抄録
本稿は、1970年代から1990年代のインドにおける、1956年ヒンドゥー教徒相
続法の州別改正・新法制定と女性の教育水準との関係を検証している。改正に
より女性に不動産など合同家族財産の相続権が与えられ、性別における不平等
が是正されたことで、物的資本や人的資本に関する「相続」の枠組みが変化し
たと考えられる。本稿では、女性の教育水準の向上を人的資本投資の増加と捉
えたうえで、相続法改正と教育水準にいかなる関係が存在するのかを4 期間の
全国家族健康調査データにより検証した。分析では、改正州の土地所有世帯に
居住しているヒンドゥー教徒の世帯主の娘は、そうでない女性と比較すると有
意に教育年数が長く、新聞・雑誌を読む習慣があるという先行研究を拡張する
結果が得られた。ヒンドゥー教徒相続法の対象外であるイスラーム教徒やキリ
スト教徒のデータを活用して、宗教以外の条件が同じプラセボを作成し、結果
の頑健性の確認に使用したが、有意な教育水準の向上は認められなかった。