抄録
カイコの小顋に分布する味覚細胞のDDT感受性について電気生理学的方法によって次のことを明らかにした。
1) DDT自身はいずれの味覚細胞をも直接活性化しない。
2) DDT前処理(5秒間接触)を行なっても味覚刺激を行なわなければインパルスの発生はなく,したがって異常は観察できないが,味覚刺激を行なうと次のような影響が観察された。i)比較的低濃度のDDT前処理では一定時間後,味覚細胞の感受性が異常に高まることがイノシトール受容細胞で記録された。ii)ある濃度以上のDDT前処理により味覚細胞の各味覚刺激物質に対する反応は特有な反復興奮波を呈し,連続した衝撃波(train of impulses)を生ずる。極端に高濃度の場合には反復興奮波を生じた後,インパルスの高さは極端に小さくなり,ついには反応は消失した。iii)いずれの場合にもDDTの影響が現われるまでにはDDT接触後2分前後の潜伏期の存在が記録された。iv)まれではあったが,DDT前処理によってスパイクの陰性後電位が増大したとみられるものが記録された。
3) 同じ材料でも小顋に分布する味覚細胞の種類によって典型的な反復興奮波を生ずるに必要なDDT濃度は多少異なることが知られた。
4) 温度は味覚細胞のDDT感受性に大きな影響を及ぼし,15°Cから30°Cまででは低温になるほど感受性は増大した。
5) カイコの各種系統間で味覚細胞のDDT感受性をイノシトール受容細胞の興奮を用いて比較したが,それらの間にはあまり大きな差異はなく,それと各系統のLD50で表わされる感受性との間にはほとんど相関はみられなかった。