2000 年 4 巻 1 号 p. 79-86
本研究の目的は,台湾における老人虐待の実態を把握し,日本と比較することを通して,老人虐待の予防と支援に関する示唆を得ることである.対象は台北市12区の保健所の全保健婦で,1995年に実施された埼玉県の老人虐待実態調査と同じ内容の台湾版自記式質問用紙にて調査を行った.結果,以下のことが明らかになった.1)台北市の被虐待老人には自立した独居老人が多く,親の介護の責任については,台北市では嫁ではなく息子本人に求める傾向があった.2)埼玉県と同様,台北市においても,虐待の発生に大きく影響していたのは,親子関係や嫁姑関係といった人間関係であり,また虐待の発生に,必ずしも身体的依存の程度が影響しているとは限らなかった.3)台北市が現在提供しているサービスの量や他職種との連携によるサービスは十分とは言えなかった.以上,今回の結果から老人虐待の介入において,台湾における老人虐待の特徴を踏まえ,家族関係の調整をはかることや社会サービスの早急な整備が重要であることが示唆された.