2012 年 26 巻 1 号 p. 40-46
生理学的状態が破綻した重症肝損傷において, 救命を主眼においたダメージコントロール手術の考え方は広く認知されている. しかし近年, 根治的治療法である定型的肝切除術による良好な治療成績の報告も散見されており, 広くコンセンサスの得られた外科的治療戦略は明確になっていない. 今回, 重症肝損傷例に対してダメージコントロール手術としてperihepatic packingを行った症例の治療成績を評価し, その有用性を検討した. 症例は当センターにてダメージコントロール手術を受けた重症肝損傷56例のうち III 型損傷45例を対象とした. いずれもダメージコントロールとしてperihepatic packingが実施され, それらの生理学的状態, deadly triadおよび予後について検討した. 45例はいずれもショック状態で (shock index 1.7±0.1), RTSとISSの平均値はそれぞれ4.6, 32.5であった. プロトロンビン時間は43.6%, base excessは−16.0, 体温は34.8度であった. 45例のうちperihepatic packing施行前のCPAおよび出血によらない他病死 (22例) を除く23例で予後を検討すると, 救命例は18例 (78.3%) であった. このうち腹部以外にAIS−4以上の損傷があるものを除外した15例では, 救命例14例 (93.3%) と良好な予後を示した. 重症肝損傷におけるperihepatic packingは確実な止血はもちろんのこと, 高い救命率を可能とする有効な一治療戦術と考えられる.