抄録
日本の多くの女性は, 子どもが生まれたら母乳で育てたいと考えて母乳ケアを受ける。心理的ストレスと母乳分泌の関連は明らかにされているが, 日本での母乳ケアの先行研究には乳房マッサージの技術の有効性に関するものが多く, 気持ちにかかわるケアを明らかにしたものは非常に少ない。本研究では, 病院および助産所で26名の助産婦が41名の母親に提供した母乳ケアを226回にわたって参加観察し, それらの記述をテーマ単位で540に区分して内容分析を行った。その結果,『母親への接近』(n=107; 19.8%),『母親の気持ちの支持』(n=181;33.5%),『哺乳技術の教育』(n=252; 46.7%) という3つのカテゴリーが得られた。この3つのカテゴリーは心理的ストレスを軽減させるかかわりを含むものであるが,『母親の気持ちの支持』は特にそのことに焦点を当てたものである。このカテゴリーは, 181単位のうち35.9%が不適切なケアを表すものであり, 他の2つのカテゴリーと比較して不適切なケアの割合が高かった。『母親の気持ちの支持』での不適切なケアは, 母親の母乳哺育への意欲を削ぎ母乳哺育の学習を妨げることにもなるので, 母乳ケアでの気持ちにかかわるケアを改善することはケアの質改善につながると考えられる。