抄録
経口的に摂取される病原性の細菌やウイルス, アレルゲンなどの異物に対し, 生体は防御機能 (バリア) を有している.唾液や胃酸, 消化酵素, 胆汁酸などの消化管における防御が最初のバリアであり, 腸内フローラによるバリア, さらに腸管免疫を含む免疫系のバリアが存在する.プロバイオティクスの中で, こうした生体防御機能に対し, より積極的に関与する乳酸菌が近年注目を集めている.
Lactobacillus johnsonii La1株は, ネスレ中央研究所のカルチャーコレクションの中で, ヒト腸管上皮細胞に対する最も優れた接着性を有する乳酸菌としてスクリーニングされ, これを用いてLClヨーグルトが開発された.Lal株は, ネズミチフス菌や病原性大腸菌などの病原性細菌のCaco-2細胞への接着や侵入を阻害した.腸管への接着性を有する菌株による病原菌の接着阻害は, 腸管での感染防御を考える上で重要と考えられる.またLa1株を含有するヨーグルトの摂取は, 血中貪食細胞を活性化し, 血中IgA抗体を上昇させることがヒト試験により示され, 宿主の免疫を賦活することが確認された.
Bifidobaoterium laotis Bb12株は, 世界的に育児用粉乳 (ネスレBLシリーズ) に使用されている菌株で, ヒト由来の腸管粘膜分泌物に対する接着性を有する.Bb12株の摂取においても, ヒト貪食細胞が活性化し, 腸管でのIgA抗体産生が上昇することが示されている.また, Bb12株の摂取によるロタウイルスの抑制, 感染性下痢の発症抑制, 乳児のアトピー性皮膚炎の症状改善に対する有効性が報告されている.
乳酸菌のような共生型の細菌は, 炎症を誘導せずに宿主の防御機能を強める方向にサイトカインシグナルを誘導することがin vitroを中心とした最近の研究によりわかってきた.腸管上皮における細菌との接触は, 宿主側の免疫応答を引き出す重要なステップであり, 腸管上皮へのプロバイオティクスの接着性は, こうした応答を効果的に引き出す上で重要な因子と考えられる.La1株及びBb12株などのプロバイオティクスの利用は, 免疫系の賦活など宿主の生体防御機能の強化に役立っものと考えられる.