論文ID: JJAM-2018-0038
目 的
自然分娩における女性の産痛経験を記述する。
対象と方法
本研究はMerleau-Pontyの現象学を哲学的基盤とした質的記述的研究である。研究協力者は自然分娩を経験し,産後6週間を経た女性9名である。非構造化面接によりデータ収集し,Pollioの現象学的アプローチの研究ステップを参考に分析を行った。
結 果
自然分娩における女性の産痛経験には〈自覚する〉,〈受け入れる〉,〈せめぎ合う〉,〈わかち合う〉,〈比較する〉の5つの構造があった。
〈自覚する〉経験は,産婦が産痛に対して既にもっている知識・情報を根拠として,自身の身体に知覚する痛みの様相が時間の経過とともにその知識・情報と一致していくことによって,確かに産痛が始まったと自覚する経験であった。
〈受け入れる〉経験は,産婦が産痛を分娩過程において意味のあるもの・必要なものとして認識する経験であり,産婦はそれぞれの仕方で産痛という現象を受け入れていた。
〈せめぎ合う〉経験は,産婦が強烈な産痛の状況において『自分自身を制御できるかできないか』の瀬戸際にいる経験であった。
〈わかち合う〉経験は,産婦が他者と交流することによって産痛が和らいだり,紛れたり,耐えられると感じている経験であった。
〈比較する〉経験は,産痛について事前に得た知識・情報,または過去の産痛経験や痛み経験と比較することを通して,今回の産痛を他の経験よりも痛かった,あるいは痛くなかったという感覚と結びつけ,自分の経験として記憶する経験であった。
結 論
自然分娩における産痛に対する女性への支援として,助産師はその産婦がもつ産痛に関する文脈を理解すること,産婦自身の産痛に関する感覚を尊重すること,産婦と信頼関係を築くと同時に産婦と周囲の人達の信頼関係の構築を支援することが求められる。