日本応用動物昆虫学会誌
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クワキジラミの生態ならびにその寄生がカイコの発育に及ぼす影響について
桑山 覺
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1971 年 15 巻 3 号 p. 115-120

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抄録

1) 本報には,わが国において桑樹主要害虫の一つとして知られたクワキジラミAnomoneura mori SCHWARZ (1896)の生態,ならびにその寄生がカイコの発育に及ぼす影響について,調査した結果の大要を報告した。
2) 本種は年1回の発生で,成虫態で越年し,北海道では5月下旬頃,新葉の開く直前の桑樹に来り,葉の開展を待って産卵する。産卵は主として葉裏になされ,発生の多いときは1葉数百粒に及ぶことがある。卵期およそ18日,ふ化した仔虫は葉裏にあって汁液を吸収し,腹端より細長い糸状の白色ろう質物をラセン状または屈曲して分泌する。このため葉裏は一面に白綿にて覆われた観を呈する。仔虫期間およそ22日,この間4回脱皮し,5令を経て成虫となる。1雌の産卵数は平均440粒。
3) 成虫の色彩は羽化後間もない期間と,越年したものとの間では大いに異なる。羽化後間もないものは全体淡青緑色で,前翅もほとんど透明であるが,羽化後時間の経過と共に色彩を変へ,体は暗褐色となり,前翅には多数の黒褐色小点紋を密布する。仔虫は令を加えるごとに触角の節数を増加する。すなわち第1令から第5令に至る触角節数は3:3:4:8:10である。翅芽は第1令の未期から認められる。
4) 桑葉に付着しているキジラミの卵および第1∼第3令までの仔虫をカイコに給与するときは,第3令以後のカイコは,それらを嫌忌することなく,桑葉と共に咬食嚥下する。
5) カイコがキジラミ卵ならびに仔虫を摂食するときは,発育に障害があるもののようで,上簇をおくらせ,繭重を減じ,繭形を小さくする。また疾病に対する抵抗力を減じへい死率を増加する。それより羽化した成虫は生存期間を短縮する傾向がある。このことはキジラミ卵ならびに仔虫そのものによる中毒などのような直接の影響とするよりも,それらを摂食することにより栄養不良を惹起しそれに伴う間接の影響と見るべきもののようである。

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