2023 年 35 巻 1 号 p. 35-52
本研究では、野生生物観光を対象の保全に資する持続可能なものと整理し、シカと人との近接関係が野生生物観光として成立する背景の整理を試みるため、近世以降の宮島のシカと住民や来訪者との関係性を明らかにしつつ、野生生物観光が成立している奈良のシカの状況と比較を行った。近世、明治期以降戦前まで、戦後のいずれの時期においても宮島のシカと人との関係が野生生物観光として成立していなかったことが確認された。その背景として、野生生物観光の成立には、シカと人が同じ空間を共有し近接関係を維持すべきとする地域の意志が必要で、奈良では宗教的な背景があったが、宮島には同様の背景はなかったためと結論づけた。