2025 年 39 巻 2 号 p. 290-301
目 的
本研究は羊水塞栓症を発症した産婦に対応した助産師の体験を明らかにし,羊水塞栓症発症に対する助産師の課題について考察することを目的とする。
対象と方法
羊水塞栓症を発症した産婦に対応した経験のある助産師5名に,半構造的面接を行い,羊水塞栓症発症の経緯に応じた助産師の対応や心理などの体験を尋ね,質的記述的に分析した。
結 果
研究協力者が対応した事例は全て子宮型羊水塞栓症であった。羊水塞栓症を発症した産婦に対応した助産師の体験として,66のコードが抽出され,そこから23のサブカテゴリーと7つのカテゴリーが生成された。羊水塞栓症を発症した産婦に対応した助産師は,初発症状の出現直後には【何をしても止まらない出血に恐怖を感じながら翻弄される】,【産婦の症状や周辺の動きから急変の兆候を察知する】,救急対応の開始以降には【産婦の急激な重症化の場面に衝撃を受ける】,【助産師として救急対応力のなさを思い知る】,【何が何でも産婦の命を助けたい思いが募る】,産婦への対応後には【産婦や家族に対する自責の念に駆られる】,【この体験を無駄にしたくないと切に思う】体験をしていた。
結 論
羊水塞栓症を発症した産婦に対応した助産師の体験として,何をしても止まらない出血に対する強い恐怖や,産婦の急激な重症化の場面への衝撃,対応後の産婦や家族に対する自責の念,この体験を無駄にしたくないという思い等,特徴的な体験が明らかとなった。助産師は,常に羊水塞栓症に対応する当事者意識を持ち,羊水塞栓症の特徴的な経過を理解し,日頃からの訓練や他部門との連携を進めることが重要である。また,対応した助産師へのメンタルヘルスケアの必要性も示唆され,羊水塞栓症を発症した産婦に対応した助産師の心理に関する理解が広まることも重要である。