腸内細菌学雑誌
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最新号
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総説
  • 畑山 耕太, 増山 博昭
    2025 年39 巻3 号 p. 153-161
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/01
    ジャーナル フリー

    日本人の腸内細菌叢は他国とは異なるユニークな構成を有するため,他国の腸内細菌叢に関する研究結果がそのまま日本人に当てはまるとは限らない.そのため,日本人を対象とした研究が必要である.また,生活スタイルや身体の特徴,状態などは腸内細菌叢に影響を及ぼす.そのため,腸内細菌叢の研究ではそれらの影響を考慮する必要がある.ここでは,それらのなかでも重要な性別の影響,つまり腸内細菌叢の性差について紹介する.日本人の腸内細菌叢の性差は年代によって特徴が異なり,性差の違いは30代が最も大きく,年齢が上がるにつれて小さくなる傾向がある.腸内細菌叢に性差が存在するということは,腸内細菌叢と疾病の関連性についての研究や腸内細菌叢をターゲットとした疾病の予防・治療法の研究などを行う際には,性別を考慮することが極めて重要であることを示唆する.

  • 上田 洋行, 友藤 嘉彦, 岡田 随象
    2025 年39 巻3 号 p. 163-172
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/01
    ジャーナル フリー

    腸内微生物叢は消化,代謝,免疫に重要な役割を果たし,全身疾患や代謝疾患との関連が注目されている.近年ではメタゲノムショットガンシーケンスによる腸内微生物叢研究が進んでいるが,当研究室では日本人集団の腸内メタゲノムをもとに腸内細菌叢およびウイルス叢データベースを構築した.その結果,納豆菌由来のBacillus subtilisや海苔の代謝に関わる酵素であるβ-ポルフィラナーゼなど,日本人ならではの食生活に関連した微生物や遺伝子が明らかになった.腸内ウイルス叢においては新規のウイルス種が同定され,さらにcrAss-like phagesと疾患との関係が示された.また,関節リウマチや全身性エリテマトーデスについてのメタゲノムワイド関連解析においては種レベルでの腸内微生物叢と疾患との関連やヒトゲノムとの相互作用が示された.

  • 内藤 裕二, 安田 剛士, 髙木 智久, 井上 亮, 的場 聖明
    2025 年39 巻3 号 p. 173-179
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/01
    ジャーナル フリー

    京丹後長寿コホートに参加した地域在住高齢者を対象に,フレイルの現状ならびにリスク因子を解析した.非フレイル群に比較してフレイル群で摂取が有意に少ない栄養素として,植物性たんぱく質,K,Mgなどのミネラル,ビタミンB群,食物繊維が,食品群としては大豆・大豆製品が抽出された.食・栄養素と腸内細菌叢との相関に関するクラスター解析から,Eubacterium_eligensChristensenellaceae_R-7UCG-002などが抽出された.食・栄養素と腸内細菌叢との関わりの詳細を解析することが,フレイル予防につながる可能性があることを,最新情報も含めて紹介する.

報文
  • 深山 海維, 上塚 浩司
    2025 年39 巻3 号 p. 181-191
    発行日: 2025年
    公開日: 2025/08/01
    ジャーナル フリー

    本研究は,日本の自然環境中における抗菌薬耐性の拡散度合いを把握し,耐性菌リザーバーとしての野鳥の実際を調査することを目的として,まず国内の野鳥11種の113個の糞サンプルからEnterococcus faecalisを分離し,鳥種ごとの分離頻度を調べ,次に,得られた菌株を用いてKirby-Bauer法による薬剤感受性試験を実施した.その結果,E. faecalisはオオヨシキリ(Acrocephalus orientalis),ウグイス(Horornis diphone),モズ(Lanius bucephalus),ノゴマ(Calliope calliope),アオジ(Emberiza spodocephala),オオジュリン(Emberiza schoeniclus)の6種の計36個の糞サンプルから分離されたが,カワラヒワ(Chloris sinica),スズメ(Passer montanus),シジュウカラ(Parus minor),カシラダカ(Emberiza rustica),ニュウナイスズメ(Passer rutilans)の5種からは分離されなかった.菌株が分離された鳥種から3菌株ずつで実施した薬剤耐性試験では,全体で74株を試験し,エリスロマイシン(EM),テイコプラニン(TEIC),バンコマイシン(VCM)に中度耐性を示す株が検出され,耐性菌の分離率はそれぞれ,24.3%,12.2%,8.1%であった.オオジュリンとノゴマから分離された菌株には,耐性を示す株はなかった.その一方で,その他の鳥種からは複数の薬剤への耐性を示す菌株が分離された.こうした結果は,日本の下水や家畜の排せつ物に対する関連法での厳格な管理や,抗菌薬使用の見直しの施策を反映していると考えられる.今後は,調査の対象とする野鳥の種類やサンプリングを実施する地理的範囲を拡充し,継続的な調査を続けていく必要がある.

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