抄録
2・3化混発地におけるイネカラバエの発生生態を知るために,新潟県鹿瀬町産の越冬幼虫を高田へ移し,大曲産および高田産個体群と比較しながら種々の発育生態実験を行ない次のような結果を得た。
1) 秋越冬寄主植物とともに高田へ移した鹿瀬産および大曲産イネカラバエの翌春における幼虫発育速度,および第1化期成虫羽化時期を高田のものと比較すると,高田が最も早く,鹿瀬,大曲の順に遅れた。
2) 越冬世代蛹の蛹期間はごく初期に蛹化した個体のうちに高田のものと同程度に短いものが少数見られたが,その他は大曲産と同程度の長期を要した。
3) 第1化期成虫羽化消長曲線も,越冬世代蛹期間の変異分布曲線も明りょうな2山型とはならず,したがって第1化期成虫を2化性および3化性個体に2群別することはできない。
4) 第1化期幼虫には高田の個体群のように後期に大並列食痕を出現し,数枚の食葉で蛹化する発育の早い個体と,大曲産のように幼穂を食った後に蛹化する発育のおそい個体の他に,大並列食痕を出現したが幼虫期間の長い少数の個体も見られた。
5) 第1化期に早期に羽化した成虫からは発育の早い個体が高率で出現し,後期に羽化した成虫からは発育のおそい個体が大部分で,第1化期発育遅延個体の割合はふ化食入時期の遅れる程増大した。
6) 早発育個体だけについていえば,ふ化時期の早晩にかかわらず幼虫期間30日以下の個体が多数を占めた。
7) 鹿瀬産越冬幼虫のうち発育速度中位の個体の子世代虫の発育変異と,大曲と高田の交雑F1の発育変異は互いに似ており,ともに発育の早い個体とおそい個体が多く,中間の個体は少なかった。
8) 鹿瀬個体群および大曲×高田の交雑個体群については両者とも早発育個体群からは早発育個体が,発育遅延個体群からは発育遅延個体がそれぞれ高率で出現し,発育速度の変異について両者相似の結果が得られた。
9) 上記のことから,鹿瀬産で代表されるような2・3化混発地の個体群は,2化性および3化性個体の自然交雑に由来するものであると推察され,現地における交雑の機会についても言及した。