2016 年 91 巻 suppl 号 p. 128-137
テンナンショウ属(サトイモ科)は著しい地理的分化を起こしているグループであり,国内におよそ60 分類群が知られている.しかし,分布情報の不十分さと誤同定がテンナンショウ属の分類および系統学的研究の妨げになっていた.著者はヒガンマムシグサ群について量的形態形質や染色体情報にもとづく分類の再検討を行なった結果,ヒガンマムシグサ群に6 分類群を認め,さらに,本群の染色体数は大部分が2n = 26 であることを明らかにした.また発芽第一葉と胚珠数を調べた結果,マムシグサ節ではムサシアブミを除き,発芽第一葉の形態が胚珠数とよく対応すること,またこれらの形質の組み合わせはテンナンショウ属の分類や系統解析に有効であることを示した.
テンナンショウ属には局所的に分布する種も多く,現在,25 分類群が絶滅危惧種に指定されている.それらの保全のためには,フェノロジー,性比,遺伝的多様性,送粉,分散構造などの知見が重要であると考えられる.また同時に,これら集団レベルのデータはテンナンショウ属の分類や種分化を考察するための有用な情報も提供してくれるであろう.