日本救急医学会雑誌
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ショックを伴う急性肺塞栓症の臨床像と短期予後
柳瀬 治本宮 武司徳安 良紀桜田 春水野村 周三手島 保森本 理
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1996 年 7 巻 8 号 p. 387-394

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抄録

ショックを伴う急性肺塞栓症の臨床像と短期予後を検討した。対象は1980年12月から1995年4月の間に当院に入院し,臨床経過ならびに肺動脈造影,肺血流シンチグラム,剖検のいずれかにて急性肺塞栓症と診断された連続96例(男性51例,女性45例,平均年齢59±12歳)である。ショックを収縮期血圧70mmHg未満と定義し,入院経過中のショックの有無から対象をショック群(A群;22例)と非ショック群(B群;74例)とに分け,臨床像および短期予後を比較検討した。両群の大多数が素因を有し,院内発症はA群の64%, B群の5%に認められた。初発主症状はA群では安静時呼吸困難が54%と最多で,失神および心肺停止がそれぞれ23%であった。B群では胸痛が43%と多く,次いで労作時呼吸困難が22%,安静時呼吸困難が15%にみられ,失神は5%であった。心電図所見ではA群においてB群に比し高率に完全または不完全右脚ブロック,SIQIIITIIIパターンおよびV1~V3の陰性T波が認められた。断層心エコー図上はA群の100%, B群の43%に右室拡大を認め,この所見を呈した症例はすべて広範性肺塞栓症であった。さらにA群で高率に右室自由壁運動の著明な低下を認めた。A群におけるショックは22例中18例(82%)で発症時または発症後30分以内に生じ,2例では第2~3病日に再塞栓に伴って生じたと思われた。A群の73%, B群の53%に線溶療法が施行されたが,線溶療法非施行5例を含むA群の15例(68%)が死亡した。以上の結果から,ショックを伴う急性肺塞栓症の短期予後は不良であり,静脈血栓塞栓症の危険因子保有者における予防的処置が重要と考えられた。また,断層心エコー図は広範性肺塞栓症による右室負荷を鋭敏に検出でき,発症早期に活用すべき検査法と思われた。

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