抄録
ノシメコクガの老熟幼虫の越冬に伴う発育休止を実験的に研究した。米ぬかを餌として実験条件下で飼育したノシメコクガの老熟幼虫は,温度条件により休止する場合としない場合があり,発育初期は高温,発育後期は中間的な温度で飼育すると終令において休止する。しかし4∼5令まで高温で飼育したものは中間温度に移されても,もう休止せずに蛹化するものが多くなる。
休止個体は非休止個体と形態的にも生理的にも明らかに異なったものとなり,体型,体色,生体重,含水量,発育の進み方,耐寒性などにおいて両者は著しい差異を示す(第1表)。
これによると,ノシメコクガの休止幼虫は高温では蛹化阻止が実際上存在しないが,中間温度以下では“休眠”とよく似た特徴を示す。発育休止のステージが定まっていること,体重,含水量の変化もまた休眠の一般的性質と一致する。このことから,ノシメコクガは単なる寒冷による発育の一時的休止ではない特別な型式の休眠を行うと考えられる。この型式の休眠を行う昆虫は他にもあるのではないだろうか。