抄録
本研究は,製造業における会員型サービスの枠組みをゲーム理論を用いてモデル化し,実験経済学の手法に基づく被験者実験とマルチエージェントシミュレーションを組み合わせたアプローチで,そのメカニズムについて分析を行っている.近年,製造業は過酷な価格競争,製品ライフサイクル短縮化,コモディティ化などの問題に直面し,製造業のサービス化の重要性が増している.その中でも,会員型の枠組みで製品サービスシステムとして提供するという考え方が着目されており,例えば,カーシェアリングなどがその典型例である.このような背景をもとに,本研究は製造業のサービス化戦略への示唆を与えることを念頭に製造業会員型サービスのモデル化を行っている.分析の比較対象として,従来の製品販売,製造業の非会員型サービスのモデルを加えて構築した.まず,均衡分析によってその理論的構造の違いを明らかにし,次いで被験者実験により,各モデルでの実験結果から行動ルールを抽出し,それを実装したエージェントからなるマルチエージェントシミュレーションを実施した.結果として,必ずしも合理的では無いエージェントからなる場合でも,理論解が示す基本的な性質が示された.具体的には,製品の生産コストが高い場合は,特に生産者が会員型サービスを行うことで収益を大きくできることを明らかにした.