日本救急医学会雑誌
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症例報告
脱法ドラッグ(pyrovalerone)中毒により多彩な症状を示した1例
津田 雅庸齊藤 福樹長谷川 峻原 克子小宮山 豊中谷 壽男
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2013 年 24 巻 11 号 p. 959-965

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抄録
近年,脱法・合法ドラッグと呼ばれる薬物が若者の間で急速に広まり社会問題となっている。今回,脱法ドラッグ中毒で搬送され多彩な症状を呈したものの,薬物の同定,解析を速やかに行い得たことが治療に寄与した症例を経験したので報告する。症例は30歳の男性。友人らと飲酒し,脱法ドラッグを2-3ml経口摂取した。翌日昼に意識状態が悪化し,当院に搬送された。来院時意識レベル JCS 3であったが,直後に強直間代性痙攣を来したため気管挿管を行った。入院時,creatine kinase(CK),aspartate aminotransferase(AST),lactate dehydrogenase(LDH)の軽度上昇,低Na,低Cl血症を認め,血液ガスデータでは高度acidemia,lactateの上昇,血漿浸透圧の低下を認めた。その後CK,AST,LDHはさらに上昇し,第4病日にそれぞれ70,842 U/l,939 U/l,1,051 U/lと横紋筋融解症を示唆する値となったが,輸液負荷により改善した。摂取したものと同じ薬物の提供を得て,薬物の成分と体内動態をgas chromatography-mass spectrometry(GC/MS)法で解析した。その結果ドラッグの主成分はpyrovaleroneであることが判明した。患者の末梢血,尿中の濃度は搬入時 血中1.73μg/mlであったが第9病日には0.001μg/mlに低下, 尿中濃度も41.9μg/mlから0.108μg/mlに低下した。今回,脱法ドラッグ中毒の症例を経験したが,早期に原因物質を同定できたため中毒症状を類推でき,また血中濃度の低下を知ることで病状の改善を薬物動態的にも把握可能であった。脱法ドラッグ中毒患者でも時に重篤な経過となる可能性があり,慎重な治療が必要である。
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© 2013 日本救急医学会
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