植物研究雑誌
Online ISSN : 2436-6730
Print ISSN : 0022-2062
ISSN-L : 0022-2062
日本産ハエドクソウ属 2 種の輪郭
遠藤泰彦宮内智成
著者情報
ジャーナル フリー

2017 年 92 巻 1 号 p. 1-11

詳細
抄録

 日本においてハエドクソウ属は形態の違いから2 型が知られており,これを品種の階級または変種の階級で分類するという考えがある.一方で,種の階級で分類するべきであるとする考えや同一種とする考えもある.本研究では,日本産ハエドクソウ属の形態変異の実態を明らかにし,その結果に基づいた,分類学的な取り扱いの提案を目的とした.

 本研究の結果から,ハエドクソウ属の以下に述べる形質に変異を認めた.花では,1)「 上唇弁の裂片部の幅(ul)」と「上唇弁の中央部の幅 (ulw)」の比 (ul/ulw),葉では,2) 個体中最長な葉柄を持つ葉の「葉身の幅 (lw)」と「葉身の長さ (ll)」の比 (lw/ll) である.結果として1)と2) の違いから,調査した植物群を2 群に分けることができた.つまり,ul/ulw が0.47–0.59 で,かつlw/ll が0.81–1.09 である群とul/ulw が0.74–1.02 で, かつlw/ll が0.43–0.61 である群である.これら2 群の間では1)と2) の特徴以外に,3) 下唇弁中央裂片の中央部の幅,4) 葉裏面の単位面積当たりの小区画数,5) 上唇弁の中央部の幅,6) 上唇弁の裂片の長さと下唇弁の中央裂片の長さの比,についても顕著な違いがあった.以上により日本産ハエドクソウ属の2 群を種の階級で分類することを提案する.2 群のうち,前者はハエドクソウ(チャボハエドクソウ)Phryma nana Koidz.,後者はナガバハエドクソウ(ヒメハエドクソウ)P. oblongifolia Koidz.に相当する.なお,本研究では同属の日本産分類群の選定基準標本の指定を併せて行った.

著者関連情報
© 2017 植物研究雑誌編集委員会
前の記事 次の記事
feedback
Top