抄録
目 的
本研究は,ケンプ・アセスメントを用いて産褥早期に虐待スクリーニングを実施し,日本の医療施設での実用性について評価することを目的とした。
方 法
都市部の1か所の医療施設に入院中の褥婦に対し,ケンプ・アセスメントを用いてインタビュー法にて虐待のスクリーニングを行った。ケンプ・アセスメントは,米国で広く用いられている虐待スクリーニング尺度であるFamily Stress Checklistの日本語版である。10のカテゴリで構成され,評価基準を用いて0点,5点,10点の3段階でスコア化する。得点が高いほどリスクが高いとみなし,合計点数が25点以上で虐待のハイリスク者と判定する。
ケンプ・アセスメントを用いた虐待スクリーニングの実用性の評価は,スクリーニング方法,スコア化・リスク判定,フォローアップに関して,評価質問紙を用いて行った。本研究は,聖路加看護大学研究倫理審査委員会の承認を受けて実施した(承認番号08-049)。
結 果
研究の適格者92名中88名(95.6%)から研究協力が得られ,ケンプ・アセスメントを用いた虐待スクリーニングを行った。ケンプ・アセスメントの合計点数は,10カテゴリ全て「0点」という者が88名中23名(26.1%),平均値は9.8点(SD=9.8)であった。カットオフ値である合計得点25点以上であった8名(10.0%)がハイリスク者と判定された。
虐待スクリーニングのインタビューは,ほとんどの協力者に対して想定していた時期に実施できた。場所に関しては全てがよいと回答した。所要時間は25分から77分であり,40分以上が約半数であったが,負担と感じていたのは20.5%だった。60.0%以上がインタビューにより不安が緩和した,フォローアップにて提供した情報が役立つと回答した。ハイリスク者に対するフォローアップとしては,スクリーニングによって得られた背景的な問題や詳細状況を用いて担当助産師と相談の上,地域の保健所等と連携することができた。
結 論
ケンプ・アセスメントの実施評価から,スクリーニングによる協力者への害はほとんどなく,肯定的意見が多数得られた。さらに,スクリーニングによって多くのハイリスク者を継続支援へつなげることができた。ケンプ・アセスメントのスコア化の複雑さや退院後の継続支援検討,信頼性・妥当性の確保は課題であるが,ケンプ・アセスメントの産褥早期での実用の可能性が示唆された。