には,耐性を示す株はなかった.その一方で,その他の鳥種からは複数の薬剤への耐性を示す菌株が分離された.こうした結果は,日本の下水や家畜の排せつ物に対する関連法での厳格な管理や,抗菌薬使用の見直しの施策を反映していると考えられる.今後は,調査の対象とする野鳥の種類やサンプリングを実施する地理的範囲を拡充し,継続的な調査を続けていく必要がある.

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© 2025 (公財)腸内細菌学会
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