植物研究雑誌
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短報
地衣類分布資料26ハイイロカラタチゴケとフクレカラタチゴケ
柏谷 博之 文 光喜韓 定殷竹下 俊治
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2025 年 100 巻 1 号 p. 78-81

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抄録

1) ハイイロカラタチゴケ(新称)Ramalina cinereovirens Kashiw., K.H.Moon & J.E.Han は韓国から記載されたが韓国産以外の報告はなかった (Kashiwadani et al. 2021).しかし,筆者らが2020年と2023年に行った隠岐諸島の地衣類調査中に島後島と知夫里島で本種が確認されたので報告する.本種の特徴は次の通りである:地衣体は樹枝状,淡灰緑色で上行または下垂して径3–4 cmのコロニーをつくる.枝は中空で表面は平滑,分枝の又付近ではやや偏圧される,径0.5–1 mm,穿孔は枝全体に亘って生じるが目立たない.粉芽や裂芽を欠く.髄層の菌糸は連続する.子器は枝の側部に生じ,距を欠く,径1 mm 以下.胞子は細長い楕円状,無色,2 室,12–14 × 3.0–3.5 µm.本種にはヂバリカート酸を含む型とセッカ酸を含む2型の化学変異が報告されている (Kashiwadani et al. 2021).今回の調査で確認されたものは全てセッカ酸を含む型であった.2) フクレカラタチゴケ R. intestiniformis Kashiw. & K.H.Moon は韓半島の海岸付近に多産し,日本では対馬諸島からの報告がある(Kashiwadani et al. 2019).隠岐諸島では非常に希で,島後島の「とかげ岩」付近の一カ所で見つかった.本種は海岸の岩上に生育するが,とかげ岩のように海岸から3.5 km ほど離れた内陸部で見つかったことは興味深い.これは生育地が北西風を直接受けるような環境であるため,海岸性の種の生育を可能にしていると推定される.また西ノ島の高崎山からR. almquistiiとして報告された2 標本 (Kashiwadani and Sasaki 1987)も再検討の結果,本種であることがわかった.本種は高山生のタカネカラタチゴケRamalina almquistii Vain. に酷似するが, 本種の髄層菌糸は連続して軟骨組織に密着するのに対し,後者の髄層菌糸は不連続の塊となり軟骨組織を裸出することで区別できる.

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