仏教は南アジアに端を発しながらも、インド本土での資料が限定されるため、 時代と地域を確定しうる資料を参照しつつインドにおける仏教の展開を論じる 必要がある。そこで、本稿は七種の実践徳目からなる三十七菩提分法に着目し、 最初に五世紀以前の中央アジア、東南アジアの考古資料、及び東アジアで選述 された漢語典籍において三十七菩提分法が仏陀の法を象徴するものとして理解 されていたことを論じる。そして、このアジア各地に広がった思想的営為が、 南アジアにおいても同時代的に流通していたことを明らかにすべく、下限年代 が五世紀以前のパーリ文献、及び漢訳仏典を、サンスクリット写本、ガンダー ラ写本などに照らしながら、分析する。これにより、三十七菩提分法を仏陀の 法の象徴と解釈する言説が、南アジアを起源として五世紀以前のアジア各地に 広まり、仏教世界全域に共時的に通底するものであったことが判明する。