日本救急医学会雑誌
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賠償医学から賠償科学へ
救急医学との接点
平岩 幸一
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1999 年 10 巻 2 号 p. 67-80

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抄録
救急医学が扱う患者の多くは常に保険が関係していると言っても過言ではない。傷害保険では急激・偶然・外来性の事故による傷害が原因で後遺障害・死亡などの結果が生じることが必要であり,その因果関係は蓋然性が認められればそれで足りる。現在の法的因果関係としては,伝統的相当因果関係説を基礎に,被害者救済を旨とした割合的因果関係による判断が定着しつつある。そのため交通事故後の後遺障害者の自殺でも,事故と自殺との因果関係が割合的に一部認められている。また,脳動脈瘤の破裂による死亡は労務の過重負荷によるとした労災認定の判例もある。一方,医学的因果関係の判断にも課題がある。外傷患者の合併症,特に合併症として頻度の高い肺動脈血栓塞栓症や,頻度は低いものの脳血管障害による外傷性脳血管閉塞,脳動脈瘤あるいは硬膜動静脈瘻は,高齢者では病的心筋梗塞や脳梗塞と誤診されやすい。外傷が原因とされる後遺障害・死亡が,病的原因によると誤診されれば,本来保険で保護されるべき被害者・遺族は二重苦を負うことになる。本稿では法的・医学的因果関係の問題を賠償科学の観点から考察した。救急医学も因果関係の問題について関心を抱くべきである。
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