日本助産学会誌
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原著
緊急帝王切開分娩した女性の陣痛,手術および産褥1週間の体験
横手 直美
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2008 年 22 巻 1 号 p. 37-48

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抄録

目 的
 本研究は緊急帝王切開分娩した女性の手術決定前の陣痛体験,手術による出産体験,産褥1週間の体験を明らかにすることを目的とした。
方 法
 民間の産婦人科病院において緊急帝王切開で生児を出産した日本人女性11名に対し,半構成的面接を産褥2日目と7日目に行い,産褥入院中の参加観察を行った。面接内容は録音し,逐語記録を作成した。得られた記述データは質的帰納的に分析し,意味内容の解釈を補強するために参加観察によるフィールド・ノートを活用した。
結 果
 初産婦7名,経産婦4名,計11名が本研究に参加した。主な手術理由は,胎児仮死9名,分娩停止2名であった。手術決定から児娩出までの時間は15~69分であった。女性の体験は,【突然の裏切りによる衝撃】,【逃れられない恐怖と責任】,【重圧からの開放】,【恐怖と痛みの再体験】,【子どもがここにいることの救い】,【堂々巡りからの脱出】という6つのテーマで構成された。緊急帝王切開による出産体験に対する女性の否定的感情は,辛い陣痛,突然手術になった衝撃,胎児あるいは胎児と女性自身の両方に死が迫る恐怖,無力感と罪悪感が影響していた。しかし,術後には,女性は帝王切開だったからこそ無事に生まれることができた子どもに対して強い愛情を持ち,助産師や看護者のサポートを得ながら,母乳育児や子どもの世話を熱心に行っていた。
結 論
 本研究の知見は,緊急帝王切開の可能性に関する情報とそれについて話し合う機会を妊娠中の出産準備クラスにおいて提供する必要があること,手術室や産褥棟での助産師らによる情緒的支援が女性の緊急帝王切開に対する否定的感情を低下させ,母親としての体験を高めるために有用であることを示唆している。また,医療者は緊急帝王切開周辺の体験が女性にとってトラウマとなりうることに気づくべきである。

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© 2008 日本助産学会
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