2025 年 100 巻 2 号 p. 117-123
本論文で新属 Hisatsugia Higuchi のタイプ種としたオオカギイトゴケは,仙台で採集された標本についてフィンランドの Brotherus によりシメリカギハイゴケ属(ヤナギゴケ科)の新種 Drepanocladus splendens と命名されていたものを,1935 年に飯柴永吉が正式に記載, 発表した種である.1955 年,野口 彰は千葉県成東産の標本から 1942 年に発表されたラッコゴケ属(ハイゴケ科)の Gollania subcochlearifolia Dixon & Thér. を調べる中で両種が同一であるとし,新組合せ Gollania splendens (Broth. ex Ihsiba) Nog. を提唱した.著者は本種が菱形で薄壁の葉細胞や基部の広い三角形の偽毛葉を持つことや生育地が低地の湿地であることなど,ラッコゴケ属の他の種とは異なる特徴が見られることから所属に疑問を持っていた.しかし,胞子体が見つかっていなかったことや新たな資料が得られないことから解決に至らなかった.2016 年,千葉県成東のコケ植物を長く調査している古木達郎博士により本種の胞子体をつけた植物体が発見され,その特徴を詳しく調べることができた.その結果,雌苞葉の先端はほぼ直立し反り返らないこと,蒴が短い卵形になること,外蒴歯の外側基部の表面構造が不規則な線状になること,間毛を欠くことなどの特徴を持つことが明らかになった.この特徴は本種がラッコゴケ属の種ではないことを示すとともに,配偶体の特徴と合わせ,ハイゴケ科及び近縁な科の属にも見られないことから今回,本論文で新属 Hisatsugia Higuchi オオカギイトゴケ属(新称)を設立し、そのタイプ種としたオオカギイトゴケについて新組み合わせ Hisatsugia splendens (Broth. ex Ihsiba) Higuchi を行った.