日本助産学会誌
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22 巻, 1 号
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総説
  • 藤原 ゆかり
    2008 年 22 巻 1 号 p. 7-16
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/10
    ジャーナル フリー
    目 的
     culturally congruent careの概念を分析し,日本における外国人へのケアの基盤づくりの示唆を得ることを目的とした。
    方 法
     Rodgers(2000)の概念分析のアプローチ法を用いた。データの収集方法は4つのデータベースCINHAL(1982-2006),MEDLINE(1966-2006),PsycINFO(1806-2006),医中誌Web(1983-2006)を使用し,キーワーズを「culturally congruent care」あるいは「culture congruent care」,として文献検索を行った。総数は62件であったが,今回は国内で入手可能な22件,マニュアルサーチの文献9件を追加し,31件を対象とした。
    結 果
     5つ属性,1)人々がケアの中心である,2)文化に対する多様な視点を包含する,3)違いを理解して受容する,4)柔軟に対応できる,5)社会の変化に調和している,が,また4つの先行因子,1)社会的要因:多文化・多民族社会,2)対象者の要因:意思が伝わらない苛立ち,3)対象者と看護者の要因:価値観の衝突,4)看護者の要因:文化を持つ人間への注目の欠如,が抽出された。さらに4つの帰結,1)ケアに対する満足の高まり,2)QOLの向上,3)専門職としての能力の向上,4)ストレス・トラブルの減少,と,1つの関連概念(culturally competence care)が導き出された。分析の結果,本概念を「対象者と看護者の文化的な相違を理解し受容した上で,ケアの中心である対象者の文化的背景を考慮して柔軟に調整できる社会構造の変化にも調和したケア」と再定義した。
    結 論
     culturally congruent care(文化を考慮したケア)は,ケアの対象をどのような視点で捉えるかを選択することにより,対象のもつ文化的背景の解釈が異なっていた。今回は日本における外国人ケアへの基盤となるような概念を分析することを目的としたが,対象をどのような視点から捉えて,「culture(文化)」をどのように理解するかにより,culturally congruent careの内容は変化するといえる。外国人人口が増加している日本において,より「個」を重視するケアが重要となり,culturally congruent careは看護の発展に貢献する概念であるといえる。日本におけるculturally congruent careの提供について更なる検討が必要である。
原著
  • 川野 亜津子, 江守 陽子, 宮川 幸代
    2008 年 22 巻 1 号 p. 17-24
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/10
    ジャーナル フリー
    目 的
     産後の母親のPOMS(Profile of Mood States,以下POMSと記す)による心理的状態と,唾液中ストレス指標(SIgA濃度,cortisol濃度)との関連を明らかにする。
    対象と方法
     本研究は相関関係検証型の研究であり,対象は産後2週の母親22名である。データ収集及び分析は,POMS心理尺度による心理測定と,ストレス指標として唾液中のSIgA濃度,cortisol濃度を測定し,心理的状態および唾液中ストレス指標相互の相関関係を分析し,その関連について抽出した。
    結 果
     唾液中cortisol濃度はPOMSのT-A(緊張─不安)と正の相関があり,他のネガティブな感情を示すPOMSスコアとも正の相関の傾向を示した。一方,ポジティブな感情であるV(活気)スコアとは相関がなかった。唾液中SIgA濃度に関しては,POMS点数との相関は認められなかった。
     また,唾液中SIgA濃度と唾液中cortisol濃度との相関は認められなかった。
    結 論
     POMS心理尺度においてT-A(緊張─不安)のスコアが高い母親ほど,唾液中cortisol濃度が高値であり両者に関連が認められる。一方,ポジティブな感情スコアとの関連はみとめられない。また唾液中SIgA濃度と唾液中cortisol濃度は互いに関連しない。したがって,ストレス指標としての唾液SIgAとcortisolは互いに異なるストレス状況を反映している可能性がある。
  • 田淵 紀子, 島田 啓子, 亀田 幸枝, 関塚 真美, 坂井 明美
    2008 年 22 巻 1 号 p. 25-36
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/10
    ジャーナル フリー
    目 的
     生後1ヶ月児の泣きに対する母親の困難感とその感情に関連する要因を明らかにすることを目的とした。
    対象と方法
     北陸地方の病産院にて出産し,1ヶ月健診時に調査の同意が得られた母親を対象に,自己記入式質問紙調査を実施した。調査内容は,児の泣きに対する母親の困難感と,その関連要因として,児の泣きの性質や母親の睡眠・授乳状況,サポート状況などの質問項目を設定し,各々4段階リカート尺度で点数化した。
    結 果
     有効回答は,初産婦298名(47.3%),経産婦332名(52.7%),合計630名であった。全体の約半数の母親が,児が泣くと戸惑ったり,抱いたり,あやしても泣きやまない困難な状況を経験していた。困難感を示した母親は,小さな子どもと接したことのない初産婦に多く,子どもの泣き方が特徴的であったり,なかなか寝入らないなど,子ども側の要因と母親の生活状況,育児に対する負担感や自信感等の母親側の要因が困難感に関連していた。
    結 論
     生後1ヶ月時の母児の支援には,児側の要因と母親側の要因の双方に着目し,児の泣きの特徴や,母親の疲労状態,育児に対する気持ち等に注意を向け,母親が児の泣きをどのようにとらえているのかを知ることが重要であり,これらのスクリーニングの必要性が示唆された。
  • 横手 直美
    2008 年 22 巻 1 号 p. 37-48
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/10
    ジャーナル フリー
    目 的
     本研究は緊急帝王切開分娩した女性の手術決定前の陣痛体験,手術による出産体験,産褥1週間の体験を明らかにすることを目的とした。
    方 法
     民間の産婦人科病院において緊急帝王切開で生児を出産した日本人女性11名に対し,半構成的面接を産褥2日目と7日目に行い,産褥入院中の参加観察を行った。面接内容は録音し,逐語記録を作成した。得られた記述データは質的帰納的に分析し,意味内容の解釈を補強するために参加観察によるフィールド・ノートを活用した。
    結 果
     初産婦7名,経産婦4名,計11名が本研究に参加した。主な手術理由は,胎児仮死9名,分娩停止2名であった。手術決定から児娩出までの時間は15~69分であった。女性の体験は,【突然の裏切りによる衝撃】,【逃れられない恐怖と責任】,【重圧からの開放】,【恐怖と痛みの再体験】,【子どもがここにいることの救い】,【堂々巡りからの脱出】という6つのテーマで構成された。緊急帝王切開による出産体験に対する女性の否定的感情は,辛い陣痛,突然手術になった衝撃,胎児あるいは胎児と女性自身の両方に死が迫る恐怖,無力感と罪悪感が影響していた。しかし,術後には,女性は帝王切開だったからこそ無事に生まれることができた子どもに対して強い愛情を持ち,助産師や看護者のサポートを得ながら,母乳育児や子どもの世話を熱心に行っていた。
    結 論
     本研究の知見は,緊急帝王切開の可能性に関する情報とそれについて話し合う機会を妊娠中の出産準備クラスにおいて提供する必要があること,手術室や産褥棟での助産師らによる情緒的支援が女性の緊急帝王切開に対する否定的感情を低下させ,母親としての体験を高めるために有用であることを示唆している。また,医療者は緊急帝王切開周辺の体験が女性にとってトラウマとなりうることに気づくべきである。
  • 中川 有加
    2008 年 22 巻 1 号 p. 49-64
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/09/10
    ジャーナル フリー
    目 的
     本研究の目的は,正常に進行している仰臥位分娩において児頭娩出から躯幹娩出に至るまでの会陰保護術に伴う介助者の手指・手掌にかかる圧力値を実測し,会陰への負荷を最小限にする助産術を開発することである。特に熟練助産師(以下熟練とする)と新人助産師(以下新人とする)を比較し,熟練の会陰保護術を圧力という視点から説明する。
    対象および方法
     研究条件を満たし,分娩予定日が2005年11月から2006年10月下旬までの初産婦,経産婦を対象とした。また分娩介助500例以上の熟練,分娩介助50例未満の新人を対象とした。研究に同意が得られ,実施できたのは初産婦17名,経産婦17名および熟練4名,新人11名であった。測定用具は,共和電業製超小型圧力変換器(PSM-1KAB),センサーインターフェースボード(PCD-300A)を用いた。予備研究で同定した助産師の右手4ヵ所および左手6ヵ所に超小型圧力変換器を貼付し,分娩介助を行った。排臨から児の躯幹娩出までをデータ収集時間とし,助産師の両手掌にかかる圧力値を左右別,手掌の区分別に基本統計を算出し比較検討を行った。今回の分析では,仰臥位分娩に限定して,熟練(4名)と新人(3名)を比較した。
    結 果
     熟練と新人の圧力値を比較すると,右示指指間小球(2),右示指中間(3),左第一関節と第二関節中間内側(6),そして左小指先(9)の使い方が異なっていた。【児頭娩出30秒前から児頭娩出まで】新人は,産婦の努責によって下降してくる児を押し返すように圧力を付加していたため,右示指指間小球(2)に圧力をかけて会陰保護術を行っており,その最大値33kPaは,熟練の2倍であった。一方,熟練は,努責に左右されず一定の圧力付加が認められた。その中でも,下降してくる児を受け止める動きのため,右示指中間(3)に圧力をかけて会陰保護術をおこなっており,その最大値29kPaは,新人の4倍であった。
     また,熟練は,児頭娩出をコントロールするために左示指第一関節と第二関節中間内側(6)に大きな圧力をかけて,児頭をつかむが如くに保持していた。その最大値18.8kPaは,新人の3倍であった。【発露から児頭娩出】にかけて熟練は,児頭を保持するが如くに小指先(9)に常に5kPa前後の圧力をかけて会陰保護術を行っているが,新人の圧力は0に等しかった。
    結 論
     言葉では表せず,伝えにくい助産師の会陰保護時にかかる圧力を工学器機により測定が可能であった。また,熟練と新人を比較することで熟練の技を目に見える形で表現できることが明らかとなった。
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