抄録
【序論】労働災害による熱傷 (以下, 労災熱傷) について当院での5年間の治療歴を集計し近年の動向を報告する.近年の症例を振り返ることで医療者が意識すべき点へ言及する.
【方法】2014年1月1日~2018年12月31日当科で治療を完結した労災熱傷35人, 36症例を対象にカルテで後ろ向き研究を行った. 1) 受傷年, 2) 職業, 3) 受傷機転, 4) 熱傷面積, 5) 熱傷深度, 6) 受傷から来院までの日数, 7) 治療内容を検討した. また, 8) 就業時, 熱傷を受傷した際の初期対応の指導有無, 9) 受傷直後の冷却有無, 10) 受傷から職場復帰に要した期間についてカルテ記載があった症例を検討した.
【結果】最も頻度の高かった症例に関して示す. 1) が2014年年間受傷者40%, 2) が飲食店従事者74%, 3) が高温液体による受傷53%, 4) が熱傷面積10%未満89%, 5) が熱傷深度SDB~DDB 80%, 6) が受傷当日の病院受診94%, 7) が保存療法71%, 8) 就業時, 受傷直後の対応について指導がなかった患者が26人中23人, 9) 初期対応として20分以上の冷却を行っていない症例が25人中16人, 10) 職場復帰に1ヵ月以上を要した患者が25人中12人.
【考察】熱傷受傷リスクの高い業種においても就業時に適切な初期対応の指導を行っていない. 適切な初期対応を就業時に指導することで, 労災熱傷の深度進行を防ぎ, 治療期間の短縮が期待できる.
【結論】医療者は患者が受傷前と同じ職場に復帰した場合, 再受傷のリスクがあり, また同職業者も受傷のリスクがあることを意識し治療に努めるべきである.