1995 年 4 巻 1 号 p. 19-42
筆者らは、人工知能技術に基づく物語生成システムの開発とその応用に関する研究を行って来たが、応用の一領域として、マーケテイング過程と広告創作過程を一貫して支援するシステム(これをマーケティング/広告統合支援システム、MAISSと呼ぶ)の枠組みへの物語生成の導入を試みている。MAISSに物語生成機構を組み込む基本的方法論を開発し実験を行ったので、その内容を本稿にまとめる。MAISSは、マーケティングと広告創作の現状分析に基づく種々の問題を解決するために構想された枠組みであり、ターグットセグメントと商品を入力としてそれを事象化した有効生活シーンを生成し、さらにこれを物語形式に展開することによってマーケター及び広告クリエイターの作業を支援しようとするものである。現在、全体の基本設計が済み物語生成部分を中心にインプリメントが行われている。物語生成は、本構造として表現される物語を拡張ないしは変形するためのモジュール型手続きとしての物語技法と、その使用を制御するルール集合としての物語戦略という二つの概念に基づいて行われる。MAISSでの利用においては、まず上述の有効生活シーンを構成するセグメントのプロフイールや商品の属性を記述した上で、この事象を現実生活の一断面を表現する複数の事象の連鎖として展開し(提案生活シーン)、次にこの提案生活シーンにおける事象連鎖をもとにそれを物語的な構造に脚色する(創作シーン)。このような方法に基づく試作システムを開発し、物語生成実験を行い、さらに現場のマーケター及びクリエイターと議論を行った。その結果、システムの有効性が確認され、将来的に実用を想定したより本格的な実験が日程に上っている。