抄録
組織におけるハラスメントとは,立場の違いを利用して相手の権利や尊厳を脅かす人権侵害である。ハラスメント相談は,人権侵害に対応するという意味において,被害者のアドボカシー実践が主となる相談業務である。大学が設置するハラスメント相談室の多くは,被害を受けて混乱している相談者のニーズにこたえるため,心理職をハラスメント相談員として採用した。しかし,被害者個人の心のケアの視点のみで対応する心理職の従来のアプローチでは,ハラスメント相談対応として不適切なものになってしまうという問題が起きた。
本論では,心理職であるハラスメント相談員の活動の重点が,被害者個人の心のケアからアドボカシー実践へと変化したことを,マクロ・カウンセリングの理論枠組みを用いて論じる。そして昨今,心理職のアドボカシー・コンピテンシーが注目されるにあたり,この分野の研究の重要性を示す。