2016 年 91 巻 suppl 号 p. 83-98
系統進化のパターンに注目すると,海洋島での種分化には2 つの様式が見られる.一つは適応放散的種分化に代表されるcladogenesis(分岐を伴う種分化)で,島に侵入した祖先が複数の種に分化している様式である.もう一つはanagenesis(分岐を伴わない種分化)で,島に侵入した祖先系統が分岐せずに時間と共に変化し,母種とは異なる種に分化している様式である.anagenesis に起源する固有種の遺伝的特徴を調べた研究は極めて少なく,cladogenesis に起源する固有種の遺伝的特徴と比較することで,海洋島における種分化過程の全貌が明らかになっていくことが期待されている.著者らは,固有種のほとんどが分岐を伴わない種分化を遂げたと推測されている韓国の鬱陵島の植物に着目し,AFLP やマイクロサテライトマーカーを用いて,その遺伝的特徴を明らかにした.鬱陵島固有種は大陸産の近縁種と同程度の遺伝的多様性を保持しており,島内の集団分化もほとんど見られなかった.この結果は,anagenesis に起源する固有種が局所適応によらず,大きな集団を保ちながら突然変異を蓄積し,種分化したことを示唆している.