2017 年 92 巻 1 号 p. 12-19
中国固有のHeterolamium 属(シソ科)の系統的位置については今もなお議論が絶えない.本属は,形態的特徴にもとづき,オドリコソウ亜科LamioideaeのStachydeae 連とSaturejeae 連の姉妹群であるHeterolamieae 連の唯一の属と考えられてきた.しかし,花粉学的解析によると,本属はイヌハッカ亜連Nepetinae の残りの属と姉妹群を構成するとされた.そこで,核と色素体のゲノムを用いる分子系統学研究によって,本属とハッカ連イヌハッカ亜連との関係を調べた.その結果,Heterolamium 属はイヌハッカ亜連の一員であるという結論を得た.イヌハッカ亜連には二つのクレードがあり,クレードI にはHeterolamium 属やイヌハッカ属など6 属が含まれ,クレードII にはラショウモンカズラ属Meehania,ムシャリンドウ属Dracocephalum,カキドオシ属Glechoma,カワミドリ属Agastacheなど6属が含まれることが明らかになった.さらに,萼筒に15 脈があることや雄蕊が花冠から長く突き出すことなど,いくつかの形態的特徴はイヌハッカ亜連の種と似ていた.このことは我々が得た結論を強く支持している.