2026 年 26 巻 1 号 p. 89-99
本論は、今 敏(こん さとし)のアニメーション作品『千年女優』と、『東京ゴッドファーザーズ』を対象とし、両作品における「他者」の表象をレヴィナスの倫理思想を通して考察する。『千年女優』は、生涯にわたり「鍵の君」を追い続ける千代子の語りを通じて、他者を自己の物語へと回収する〈全体性〉の構造を体現する。他方、『東京ゴッドファーザーズ』は、偶然に出会った「赤ちゃん」=〈顔〉を通じて、無条件の応答責任に開かれる世界を描く。両作品を対照することで、今 敏が現代における倫理・道徳指針の揺らぎに異なる仕方で応答し、自己愛の肯定と他者への応答という二つの極から倫理を照射していることを明らかにする。