ウンシュウミカン幼木園においてアゲハ卵の空間分布を経時的に調査し,母蝶の産卵行動の観察に基づいて空間分布の成立過程を明らかにした。
ほ場に飛来した母蝶は,ジクザグまたは直線的に一方向に移行しながら産卵し,途中ですでに訪問した木にもどることはまれであった。しかし,ほ場に侵入直後には同一の木に続けて産卵する習性を有すること,および環境に異質性が存在したために,多数個体による産卵の累積結果である卵の空間分布は周年集中的であった。
環境の異質性をもたらした要因の1つは,木毎の新葉数の違いであった。木当り新葉数の変動係数は萠芽初期に大きく,展葉がすすむとともに低下した。このため,春芽の展葉期には,時間の経過にともなって卵の分布集中度は低下した。しかし,夏・秋芽の展葉期には準新葉が環境を一様化していたと考えられ,分布の集中度はどの時期も低かった。
調査結果の考察に基づいて,より広いミカン園におけるアゲハ卵の空間分布の特性を予測した。