抄録
心理学における意思決定研究は、ヒトを対象とした認知内意、忠決定研究と、ヒトと動物を対象とした選択行動研究に大別される。これら二つの領域は、前者では質問紙法を用いた「認知的接近法」に基づいて、確率値が数値データとして与えられる選択場面を、後者ではオペラント条件づけの技法を用いた「行動的接近法」に基づいて、経験から確率値を獲得する場面を研究対象としている。本稿では、認知的意思決定研究において提起されてきた問題、すなわち、プロスペクト理論、ベイズ的推論問題、連言効果問題に対して行動的接近法を適用する新たな試みについて紹介し、二つの意思決定研究の融合可能性を検討した。その結果、選択行動研究のもとで発展してきた一般対応法則はプロスペクト理論と同様の予測を導出できること、また、ベイズ的推論および連言効果に対して行動的接近法を適用した研究では、「基礎生起率判断の誤り」や「連言効果」が学習性のものであることを示唆する結果が得られた。以上の事実は、行動的接近法に基づく研究が、これまで認知的意思決定研究が見落としていた部分を補完する役割を果たすことを示している。