2011 年 2011 巻 23 号 p. 74-99
本稿では、カトマンズの食肉市場を事例として、市場を介したカースト間関係の変容の様相を明らかにした。その際、カトマンズの先住民族である「ネワール」社会においてカーストに基づく役割として家畜の屠畜・解体や肉売りを請けおってきた「カドギ」 に焦点をあて、カドギとネワールの他カーストやムスリム等との交渉を検討した。
その結果、食肉市場の形成と他カーストの参入に伴い、カドギのカースト団体がその役割を拡大し、カーストという枠を維持しながら自分たちに引き付ける形でカースト・イメージを再解釈するエージェントとして立ち現われていることが明らかになった。この再解釈により、カドギたちは伝統的なカースト役割を単に再現するのではなく、カーストの上下に基づく儀礼を拒否するなど、結果としてカースト間関係に変化が生じている。この変化は、カドギの場合は生計活動とカーストが結びついていることから単純には個別化に向かわず、カースト役割と市場取引を並存させつつその間を往還しながらカーストの再解釈を図っていると位置づけることができる。