アニメーション研究
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最新号
選択された号の論文の16件中1~16を表示しています
特集論文
  • 森 祐治
    2023 年 23 巻 1 号 p. 3-13
    発行日: 2023/01/31
    公開日: 2023/02/11
    ジャーナル フリー

    日本のアニメ産業の中核であるテレビアニメは、派生商品(デリバティブ)や異メディア間での作品流通(バージョニング)を組み合わせたメディアミックス手法によるビジネス展開を行うことが多い。これまでメディアミックスの起源として、作品性や表現的優位からの説明が行われることが多かった。現実には、テレビアニメはその成り立ちよりテレビ局からの制作費用負担は原価の一部のみで、テレビ放映では経済的に完結せず、メディアミックスからの収益が不可欠なビジネスという経済モデルから説明がなされることはなかった。そこで、本論ではテレビアニメ初期、アニメブーム勃興時、そして製作委員会の成立後の3つの時代の事例から、一貫してテレビアニメであってもテレビ・ビジネスのみに依拠するのではなく、メディアミックスによる事業展開が経済的に前提となっていることを示す。

特集招待論文
  • 木村 智哉
    2023 年 23 巻 1 号 p. 15-27
    発行日: 2023/01/31
    公開日: 2023/02/11
    ジャーナル フリー

    現代のアニメーション産業への関心に比べ、その歴史の研究事例は少ない。これは学術研究上のディシプリンや課題の説明が、アカデミアに不足しているからである。本稿ではその解決を試みる。歴史研究を例にとれば、ポピュラー文化に関する記述は、まず通俗的社会批評により始められた。そして次に、社会史によるメディアの政治性の研究が行われた。しかしこれらの研究は、社会批評や社会史の関心を再確認する過程に留まる傾向があった。人文・社会科学一般の方法論に視点を広げれば、産業や企業の役割よりもユーザーの営みに注目することが主流である。だがこうしたアプローチは、文化産業が組み込まれている資本の論理には関心が薄い。アニメーション産業史の研究は、ポピュラー文化と資本の論理の関係についての議論をもたらし、その構造がいかに歴史的に変化したのかの事例研究を導くことで、人文・社会科学の方法論と視点を更新する大きな可能性を持つ。

  • Shintaro Matsunaga
    2023 年 23 巻 1 号 p. 29-40
    発行日: 2023/01/31
    公開日: 2023/02/11
    ジャーナル フリー

    日本のアニメ産業を支えるアニメーターの多くはフリーランサーとして働いていることが知られているが、彼らがどのようにして不安定性を含む労働に対処しているのかについては十分な議論がされてこなかった。本稿では、労働社会学で議論されてきた、複数の仕事の組み合わせ方を捉える「ポートフォリオワーク」の視点に基づき、アニメーターが日々の労働のなかで直面する無収入などのリスクに対して行っている個人的・集団的な対処について、スタジオでのエスノグラフィーに基づき明らかにした。

    アニメーターはしばしば当人に責任のない形で無収入になるリスクに晒されるが、ベテランについてはあらかじめそのリスクが顕在化する時期を見越して短期的な仕事を確保しておくなどの対処を行っていた。若手アニメーターはそうした対処が難しい場合があり、その場合はスタジオの支援を受けながら仕事を獲得していた。このことはフリーランサーであるアニメーターも組織の管理を受けることを意味するが、その管理はアニメーターが持つ作品制作に関わる意向が尊重されることを前提として成り立っていた。これらの知見は、アニメーターがフリーランサーとして働くことの意義を示しており、今後いかなる働き方がアニメーターに適しているのかを考察する際の参照点として有効である。

特集研究ノート
特集招待研究ノート
論文
  • バロリ アルバナ
    2023 年 23 巻 1 号 p. 53-66
    発行日: 2023/01/31
    公開日: 2023/02/11
    ジャーナル フリー

    アルバニアのアニメーションは社会主義時代の1975年から作り始められ、多くのヨーロッパの国々に比べるとより遅く誕生している。本論文では社会主義体制であった1980年代に製作された9本の大人向けアニメーションに焦点を当てる。

    社会主義に賛同していた人、洗脳されていた人もいれば、制度に迫害されて苦しんでいた人、不満を持った人、そして社会主義のメリットとデメリットをよく理解していた知識人もいた。作品をどのように受け取るかは見る人の立場によって違ってくる。社会主義体制においては制作者が政府のイデオロギーに従わないといけない現実があったが、芸術と政治的プロパガンダは矛盾する側面を持っている。このことはアルバニアの大人向けアニメーションではどのように表現され、さらに、政治的プロパガンダの強制下でアニメーション芸術家はどのように芸術としての自律性を保っていったのだろうか。

  • 早川 めぐみ
    2023 年 23 巻 1 号 p. 67-75
    発行日: 2023/01/31
    公開日: 2023/02/11
    ジャーナル フリー

    この論文では、1930年代のアメリカのカートゥーン・アニメーションを対象に、「蜘蛛の巣」がナラティヴ上および空間上果たしうる機能について、当時の技術的制約やアニメーションスタイルを踏まえた上で考察した。蜘蛛の巣はそのシンプルで独特な形状から、様々なモノとなり登場する。蜘蛛の巣はまた「時の経過」を暗示し、寂しさや貧しさといった印象を与える。更にその網目状の構造から、蜘蛛の巣は様々な「奥行きの手がかり」として機能し、二次元世界に奥行き感を付与している。その透過性は、複数のレイヤーを重ねるセル・アニメーションの空間構成においても有利に働く。『風車小屋のシンフォニー』で蜘蛛の巣が形成する「面」は、マルチプレーン・カメラによって作られる奥行き感を強調している。また、繊細な蜘蛛の巣の描写は、ディズニー・スタジオの高度な色彩技術と洗練された描画技術を示す最適なショーケースとしても機能している。

  • 一藤 浩隆
    2023 年 23 巻 1 号 p. 77-87
    発行日: 2023/01/31
    公開日: 2023/02/11
    ジャーナル フリー

    映像作品の計量的研究であるシネメトリクスでは、ショットの平均持続時間に注目したものが存在するが、この分野の発展のためには別の指標も必要である。本論はその指標を提案し、検証することを目的とするものである。ここではショットサイズに注目し、それに対する既存の研究を整理して新たな指標を提案する。対象として、書籍として出版されているため執筆者の特定が容易であり、指標を採集しやすい絵コンテを採用することとし、手塚治虫の作品に対してこの指標を適用した。手塚は、テレビアニメーションを開始する際に必要であった経費削減のため、ショットサイズに独自の傾向があると指摘されている。それを対照的な経歴を持つ宮崎駿の絵コンテと比較することによって、指標の検証を行うことができると考えた。統計的な検証の結果、手塚と宮崎のショットサイズには有意の違いが認められ、ショットサイズは指標として有効であることが示された。

  • 雪村 まゆみ
    2023 年 23 巻 1 号 p. 89-100
    発行日: 2023/01/31
    公開日: 2023/02/11
    ジャーナル フリー

    アニメ聖地巡礼の世界的な人気を背景に、その経済効果を期待している地域社会も多い。本研究の目的は、アニメ聖地巡礼がアニメーションをめぐるアート・ワールドをいかにして地域社会のなかで拡張していくのか、検証することである。まず、ロケハンや遠近法の開発を事例に、キャラクターだけでなく背景美術への着目度が高まったことを明らかにした。つぎに、能動的オーディエンスは、聖地巡礼の興隆以前からアニメーションの視聴にとどまらない消費を雑誌上で行ってきたことを指摘した。背景美術が着目されることで、聖地巡礼が盛んにおこなわれるようになったが、それは日常のありふれた場所であることも多い。現実空間と作品を結びつけることで、そこに新たな文化的価値が創出される。アニメーションをめぐるアート・ワールドが地域社会と重なり合いながら醸成していくことで、開発によって失われていた地域社会における中心が取り戻されようとしている。

  • 張 影
    2023 年 23 巻 1 号 p. 101-113
    発行日: 2023/01/31
    公開日: 2023/02/11
    ジャーナル フリー

    20世紀の中国のアニメーションは、各時期の環境に大きな影響を受けている。とりわけ、戦時下(1937–1945)という特殊な時期に制作されたアジア初の長編アニメーション『鉄扇公主』は、当時の多層的な社会構造や複雑な政治状況を反映していたと考えられる。本稿は、租界都市上海という特殊な環境を捉えながら、『鉄扇公主』に込められた意味を再検討するものである。

  • 早川 めぐみ
    2023 年 23 巻 1 号 p. 115-122
    発行日: 2023/01/31
    公開日: 2023/02/11
    ジャーナル フリー

    「3つのC(コンテンツ、キャリア、コンテクスト)」とは、フィルム・アーカイブの分野において、映画のコンテンツは根本的にキャリアとコンテクストによって特徴づけられる、という考えに基き保存する対象を定義する一般的な概念である。本稿では、この「3つのC」を用いたアーカイブ的アプローチで行った、横山隆一のカラーアニメーション映画『おとぎ噺おんぶおばけ』の調査を事例研究として紹介する。この事例では、3種類のフィルムストックで構成された16 mmカラー反転フィルムという「キャリア」の検証と、上映環境(「コンテクスト」)に関する資料調査を中心に、さらに制作資料や横山本人の証言を参考にすることで、この歴史的作品のコンテンツをある程度補完することが可能となった。またセル画や背景画といった中間素材は、キャリアとコンテクストが関わる以前のコンテンツを規定する要素として、コンテンツの保存に欠かせない重要な資料であることを論じる。

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