植物研究雑誌
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アジア産トリカブト属植物(キンポウゲ科)の分類学的研究 XVI.群馬県奥多野地方産トリカブト亜属の1新種,サンチュウトリカブト
門田裕一
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2019 年 94 巻 3 号 p. 153-158

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抄録

群馬県多野郡上野村(奥多野地方)からトリカブト属トリカブト亜属(キンポウゲ科)の1種,サンチュウトリカブトAconitum ohmorii Kadotaを記載した(Figs. 1, 2).サンチュウトリカブトはコウライブシ(ミツバトリカブト,アレナブシ)A. jaluense Kom. subsp. jaluenseおよびその亜種センウズモドキsubsp. iwatekense (Nakai) Kadota [= A. iwatekense Nakai]に,茎葉の葉身が3裂し,花柄に滑面開出毛をもつ点で似るが,①花弁(蜜弁)の舷部が膨大せず,②太くかつ長く,先端部が強く巻く距をもち,③葉身が3中裂〜深裂し,葉裂片に粗い鋸歯があり,④上萼片(かぶと)の嘴が短く,⑤袋果がより小型である点で異なる.コウライブシは上記の①〜⑤の形質のほか,⑥雄ずいが無毛で,⑦花柄が長さ3–4 cmとより長い点で区別される.

 本種の学名は発見者の大森威宏に因み,和名は分布域が山中地溝帯の中核部に位置するためで,大森の発案にもとづく.

 サンチュウトリカブトは石灰岩植物で,石灰岩壁から懸垂したり,石灰岩壁直下の崖錐上の急斜面に生育する.本種は分布域が狭く,個体数も少なく,絶滅が危惧される植物の一つである.基準産地の周辺ではカワチブシA. grossedentatum NakaiやヤマトリカブトA. japonicum Thunb. subsp. japonicum [= A. japonicum Thunb. var. montanum Nakai]が同所的に生え,サンチュウトリカブトとの間の種間雑種,さらには問題の3種が関連した三重雑種が見られる.

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