2016 年 91 巻 suppl 号 p. 217-230
ナルトオウギAstragalus sikokianus は韓国・日本の固有種として知られているが,朝鮮のA. koraiensis とブータン・中国西部の A. bhotanensis に類似しており,分類が混乱している.これら3 種の関係をはっきりさせるため,形態とnrITS とで比較研究を行った.形態的にはナルトオウギとA. koraiensis は区別できなかった.これら2 種と中国南西部のA. bhotanensis は葉,小葉,花序柄,花冠,萼および豆果で異なっていたが,中国北西部のA. bhotanensis にはナルトオウギと一致する特徴もあった.ITS 解析の結果,中国の A. bhotanensis は北西部と南西部のものは系統的に異なり,北西部のものはナルトオウギと単系統群をなすことが認められた.これらの結果から,ナルトオウギ,朝鮮のA. koraiensis,および中国北西部のA. bhotanensis はA. sikokianus となり,A. bhotanensis はブータン・中国南西部に分布することが分かった.また,ナルトオウギは韓国では仁川,江原道,慶尚北道,および全羅南道にあり,さらに隔離分布して,中国では甘粛省,陝西省および四川省にあることが明らかになった.